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記事 25件
  • 【インタビュー】坂本崇博「〈仕組み〉に乗っかり〈仕方〉を変える」後編(PLANETSアーカイブス)

    2019-11-29 07:00  
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    今朝のPLANETSアーカイブスは、コクヨの社員として「働き方改革」をコンサルティングしている坂本崇博さんのインタビューの後編です。日本の企業の「働き方」を変えるためのさまざまな試みや、45歳での「社会的な死」と、その先にある第二の人生。さらに、実践的な「働き方改革」の方法、今あるリソースをフル活用する発想について伺いました。(構成:鈴木靖子)※この記事の前編はこちら。
    別の世界への想像力が自立を促す
    宇野 組織は変えられなくても、自分の「働き方改革」を始めようと考えている人は多いと思います。彼らに対するアドバイスや、上手くいくコツみたいなものはありますか? 
    坂本 基本的には、何でも試してみる精神が大事です。最初から成功させようと思うと萎縮するし、失敗したときはヘコみます。でも、お試しだと思えば、「このやり方では上手くできないという検証結果を発見できた」となる。つまり、失敗ではなくなるのです。  あとは、あまり大きなことから始めない。0から1はそう簡単に生み出せないので、ほかの人がやっていることを取り入れるところから始める。ただし、その中に少しだけ自分のエッセンスを加えるんです。例えば、私は会議や営業ノウハウ本を読んで、少し批判的に捉えて、その本を反面教師に「自分だったらこうする」という一人壁打ちをしています。だから、まず一度は本を読め、セミナーを聴きに行けという話でもありますが、その時常に「自分ならどう話すか、どうやるか」の視点で半分批判的に、つまりアウトプットを想定しながらインプットをすることが大事だと思います。
    宇野 お上は「働き方改革だ!」と旗を振っていますが、それに対して「実態とはかけ離れている」という現場からの批判の声もあります。そこについてはどうお考えですか?
    坂本 「今、流行っているから、とりあえず早く帰れ」というのは改革ではなくて「横並び」であり、それでは従来の働き方と同じです。現状の改革は、全てを一律的に解決しようとしていて、それを受けた従業員の働き方も一律的になってしまう。従業員一人ひとりに、もっと個性を持って動いて欲しいんです。個性を前面に出すことを好まない日本の文化の影響もあると思いますが……。  なぜ、私がそんなことを考えるようになったのかといえば、多分オタクだからです。これまで触れてきた虚構の数が違います。日本の現実社会にはない多様な個性や歴史、思想に触れてきました。現実とは違う世界に自分を置いたり、そのことで自分を客観視してきた経験がある。だから私は、日本人は全員オタクになればいいと思っているんです。どれだけ虚構に触れてきたか、子供の頃にそういう精神世界を持っていたかで、自分自身を確立できるかどうかが、ずいぶん違ってくる。
    宇野 この現実とは別の世界があると思えるか、思えないかですよね。
    坂本 最近「東京イノベーターズ」という異業種交流会を立ち上げたんです。企業内のイノベーターは独立してしまう人が多いんですが、大きな企業に所属しながら頑張っている人もいる。そういう人たちを集めて、「シリアル・イノベーターはなぜ育つのか」を考えていこうという会です。
     実際に社内で改革・新事業創造を進めたことのある10名ほどのメンバーがいて、定期的に「どんな環境でどんな経験をすればイノベーターは育つのか」をテーマにだべっています。面白いことに、メンバーの経歴を聞いてみると、大手メーカー勤務者の場合、6〜7割が労働組合の役員経験者なんですよ。大企業だと一般社員が会社経営に関わるシーンはほとんどありませんが、労働組合の役員になると労使協議会に呼ばれるので、若くても経営陣と話ができる。数字を見せられて会社の経営状態や他部署の状況を知ったり、組合というコミュニティに参加することで、自分の世界はひとつではないことを知る。そういう経験が何かを芽吹かせるんだと思います。  あと、3割の人が何らかの形で死を意識した経験があるんです。地震とか事故とかで。そういう人たちには「人生はめっけもの」「生きてさえいれば何でもできる」「生きているうちに何かやりたい」という感覚があるので、大胆にリスクを取れるのかもしれません。
    宇野 労働組合の役員経験というのは面白いですね。今の労働組合は形骸化していて、昔のようなバリバリの左翼はほとんど残っていませんよね。少額だけど手当が出るとか、たまたまバトンが回ってきたとか、その程度の動機で参加する人が多い。しかし、その機会が、結果的にライフスタイルデザインを自覚的に考えることを促しているわけですね。  今、30代以下の都心のホワイトカラーは、発想や考え方の面では新しいソフトウェアに更新されている人が多い。しかし、会社組織や官僚機構、社会的インフラといったハードウェアは古いままです。そして、彼らはスペック的には優秀であるにも関わらず、なかなか能力を発揮できずにくすぶっている。それは特に大企業に多い印象があって、彼らの中から「自分が変わろう」という人たちがたくさん出てくると面白くなると思います。
    坂本 宇野さんがおっしゃるように、仕組みはそう簡単には変わらないんです。長年の苦労によって、すぐには変化しない構造が作られてきたわけで、簡単に変わるようなら仕組みとはいえない。それは回り続ける巨大な鉄球のようなものです。だったら、その鉄球に乗っかってうまくコントロールすればいい。私の働き方改革のポイントは「今、動いている仕組みに乗っかりなさい」ということです。乗っかるほうが、起動するためのパワーがいらない分、効率的なんですよ。
    宇野 坂本さんは徹底的にハックの思想ですよね。一方で、坂本さんたちの活動の最大の障害、働き方改革の一番の論点は、比喩的に言うと「会社に長く残っていたい人たち」がいることでしょう。会議とは名ばかりの取引先の悪口大会に時間を費やして、生産性は上がらないし問題は1ミリも解決していないんだけど、なんとなく絆が深まった気がする。そういった不毛な時間の使い方が好きな人たちが、この国には多い。これは、正しさの問題ではなくて欲望の問題なので、ここを変えることは難しいと思うんです。
    坂本 まさにそうで、会社に社会を求め過ぎているんですよ。取引先の愚痴なんて、居酒屋で町内会の人たちとしていればいいのに、そういったコミュニティを持っていないから、会社内でやらざるを得ないんです。会社という仕事の場なのに「私事」の部分が多いんだと思います。見方によってはワークとライフの融合と言えるのかもしれませんが、それが今は悪い方に働いていますよね。要は、サラリーマンの「生き様」をもう少し変えないといけないということです。
    45歳の「社会的な死」で第二の人生を生きる
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  • なぜデモに暴力がともなうのか、その原因と意義|周庭

    2019-11-28 07:00  

    香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。流血の事態が続く香港の民主化デモ。警察の暴力的な対応のみならず、親中国派による襲撃も相次ぎ、混乱は増す一方のようです。なぜ民主派は武器を手に取るのか。11月24日に行われた区議会議員選挙の結果と合わせて、香港の「今」を報告します。(翻訳:伯川星矢)
    周庭 御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記 第32回 なぜデモに暴力がともなうのか、その原因と意義
    香港の戦いは、まだ続いています。
    香港人が求める「五つの要求」はいまだに達成されていません。そしてこの戦いは、わたしたちの「家」を守るための重要な一戦になりました。この原稿を執筆する数日前、警察は香港中文大学に攻め込もうとしました。学生、教師、卒業生たちは校門を死守し、警察の突入を許しませんでした。そ
  • 【新着動画】機動警察パトレイバー the Movie、ジョーカー、魔女の宅急便… #うのカル「宇野常寛のサブカルチャー講義」のお知らせ!

    2019-11-27 11:45  
    こんにちは。PLANETS編集部です。
    毎日寒くてホッカイロが手放せない生活を送っております。
    本日は、新着動画のお知らせ!
    (ひっそりと?)宇野常寛がひたすらにカルチャー批評をしている動画がアップされているのですが、みなさんお気づきでしょうか……?
    「機動警察パトレイバー the Movie」
    「ジョーカー」
    「空の青さを知る人よ」
    「ハチミツとクローバー」
    「魔女の宅急便」
    「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」(……からの「新機動戦記ガンダムW」)←New!
    以上、超豪華ラインナップ!
    がっつりしたサブカル批評を聞きたいぞ! という方。
    今後も更新されていきますので、お見逃しなく。「機動警察パトレイバー the Movie」
    1 オタクが社会にどうコミットするのか?の時代に生まれた 
    2 押井守と若手スタッフとのバランスで成立した
    3 根底にバブル批判が存在する
  • 脚本家・井上敏樹エッセイ 男と××× 第53回「男と食 24」

    2019-11-27 04:36  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は秋の風物ギンナンの話題です。毒性がありながら、茹でても炒っても美味く、パンケーキに加えても絶品という食材。その怪しく官能的な風味は、少年時代、小学校の裏庭でギンナンを齧ったときの、強烈な体験の記憶を呼び起こします。
    男 と 食  24      井上敏樹 
    突然だが、最近気になる事がある。テレビの料理番組や和洋を問わず多くのレストランで使われる『シンプルに塩だけで焼きました』というセリフだ。もちろん料理人が料理の説明をする時の言葉なのだが、何が気になるかと言えば『シンプルに』という部分だ。別に塩で焼くのが悪いわけではない。素材の味を引き立てる最高の料理法のひとつである。だが、料理人としては客に『こっちは金を払うのに手間をかけていない。塩焼きなら家でも出来る』『手抜きである』等と思われるのではないかという危惧を覚えるのだろう。そこで『シンプルに』という枕詞を使うわけだ。『シンプル』とはいい言葉だ。美しい。日本人好みだ。客も『そうか、敢えて簡単な料理法を選択しているのだな』と納得する。だが、私は気になるのだ。言い訳がましい。へりくだっているようで上から目線だ。商売人としの小狡さが見え隠れする。だから嫌だ。『塩で焼きました』とシンプルに言えばそれで良い。
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  • 碇本学 ユートピアの終焉――あだち充と戦後日本社会の青春 第10回 ラブコメの原型としての『陽あたり良好!』(前編)

    2019-11-26 07:00  
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    ライターの碇本学さんが、あだち充を通じて戦後日本の〈成熟〉の問題を掘り下げる連載「ユートピアの終焉――あだち充と戦後日本の青春」。第10回では『陽あたり良好!』を取り上げます。『ナイン』と同時期に少女誌で掲載されたこの作品は、週刊少年サンデー復帰の代償に打ち切られた悲運の作品ですが、その不完全さゆえに、あだち充の作家性の本質が露呈した作品でもありました。
    ブレイク後のあだち充と少女漫画
    少年サンデー増刊号1978年10月号から『ナイン』の連載が開始され、あだち充は不遇に見えたデビューからの低迷期を脱していく。70年代の劇画に溢れていたマチズモに対するカウンターにもなっていた『ナイン』は、当時の10代の読者から熱狂的に支持され、あだちは自分の描く漫画に自信を持ちはじめていた。 そんな『ナイン』でのブレイク中に、少女コミックで組んでいた編集者の都築伸一郎と新しく始めた連載が『陽あたり良好!』だった。
    ▲『陽あたり良好!』
    この作品は1980年2月号から開始されている。『ナイン』は1980年11月号で終わるので、それまでの間、あだちは少年誌と少女誌で並行して連載をしていたことになる。 80年代になると、かつての手塚治虫や石ノ森章太郎などのような、少年誌と少女誌の両方で連載している漫画家はほぼいなくなっており、あだち充はその点でも稀有な存在にもなっていた(この自身の状況については『陽あたり良好!』の後半、クイズ番組に出演する回で「では問題です。少年まんがと少女まんがの二またをかけ大活躍の美男子まんが家は?」「正解はあだち充」というネタにしている)。 『ナイン』には後のあだち作品の原型となる部分が数多く見られるが、この『陽あたり良好!』にも、後のあだち作品のベースとなった要素が多く含まれている。この両作品で得られた手応えが、後の『みゆき』『タッチ』といった大ヒット作への大きな足がかりになっていったと考えられる。
    だが、『陽あたり良好!』は、あだち充作品で描かれることが通例の「高校3年生の秋」まで辿り着けずに最終回を迎えた作品となってしまった。その理由は前回も触れた通り、『みゆき』の大ヒットでエース漫画家として期待されるようになったあだちが、週刊週刊サンデーでの連載を編集部から強く求められたことによる。そうして始まったのが『タッチ』であり、その影響で終わることを余儀なくされたのが、この『陽あたり良好!』だった。 週刊少年サンデーから放逐され、少女コミックで漫画家として生きながらえていたあだちは、『タッチ』によってサンデーに帰還し、同時に少女コミックからは去ることになる。 しかし、あだち充と少女誌の繋がりはここでは終わらない。
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  • 井上明人 中心をもたない、現象としてのゲームについて 番外編 並列するゲーム的コミュニティ

    2019-11-25 07:00  
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    ゲーム研究者の井上明人さんが、〈遊び〉の原理の追求から〈ゲーム〉という概念の本質を問う「中心をもたない、現象としてのゲームについて」。今回は番外編として、キーボード配列のカスタマイズ文化について考察します。キーボードの設計・自作は「沼」と呼ばれるマニアックな世界ですが、そこではインターネット黎明期を思わせる、濃密で快適なコミュニケ―ションが展開されているようです。
     いま、この原稿を20gに換装したgateronクリア軸にしたzincで書いている。  配列は、飛鳥配列を40%用にセルフカスタムしたものを使っている。
     ………こう言われても、何のことか理解できる人は中々いないだろう。これはキーボードと、キーボードの配列の話だ。  私はここ半年ほどキーボード配列関連の「沼」(マニアのコミュニティ)にはまっている。ここから、沼関連の鉄板ネタを展開することもできるのだが、今回、書きたいのはこの沼の「居心地の良さ」がどのような仕掛けによって成立しているのかについてである。
     キーボード配列についての沼は、おおまかに3つぐらいに分かれている。物理配列沼(自作キーボード沼)、ソフト配列沼、タイパー沼の3つである。どの沼もゲーム、マンガ、アニメなどのオタコミュニティより参入障壁が高い。  とりあえず、そのことだけわかってもらえれば、下記は、いささかオタトーク気味な話になるので、次の小見出しまで、進んでもらってもいい。  この沼に入る動機として一番わかりやすいのは、タイパー(高速タイピング)の沼だ。高速入力ができたらいいな、と考えたことのある人は多いだろう。最近は、音声入力が扱いやすくなったため、かなり速く入力できるようになったが、固有名詞や専門用語が多い話になると、まだまだ、物理キーボード入力のほうが早い。究極レベルのタイパーは、テレビの字幕放送などの速記者たちで、彼/彼女らは、StenoWordという特殊なキーボードを用いて、恐ろしい速度で文字入力を達成している。たとえば、「コミュニケーション」と打つのに、QWERTYローマ字ならば、「kommyunika-shon」と15回ほどキーを打たなければならない。親指シフトやカナ入力なら9打。それが、StenoWordならば、たった一回の打鍵で打てる。StenoWordは、頻度の高い数千の単語を予めシステム的に登録してあり、複数のキーを同時押しすることで一発で打てる。ただ、このレベルのタイパーになるには、学習コストが半端ではなく、数年間の修行が必要になる。ここまで、いかなくともQWERTYや、カナ入力でのタイピングの大会でランキングに残るような成績にいる人々は、かなり熱心なトレーニングを日々積んでおり、これはかなり、eスポーツ的な世界になっている。タイピングの国内大会である、Realforce Typing Championshipなどは、決勝動画をYouTubeで見られるが、e-Sportsの世界の一種だと言ってしまって問題がなさそうな雰囲気が漂っている。  2つめは、物理的にキーボードの配列を設計・自作する沼である。エルゴノミクスキーボードなどでイメージされるような変わった形状のキーボードを設計したり、作りたい人たちが集っている。この沼が盛り上がりはじめた直接的な理由は、技術プラットフォームの構造変化のためだ。メカニカルキーボードの世界的企業だったCherry社の特許が切れたことで、2010年代中盤から安価な中華系キースイッチが登場しはじめ、「自作キーボード」や「自キー」というキーワードで、日本では、特に2018年ぐらいから本格的に盛り上がっている。個人が設計したキーボード組み立てキットを、ネット経由で簡単に手に入れられるようになった。この沼に入ることによる、即物的な御利益がなにかあるかというと、肩こりがよくなることが多い。ちなみに、下記は、マイ・キーボードの写真である。

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  • 【インタビュー】坂本崇博 〈仕組み〉に乗っかり〈仕方〉を変える 前編(PLANETSアーカイブス)

    2019-11-22 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、老舗の文具・オフィス家具メーカー・コクヨの社員として、企業や自治体・学校などに「働き方改革」をコンサルティングしている坂本崇博さんのインタビューです。なぜ、一企業の社員が「働き方改革」に取り組むことになったのか。前編では、入社2年目にして新たな営業手法にチャレンジし、自身の残業時間を削減しながら営業成績もアップさせたという、坂本さんの「自分の働き方改革」についてお話を伺いしました。(構成:鈴木靖子)※本記事は2018年2月15日に配信した記事の再配信です。
    自分の働き方を改革した理由
    宇野 坂本さんは、所属されているコクヨ社内における働き方改革をはじめ、数多くの企業の「働き方改革」のコンサルティングを手がけられているわけですが、その「働き方改革」をはじめるきっかけがものすごくユニークだと思います。  まずはいち営業マンだったご自身の「働き方」を改革して、そのノウハウを応用して「働き方改革」のコンサルをするようになった、という経緯について改めてお伺いしたいのですが……。
    坂本 私がコクヨに入社したのは2001年です。コクヨを選んだ理由は、出身である関西から離れたくない、そして誰もが知っている会社で働くことで家族を安心させたいという点でした。そこで本社が大阪にあって、祖母と母が知っていそうな会社を中心にエントリーしていきました。しかも、「ご縁」を大事にしたいので、自分の生活で何か「恩」がある会社に入ると決めていた。そういう意味では、あまり「何をするか」については深い考えがない、「どの会社に入るか」というよくありがちな「就職」ではなく「就社」を目指している就活生でしたね。  まず面接に行ったのは東大阪の某食品メーカーでしたが、就活を始めたばかりの時期だったこともあって、面接では「就活性らしいきれいごと」ばかり並べてしまい、自分の想いや本音を何も話せずに落ちました。それで半分やさぐれて「この際、言いたいこと全部言おう」と心に決めました。そして、次に受けたのがコクヨだったんです。コクヨには「ロングランデスク」からキャンパスノート、さらには就活の履歴書までお世話になっていましたから、恩返しにはもってこいですし。そして当日、グループディスカッション形式だったのですが、何しろやさぐれているものですから、本音丸出しで好き放題に喋りまくって(笑)、「私 対 残りのメンバー」という構図が出来上がって、でも最後にまとめの発表を求められたときに私がすっと手を挙げて、さっきまで敵対していた他の人たちの意見をまとめて「今回の議論の結論はこうです!」と述べてドヤ顔してたら、その日のうちに連絡があり「内定」と言ってもらえて。これでますますコクヨに「恩」を感じるようになって、「コクヨで何か新しいことをやってコクヨの次なる成長に貢献してやろう」という気持ちになったんです。 当時のコクヨは、新たにオフィス通販事業をいくつか立ち上げていたタイミングでした。私の最初の仕事はそこでの営業でした。文具・オフィス家具のコクヨとしては、これまでのお客様からのリピートも多く、そのジャンルでのブランドも確立されていましたが、通販、つまりお客様にとっては「購買システム」をご提案して導入いただくという新しい事業ですので、営業のメインは新規開拓になります。そうすると、効率的にお客様にリーチし、価値を訴求しなければならない。そこでひらめいたのが「会いに行く営業」から「来てもらう営業」への働き方改革です。新規開拓の場合、いかに多くのお客様にリーチして価値訴求できるかが営業にとって勝負になるので、営業は必死に会う数を増やそうとしますが、1日に会えてもせいぜい4〜5人です。もちろん一度お会いするだけでは話は進みませんので、検討の俎上にあがるまで何度も通うことになります。すると、日中の時間は「お客様にお会いするための外出」に全て使ってしまい、事務処理や見積もり作業、ミーティングは残業時間でやることが普通になるわけです。この働き方を皆横並びでやっている以上、残業は減りませんし、他社との価値(生産高)の差は「活動量」の差ということになってしまい、生産性で差別化ができていないと感じていました。なにより、家の面倒も見られないし、撮り溜めている大好きなアニメも観られません(笑)。そこで、「逆にお客様に来ていただくことができたら、倍の人と会えるようになるんじゃないか?」と、セミナー形式でお客さまに来てもらうという営業スタイルを始めてみたんです。
    宇野 そのセミナーはどういう内容だったんですか? 
    坂本 当時のお客様は、会社の消耗品を購入する総務部や購買部の方だったんですが、消耗品というのは品種は多いし頻繁に補充が必要になるので、とりまとめ発注や経費実績管理などの手間が大変なんです。そこで会社として発注先や価格を一元管理できて、実績もデータ化できる購買システムを導入して、ユーザーが各自で発注する仕組みにすれば、大幅な時間短縮と厳密な購買管理の両立ができる。そういった説明を、消耗品購買業務改革セミナーといった形で提案させていただきました。購買業務の働き方改革です。
    宇野 自分の働き方改革を行うことで、定時に帰れるように仕事をハックしたんですね。 それで営業成績は上がったんですか?
    坂本 上がりました。時間も効率化できて、フレックスを活用して16時頃に帰ったりとか。朝のうちに漫画を読みふけってから出社したりもしていました。『最終兵器彼女』を号泣しながら一気に読んだ後で営業に行って、お客様から「何泣いてんの?」って言われたり(笑)。もちろん勉強もしました。セミナーでのプレゼン手法とかロジカルシンキングとか、大学のときもっと勉強しておけばよかったと後悔しながら。仕事に関する勉強をするなら仕事時間に会社が負担してやるべきだという方もいるかもれませんが、私にとっては余暇です。
     私のポリシーは、人とは違ったやり方をすることです。  たとえば、新入社員だった15年前に、個人のパソコンを会社に持ち込んで業務をしようとしました。今流行しつつあるBYOD(Bring your own device)ですね。もちろん怒られましたけど(笑)。じゃあPCの性能あげてくれと交渉材料にしました。
    宇野 15年前の時点でBYODは、かなり早いですね。
    坂本 あとは駅前や公園でプレゼンの練習をしたりもしましたね。ギターもって歌うのではなく、スーツ着てプレゼンするんです。TEDみたい。一応、足元に空き缶をおいて(笑)実はもともとはプレゼンは大の苦手で、人前に立つと震えが止まらない人間だったのですが、数をこなす中で、次第に余裕もでてきて、人に受けるプレゼンとはどういうものかを考えながら演じるようになっていきました。  ちょっと集団からはぐれたことをやって、それで空いた時間を、自分の好きなことに使うのが大好きだったんです。 と、いうかたちで「自分の営業活動の働き方改革」をやったわけですが、私個人の動機はというと、単に早く家に帰りたかったんです。家に帰って好きなアニメを見たかった。また、中二病なもので、誰もやっていない方法で何かをやって、「変わり者扱いをされる」ことが好きなんですね。小学生のころは毎日通学路を変えて探検しながら、たまに道に迷って遅刻したり、怪我もしていないのに腕に包帯巻いてみたり、黒歴史も豊富です(笑)。
    宇野 そういった自由なスタイルで仕事をすることに対して、同僚や上司からの反発はなかったんですか? 
    坂本 何よりありがたいことに、当時は入社して2年目でしたが、上司や先輩に「これをやりたい」と言うと「やってみれば?」という人たちだったんですよね。ある意味放任主義というか、営業も数回背中を見せてあとは「一人で行ってこい」みたいな。だから、自分なりのやり方がやりやすかった。逆に上司がメンターのような形で常に側にいたら、「こうやるんだよ」と教えられてその通りにやっていたでしょうし、新しいやり方を試すヒマがなかったと思います。そして、最初はセミナーを開催しても、なかなか人が来てくれませんでしたが、何人かの先輩営業が「これは面白い」と一緒にお客さんを呼んでくれて、だんだん大きくなっていきました。
    ビジネスモデルの提案から働き方改革の事業へ
    宇野 そこから、どうやって働き方改革のコンサル事業が生まれたのでしょうか?
    坂本 その後、大阪本社から東京の新規事業開発の部署に異動になりました。そこで企画して立上げたのが「ナレッジワークサポートサービス」というサービスです。これは、私自身の資料づくりへのこだわりがベースにあります。プレゼン資料や提案書の質は受注率を直接的に左右します。そのため、考え抜いて作り上げたノウハウを持っていたんですが、そのノウハウをお客様にご提供しようと思いついたんです。まずは私自身がコンサルとして、勝てる提案書作りを請け負ったりアドバイスすることをはじめ、さらにそのノウハウをマニュアル化していきました。そしてそのマニュアルをベースに人を育成し、私自身ではなく、コンシェルジュと呼ばれるメンバーがお客様のオフィスに常駐して資料作成をサポートするアウトソーシングサービスに展開していきます。これはウケましたね。社内にスタッフが常駐して、資料作成の他、いろんなことを請け負う・サポートするというビジネスで、今ではコクヨアンドパートナーズという会社になって、他にも色んなアウトソーシングメニューを拡充して、企業の残業削減や業務品質向上にお力添えができています。
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  • 成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010) 宮藤官九郎(7)『マンハッタンラブストーリー』と恋愛ドラマの変節

    2019-11-21 07:00  
    550pt

    ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。今回は低調な視聴率ながら、今なお高く評価されている異色の恋愛ドラマ『マンハッタンラブストーリー』(2003年)を取り上げます。喫茶店を舞台に次々と連鎖する片思い、さらにその関係の入れ替え可能性を描いた本作には、普通の恋愛ドラマが成立しにくくなった当時の時代性が如実に投影されていました。
     2003年、『ぼくの魔法使い』(日本テレビ系)の後の10月クールに宮藤が脚本を手掛けたのが問題作『マンハッタンラブストーリー』(TBS系、以下『マンハッタン』)だ。
    ▲『マンハッタンラブストーリー』
     舞台は純喫茶マンハッタン。近くにテレビ局があるため、この喫茶店はテレビ関係者のたまり場となっていた。 タクシー運転手の赤羽伸子(小泉今日子)は、ダンサーのベッシーこと別所秀樹(及川光博)をタクシーに乗せたことで知り合いとなる。ケンカしながら少しずつ距離を縮めていく二人。しかし、ベッシーはミュージカルのオーディションに合格し、一年間ニューヨークに行くが決まっていた。一度はベッシーへの気持ちを諦めようとしていた赤羽だったが営業所の無線から流れてきた「早く止めないと1年以上あえなくなるんだぞ! それでもいいのか?!」という謎の男の声に押されてベッシーを引き止める。無事、結ばれたかに見えた二人。しかし、ベッシーが好きだったのは脚本家の千倉真紀(森下愛子)だった……。
     物語は毎話、主要人物が変わっていくのだが、一話が「A」二話が「B」とアルファベットのタイトルになっている。これは各話の主人公の頭文字で、Aが赤羽、Bがベッシー、Cが志倉。つまり、Aでは赤羽を主人公にベッシーとの恋愛が描かれ、Bではベッシーを主人公に志倉との恋愛が描かれ、Cでは志倉を主人公にDこと売れっ子声優の土井垣智(松尾スズキ)との恋愛が描かれるといった感じで、片思いの連鎖が続いていく。 その状況を唯一知っているのが喫茶店の店長(松岡昌宏)である。 店長は店の中で起こる恋愛模様をすべて把握しており、一人やきもきしている。そして恋愛を成就させるために彼・彼女らの背中を押すメッセージを、正体を隠して発するのが毎回の見せ場となっている。 赤羽に無線でメッセージを送ったのも店長で、つまり彼は恋のキューピットなのだが、そうやってうまくくっつけたはずの片方が実は別の人を好きだったことが連鎖していくことで、いつしか人間関係は複雑にこんがらがっていく 店長は寡黙で人前では一言二言しか喋らないのだが、その代わりモノローグ(心の声)が絶えず流れている。モノローグのほとんどは、各キャラクターに対するツッコミで、それが結果的にオーディオコメンタリー的なものとなっているのは今見ても面白い。 つまりマスターは自分で恋愛ドラマを作ると同時にその状況に対してツッコミを入れているのだ。
     プロデューサーは『木更津キャッツアイ』(以下、『木更津』)に続き磯山晶だが、今回のチーフ演出は金子文紀ではなく、土井裕泰が担当している。 近年では坂元裕二脚本の『カルテット』(TBS系)が高く評価された土井の映像手腕は今見ても実に見事で、金子文紀とは違った洗練された魅力を与えている。 同時に人を突き放したようなクールさもあり、それが最終的にこの作品のルックを決めてしまったようにも思う。
     企画の発端は『木更津』で視聴率の低迷に悩んだ磯山が「ラブストーリーなら数字がとれるかも」と言ったことがはじまりだ。その意味で他の作品とくらべると売れ線狙いの不純な動機ではじまった企画だが、宮藤と磯山が作るドラマが一筋縄で行くはずはなく、物語はどんどん予想外の方向に転がっていく。
    視聴率の低さと評価のズレ
    『マンハッタン』は、『木更津』や『あまちゃん』(NHK)に比べるとクドカンドラマの中ではマイナーな作品だが、本作をクドカンドラマ・ベスト1に挙げる人は少なくない。
     脚本家の坂元裕二は宮藤との対談で「今まで観た日本のドラマで一番好きなのが『マンハッタンラブストーリー』なんです」と発言している。
    とにかく毎週、お腹痛いぐらい笑ってたし、出てくる人はみんな魅力的だし、ドラマを観ながら思っていたことが、最後にカチッカチッと、全部気持ちよくハマっていって。なんて完成度の高い脚本なんだって、圧倒されたんですよね。 (坂元裕二×宮藤官九郎『カルテット』『脚本家 坂元裕二』Gambit)
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  • 宇野常寛 チームラボと未来の社会像――3つの境界線を消失させるために(後編)

    2019-11-20 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、宇野常寛によるチームラボ論の後編です。チームラボの「超主観空間」は、三次元空間を平面化する視点の変容により、鑑賞者を作品世界へと没入させます。デジタルアートと自然の融合が促す、人間と事物の境界の消失。さらには人間の間にある境界の融解による、理解や共感に依らない他者との共生の可能性を提示します。 ※本記事は『teamLab 永遠の今の中で』(青幻舎・2019年)に寄稿した論考を転載したものです ※本記事の前編はこちら本記事のリード文の一部に誤記があったため、修正して再配信いたしました。読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。【11月20日19時00分追記】
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    3 人間と事物との境界線を消失させる
    チームラボのデジタルアート作品は、彼らの主張する「超主観空間」というコンセプトに基づいた平面的な絵画のアップデートから始まった。「超主観空間」とは何か。「一般的に伝統的な日本画は観念的だとか平面的だとかと言われているが、当時の人には、空間が日本画のように見えていたのではないだろうか」という疑問から、このコンセプトは生まれたという。チームラボは「デジタルという新たな方法論によって、その論理構造を模索」し、「コンピューター上に立体的な三次元空間の世界を構築し、日本美術の平面に見えるような論理構造」を仮定した。その論理構造を「超主観空間」と呼ぶ。こうして、チームラボ作品の多くが、コンピューター上に仮構された三次元の空間を「超主観空間」の論理式によって平面化することによって生まれてきた。[2] これによって日本画は無限に変化するアニメーションに、あるいは鑑賞者に対しインタラクティブなものにアップデートされたわけだが、ここで重要なのはむしろ視点の問題だ。 猪子は述べる。超主観空間によって描かれた自分たちの新しい日本画は「スーパーマリオブラザーズ」のようなものなのだと。猪子は「スーパーマリオブラザーズ」に見られるような80年代の日本のコンピューターゲームで発展した横スクロールアクションと、日本的な絵画の「視点」の問題に共通項を見出す。それは、鑑賞者≒プレイヤーが自分の感情移入対象である人物(キャラクター)と視点を共有しながらも、その姿を神の視点から把握していることだ。猪子はこの視点を平面(作品世界)への没入を可能にする視点だと位置づける。「超主観空間」は伝統的な日本絵画を動的に、インタラクティブにアップデートするためだけに導入されたのではない。むしろ、作品世界への鑑賞者の没入を、人間と事物(作品)との境界線とを消失させるためにこそ必要とされたのだ。 人間と事物との境界線の消失というコンセプトは、今日においてもチームラボの作品群の一つの中核をなしていると言えるだろう。 例えば〈Floating Flower Garden;花と我と同根、庭と我と一体〉(2015)は、本物の生花で埋め尽くされた空間として鑑賞者の前に登場する。しかし鑑賞者が近づくとモーターで制御された花たちは上昇を始め、鑑賞者の移動に合わせて半球状のドームが生まれていく。あるいは、同年のチームラボの代表作の一つ〈クリスタルユニバース/Crystal Universe〉は、無数のLED電球の配置された空間において鑑賞者がスマートフォン上のアプリケーションを操作することで、さまざまな光の彫刻を再現するインタラクティブな作品だが、鑑賞者は自在に変化するこの光の彫刻を操作するだけではなく、その彫刻の中に侵入することができる。これらの作品はいずれも超主観空間を平面から立体に、二次元から三次元に、目で見るものから手で触れられるものにアップデートしたものだ。そしてチームラボのデジタル日本画が鑑賞者の没入を誘うように、これらの立体作品もまた私たちを没入させる。 猪子は述べる。〈自然の中に入ったときに感じる「世界の一部になったような感覚」とか「他者と自分との境界がなくなる」とか「本当に自分の肉体が入っている」とか、そういう感覚も好きなんだよね。それがモノでできたらもっとすごい。〉[3]
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  • 宇野常寛 チームラボと未来の社会像――3つの境界線を消失させるために(前編)

    2019-11-19 07:00  
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    今朝のメルマガは、宇野常寛によるチームラボ論をお届けします。2016年のトランプ大統領の誕生が明らかにした世界の分断。グローバリゼーションと、それに対する抵抗の間にある「境界」は、いかにして乗り越えられるのか。前編では、チームラボが「Borderless」のコンセプトを掲げて取り組む、作品間の「境界」を融解させる試みについて読み解きます。 ※本記事は『teamLab 永遠の今の中で』(青幻舎・2019年)に寄稿した論考を転載したものです
    本メルマガの連載を書籍化した『人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界』が11月21日に発売になります。ぜひお買い求めください(Amazon |BASE)
    1 2016年の敗北ともう一つの「壁」
    2016年11月8日一それは世界を駆動していた一つの理想が決定的に蹟き、そして敗北した日だった。 その日行われたアメリカ大統領選挙によって第45代大統領に選ばれたのは、大方の予想(あるいは希望的な観測)を覆しドナルド・トランプだった。「壁を作れ」という象徴的な言葉が示すようにトランプの当選は、20世紀の惨禍から人類が学び得た理想(多文化主義)と、21世紀の人類を前に進める新しい「経済」的な理想(カリフォルニアン・イデオロギー)の二つに共にNoを突きつけるものだ。 多文化主義(政治的なアプローチ)とカリフォルニアン・イデオロギー(経済的なアプローチ)はともに、グローバル化と情報化によってこの世界を一つにつなげる力の背景にある思想だ。20世紀的な国民国家の集合(インターナショナル)から、世界単一の市場経済(グローバル)ヘ世界地図を描くべき図法は変化し、この新しい「境界のない世界」は冷戦終結から約四半世紀の間に急速に拡大していった。革命で時の政権を倒しても、ローカルな国民国家の法制度を変えることが関の山だが、情報産業にイノベイティブな商品やサービスを投入することができれば一瞬で世界中の人間の社会生活そのものを変えることができる。21世紀はグローバルな市場というゲームボードによって世界が一つの平面に統一され、その主役は国境を越えて活躍するグローバルな情報産業のプレイヤーたちだ。 しかし、この新しい「境界のない世界」へのアレルギー反応が噴出したのが、2016年だった。アメリカ大統領ドナルド・トランプの誕生、そして同じ2016年に行われたイギリスのEU離脱を支持する結果となった国民投票(ブレグジット)。去る2016年は冷戦終結後から一貫して進行してきたグローバリゼーションに、そしてそれと並走して進行してきた人類社会の情報化に対するアレルギー反応の時代に世界が突入したことを宣言する1年になったのだ。
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