ヅダ (ZUDAH)とは、OVA『機動戦士ガンダムMS IGLOO』に登場するモビルスーツ(MS)。間違えられやすいがズダではなくヅダである。
概要
OVA『機動戦士ガンダムMS IGLOO』にて初登場したジオン軍の試作モビルスーツ。初めに「EMS-04」が開発されたが、ザクとのコンペティションに敗れて歴史の闇に葬られた悲しき兵器。同時に『MS IGLOO』の代表的存在であり、第603技術試験隊が扱う試作兵器がどのようなものかを体現する。本作に登場する機体は改良型の「EMS-10」。
戦歴
EMS-04
開戦から8年前のU.C.0071年、地球連邦軍との物量差を覆すためジオン軍はツィマッド社、ジオニック社、MIP社の三社に軍用モビルスーツ開発を指示する。途中でMIP社は特殊環境向けの兵器開発に転じたため汎用MSの開発はツィマッド社とジオニック社の競合となった。
ジオニック社は汎用民生重作業機(MSの原型)を造った実績があり、汎用性に優れた「YMS-05ザクⅠ」を開発。後発のツィマッド社は老舗のジオニック社に汎用性では敵わないと判断、高性能を追求して「EMS-04ヅダ」を開発した。とりわけツィマッド社が重要視したのは宇宙空間での機動性とそれを実現する大出力であった。このためまず最初に噴射推進剤に金属化合物の重分子を用いる独自の小型大出力エンジンの開発に着手し、試作一号機である水星エンジンを完成させる。続いて実用原型の木星エンジンを製作して試作機ヅダに搭載させ、ジオニック社には真似できないエンジン分野で一気に勝負へ出た。
こうして出来上がったヅダは、次期量産機の座を賭けてザクⅠと競合。ツィマッド社の狙い通りパワーとスピードの両面でザクを圧倒(漫画版ではサイド3での模擬戦でヅダがザクを殴り倒すシーンがある)。ザクとヅダの核融合炉出力は17%しか変わらないにも関わらず、エンジン出力だけでこれほどの差を付けたのである。その高い性能から一部の軍幹部より「ヅダ勝利」の声が上がり始める。
ザクに敗れた直接的な理由は、飛行性能試験における空中分解事故が挙げられる。高い加速性能を持っていたが故に機体へ著しい構造負荷を強いてしまい、空中分解を招いてしまったのである。この事故によりテストパイロットは死亡した。他にもザクの約1.8倍に及ぶコスト面もジオン軍上層部にとって無視出来ない問題だった。こうして汎用性と生産性に優れたザクが制式化され、本来歩むはずだった花道を明け渡してヅダは歴史の表舞台から去った。デュバル少佐が言うにはジオニック社の汚い工作があったらしい。
EMS-10
ザクとのコンペティションに敗れた後も開発中止命令は下らず、ツィマッド社内で「EMS-04」プロジェクトを縮小されながらも限られた機材と人材で細々と改良が続けられた。少しでもヅダの実用性を高めようとした技術者たちの血と汗と涙を受けながら。ドム及びリック・ドム(この2機もツィマッド社製)に採用、有用性が示されていた「土星エンジン」を搭載し、新世代の素材と制御システムも導入して空中分解の危険を排した「EMS-10ヅダ」が完成。この事を軍部に報告する。
左右に分かれたモノアイレールと青いボディ、そして土星エンジンを使った可動式の背面スラスターが目を引く。武装に関してはザクと同じものを使用出来、ザクマシンガン、ザクパズーカ、ヒートホーク、シュツルムファウストを持つ。ザクには無いヅダ固有の武器としてシールドに展開式のシールドピックと135mm対艦ライフルがある。ヒートホークを装備する際、柄に手が届くよう腕が少し伸びる仕様。OVA版ではヒートホークを使う描写は無いが、漫画版にてワシヤ機がジムの胴体を引き裂くのに使用している。ジオン系MSの例に漏れず、指揮官機にはブレードアンテナが(劇中ではデュバル少佐が搭乗する1番機に)装備されている。
本機最大の特徴は土星エンジンを用いた大出力スラスターである。その推力はあのザクIと同時期に作られた機体でありながら、なんとRX-78ガンダムを上回る推力を叩き出した。このスラスターは可動式であり、推力を得ながらスラスターの向きを変える事で速度を落とさず急激な方向転換が可能。秒単位の噴射を行えば10G近くの加速を実現し、実証済みのAMBACシステムを併用してスラスターの向きを自在に変更出来るその軌道はまさに青き稲妻の如し。更に機体にはスプリッター迷彩と呼ばれる左右非対称のギザギザ模様が塗装されており、機体の方向と向きを敵機に見誤らせる効果がある。劇中において多数のジムを相手に、追いつく事はおろか、照準を合わせられない程の速度で機動を行っている。欠点として土星エンジンがもたらす大推力とAMBAC等を併用した急激な加速・機動を続けると機体に負荷がかかり、それが一定を超えると機体が負荷に耐えられず空中分解を起こしてしまう。そうなる前にエンジンをカットして負荷を軽減しなければならない。
また、急激な加速や機動に伴い発生するGはパイロットに相当な負荷をかけてしまう。最大で10Gが掛かると言われている。2度目の空中分解を起こした機体は、デュバル少佐の命令を無視して急激な加速、高機動を行ったため、機体のGに耐えられずに制御ができなくなり、エンジンカットができないまま加速を続けたため空中分解してしまった。
ジオン軍はEMS-10ヅダを大々的に宣伝。現行主力機ザクを遥かに上回る新兵器の開発に成功したとして、プロパガンダ放送を流した。製造された3機のヅダが第603技術試験隊に送られ、実戦投入するためのデータ採取を行った。……のだが、実際のEMS-10はEMS-04の外装を交換しただけであり、エンジン出力を限界まで上げると空中分解を起こす欠陥そのものも受け継いだ"未完成品"であった。だが、開発当時での各種性能面ではザクを凌駕し、劇中ではジムが追いつくことすら無かった超高機動性を鑑みれば、もしジオンのプロパガンダ通りに限界機動時の機体の脆弱性を克服し生まれ変わっていたら、あるいは新型MSとして活躍していたのでは無いだろうか。火星ジオンのRFシリーズを出してもいいのよ(チラチラ
デュバル少佐は急激な加速、高機動を行っても、Gに耐えて機体を制御する技術を持っていたが、最後は自らの意思で急激な加速を続け、「ヅダは重大な局面を支えた確かな存在である事」をヨーツンヘイムに伝え、満足しながらヅダとともに軌道上に散っていった。
ヅダは地上運用可能か?
『MS IGLOO』作中では明確な描写が無いため不明。資料にも特に記載がない。
このためか各ゲームでも解釈が分かれており、『バトルオペレーション2』『Gジェネ』『ガンダムオンライン』『トライエイジ』『ガンダムトライヴ』では地上・宇宙ともに運用可能。一方で『ギレンの野望』シリーズ、『戦場の絆』、『カードバトラー』では宇宙専用機体としている(『絆』のみコロニー内でも運用可能)。
主力機として開発された経緯から、どちらかと言うと地上でも運用可能とする解釈が多いようだ。
劇中の活躍
ヅダとザクのコンペティションが開始された宇宙世紀0075年初頭、宙域にて「EMS-04ヅダ」と「YMS-05ザクⅠ」の飛行性能試験が行われていた。ヅダの大出力エンジンに全く追いつけず、後ろから追いかけるしかないザクⅠ。もはやヅダの勝利は確定かに思われたその時、突如フランツ機の出力が急上昇して暴走状態に陥り、コントロール不能のまま白線の先で爆散…空中分解してしまった。
事故死したフランツの墓前に花を供えるもう一人のテストパイロット、ジャン・リュック・デュバル。そこへ開発部長が現れてザクⅠの制式採用が決定した事、風当たりが強くなってきたためヅダの開発について方針転換すると伝える。だがデュバルはツィマッド社の決定に反対する。
ではフランツは…フランツは何のために死んだのです!?
ここでEMS-04の開発を諦めてしまって彼にどう申し開きするのですか!?
……私は…私はどんな事があってもEMS-04を見捨てはしないッ!
デュバルはフランツとヅダを重ね、決して見捨てないと心に誓うのだった。この前日譚は漫画版2巻に収録されている。
コンペティションに敗れた後も限られた機材と人材でヅダの改良は続けられ、宇宙世紀0079年10月に完成。戦況の悪化からジオン公国軍はプロパガンダ放送に力を入れ始めており、ヅダの完成は格好の材料となりえた。さっそくヅダを新型機だと国営放送で囃し立て、ヅダの評価試験を行う第603技術試験隊には取材班が乗り込み、連日ニュースでヅダの事が報道されるなど国を挙げて喧伝した。そのため603の面々にも喜びの感情が見え隠れし、プロホノウ艦長も「やっと軍も我々の価値を認識してくれたようだな」と上機嫌であった。しかしヅダの過去を知る技術本部長シャハト少将と、彼からその事を教えられたマイ技術中尉のみが、ヅダがプロパガンダに利用されただけの哀れな道化だと知っていた。
最終評価試験を行うべく予備機を含め4機のヅダが、テストパイロットであるジャン・リュック・デュバル少佐と共に第603技術試験隊に配備される。デュバル少佐とヅダには誰もが期待の眼差しを向け、待望の搭乗機を得られたワシヤもまた歓びを隠せなかった。
その後、機体の評価試験が実施された。ヨーツンヘイムが記録映像を撮る中、3機のヅダは演習を行う。そこへ救援信号が届く。付近を航行していたパプア級輸送艦3隻が連邦軍のオハイオ小隊に襲撃されていたのだ。急遽演習を取りやめ、友軍の救助に向かうヅダ。演習中だったため実弾ではなく演習弾しか無かったが、自慢の高機動でオハイオ小隊のボールを翻弄。砲撃は一向に命中しない。未知の新型機に遭遇し、焦燥したオハイオ小隊は後退。ついに実弾無しで敵を追い払う事に成功。安全を確認したヅダは、高々と信号弾を打ち上げるのだった。ヨーツンヘイムで撮影されたヅダの映像は、さっそくプロパガンダに利用され国営放送で流された。これに伴ってプロホノウ艦長も取材を受けたようだが、ガチガチだったせいか放送ではカットされてしまった。
評価試験は続く。今度はムサイを敵艦に見立て、一番機から三番機が模擬戦。ムサイから放たれる弱装ビームを回避しながら順調に試験が進んだ。ところが、援護機動ばかりやらされて鬱憤が溜まっていた三番機のオッチナンが感情に任せて機体を暴れさせる。図らずもエンジンの出力を上げてしまった事で凄まじいGに体が押し付けられ、制御不能となる。かろうじてムサイとの衝突は避けられたが、機体の制御が出来ない三番機は加速を続け、そして……空中分解した。オッチナンの今際の絶叫だけがヨーツンヘイムに届き、三番機は遠い彼方で光芒に変わった。パイロットは死亡し、603に沈痛な雰囲気が漂う。デュバル少佐はヅダの欠陥を知ったうえで伏せており、命令違反に起因しているとはいえオッチナンを殺してしまう結果となった。さらに追い討ちと言わんばかりに、連邦軍のプロパガンダ放送がヅダの欠陥を全世界に向けて暴露。これまで隠していた欠陥が全員に知れ渡り、期待の新鋭機から世界中に恥をさらしたポンコツへと成り下がった。先の爆発事故を鑑み、プロホノウ艦長から飛行禁止処分まで言い渡されてしまう。デュバル少佐とヅダの名誉は、これ以上に無いまでズタズタにされてしまった。
艦隊司令部より、オデッサから宇宙へと敗走してきたジオン軍将兵を救うよう命じられた第603技術試験隊は、味方が救助を待つ地球軌道に辿り着く。そこでは一足先に現れた連邦軍部隊によって落ち武者狩りが行われていた。味方部隊は数こそ数万いたが非武装のHLVに搭乗しており、ボールにすら太刀打ちできない状態だった。搭載されていたザクがHLVから出て迎撃するも、陸戦型だったため宇宙での戦闘は困難、あっという間に狩られてしまう。この光景を見て、第603技術試験隊は決断する。たとえ爆弾を抱えていても、戦力はヅダしかない。数万の将兵の運命は、ヅダにかかっているのだ。モニク・キャディラック特務大尉の指示により、予備機を含めた三機が出撃する。
この時、2番機にヒデト・ワシヤ中尉が、モニク・キャディラック特務大尉が予備の3番機に乗り込み出撃。HLVを嬲り続けるボール二個小隊に挑み、次々に撃破していく。一方モニク機は救助に専念、宇宙で溺れていたザクの手を握って近くのHLVまで飛ばしてあげていた。かつての競合相手と助け合う姿は言い知れぬ感動を与えてくれる。ヅダの活躍によりボール二個小隊は壊滅。危機は去ったように見えたが、運悪く連邦軍の増援が現れる。新鋭機のジムが6機出現し、ヨーツンヘイムに命中弾を与える。ボールより強力な敵の出現に、デュバルは機体を駆って真っ先に攻撃を加える。まず隊長機をマシンガンで仕留め、矢継ぎ早にバスーカ装備のジムをピックで刺し貫く。そして残った4機のジムをHLVから引き離すため、自身を追跡させる。隊長が戦死した事で抑えが効かなくなり、ジムは任務を忘れてヅダを追いかけた。
デュバルの目論見通り、ジムはHLV群から引き離された。ジム側は必死にヅダの撃墜を目指す。ここでヅダに勝たなければ、「連邦軍の新型MSはポンコツにも劣る」とジオン側に喧伝される恐れがあったからだ。また背後からはモニクのヅダが追跡しており、逃げ場が無い。このため退くに退けず、無謀な追跡劇を続ける。一足先にエンジントラブルで落伍したジムは、モニク機によってマシンガンを叩き込まれ撃墜。やがて3機のジムは無茶な加速をし続けた代償を受け、爆散。それを見届けたデュバル機は、朝日に包まれる中で空中分解。彗星のような炎の尾を引いて、軌道上を疾った。
デュバル少佐はボール4機ジム4機撃破という戦果を上げるが、同時にデュバル少佐も戦死してしまった。その後、残った2機は第603技術試験隊ヨーツンヘイム配備とされ、評価試験は打ち切られた。
その後
ヨーツンヘイムに送られてくる兵器は一話限りの登場が原則だったが、ヅダだけは例外で話をまたいで登場。ヨーツンヘイム唯一の搭載モビルスーツとして活躍する。パイロットはワシヤ中尉が務めた。
ゼーゴックの評価試験の際は、ヨーツンヘイムの前路警戒のため出撃。サラミス級から放たれたミサイルをマシンガンで迎撃していた。続くゲム・カモフの試験では、エンマ・ライヒ中尉が搭乗。サラミス級を攻撃して撤退させている。続く評価試験では、連邦軍を欺くため鹵獲ジムやゲム・カモフと戦っているふりをした。しかし敵モビルスーツ隊に正体を見破られ、やむなく本物のジムと戦う事になる。この時にヒートホークでジム1機を撃破している。
最終決戦の地となったア・バオア・クーではEフィールド防衛戦に参加。ムサイ2隻とともにヨーツンヘイムを護衛し、連邦軍艦隊と交戦。ザクマシンガンでジムコマンド1機を撃墜する戦果を挙げた。そしてオッゴの投下コースまで護り切り、戦局に寄与。ア・バオア・クー攻防戦を乗り越え、2機とも残存している。その後の歴史にヅダの名前が登場しないことからも、おそらくは戦後に廃棄処分となったものと推測される。
なお、余談ではあるが、ヅダのエピソードはドイツの戦闘機『He 100』が他社の競合機よりも高い性能を示しながらも不採用に終わり、その後架空の部隊マーキングを施して対外宣伝に使用された実話が基となっているそうである。
また、週刊少年サンデーS(スーパー)2月号(2012年12月24日発売)から連載されている漫画『機動戦士ガンダム 黒衣の狩人』の主人公・ウォルフガング少佐が乗る機体として登場。既にジオンでも欠陥機の烙印を押されている同機体を大気圏ギリギリの戦場下で出撃。その性能を(空中分解することなく)最大限引き出している。
さらに、ガンダムエース7月号(2013年5月25日発売)から連載が始まった小説『機動戦士ガンダム ブレイジングシャドウ』では、ヅダを発展させたヅダF(EMS-10F)が登場。土星エンジンのリミッターを強化することで空中分解を抑制するとともに、背部スラスターが3基に増やされるなど改良が施されている。一部にはギャンのパーツも用いられたらしい。また、新たに95mm狙撃ライフルが武装として用意されている。制式採用こそされなかったが少数が部隊配備に至っており、作中ではU.C.0083年にジオン軍残党「ファラク」のヒック・シャーマンが乗機としていた。
ソーシャルゲーム『スーパーガンダムロワイヤル』にも参戦。ところがレア度は☆2と、コモン扱いを受けている。デュバル少佐憤死ものの扱いである……。ちなみにMS IGLOO機体ではビグ・ラングが最高レアとなっている。『ガンダムヒーローズ』ではヅダの必殺技が自爆になっている。
その他にもGジェネレーションシリーズやEXVSシリーズなど、MS IGLOOが参戦している作品に登場しており、概ねその性能は「ザクよりも機動力が高い代わりに、耐久面に不安を抱えている」といった性能付かなされることが多い。作品によっては対艦ライフルが使えるものもある。
そして作中の「高い機動力を発揮できるが負荷をかけ過ぎると空中分解を起こす」という特性から、「耐久を削りながら過度のブースト移動ができる」等の特殊な能力を持たされることもある。
そしてそれが何故か「ヅダは自爆で攻撃できる」と拡大解釈され、上記のように必殺技のようなもので特攻して自爆する事ができる作品や、特攻自爆そのものが攻撃方法になっている作品すらある。
こんなのをを見たらマイ技術中尉は悲鳴を上げデュバル少佐は卒倒しそうである。どうしてこうなった...…(なお、黒衣の狩人でウォルフガング少佐が一応それっぽいことはしている)。
これはジオニック社の陰謀だ!