94件
薙刀とは、日本の長柄武器（ポールウェポン）である。「長刀」「長柄刀」と呼ばれる事もある。
概要
その名が示すとおり、取り分け目立つのはその長さ。
柄の部分だけでも3尺から6尺（90～180cm）、刀身は1尺から2尺（30～60cm）、長いものでは3尺あったとされている。武具を大きくする流れが目立った南北朝時代には柄だけで7尺を超える薙刀も造られた。なお、時代が古くなればなるほど刀身が長く柄が短くなる傾向がある模様。
槍で先陣を切る手柄を上げることを、「一番槍」と呼び、太刀や刀で先陣を切り手柄を上げると「一番太刀」と呼んだが、薙刀で同様の手柄を上げた場合も一番太刀とされた。このため当時の人々にとって薙刀とは、槍の一種ではなく、太刀・刀のような刀剣類の延長にある存在と考えていたのかもしれない。
武具としての第一線から外れた江戸時代以降は、柄の部分に家紋を入れたり装飾を施したりと見た目を重視したものや実用性を度外視した柄も生まれた。
刀身も前述の通り長いが、刃に反りがあるのも大きな特徴であり、突くよりも切ることに向いている形状となっている。ちなみに、刀身の幅が狭く反りの少ないものは静御前にちなんで『静型』、逆に刀身の幅が広く反りが大きい物は巴御前にちなんで『巴型』と呼ばれている。
多くの人々がイメージする薙刀は巴型であり、古い絵画でも登場する頻度は巴型の方が多い。しかし、戦があった時代の現存品は静型が多いとされる。
てこの原理を利用して振ることで並の剣よりも鋭い斬撃を繰り出すことが出来るのが薙刀の強みで、小型のものなら力もさほど必要でないことから女性にも広く伝播することとなった。
歴史
誕生したのは平安時代とされる。
誕生した過程については不明な点が多いが、『1～2尺の刀身を短い柄に嵌めた手鉾という武器から生まれた』『仏教を学ぶため大陸で長刀を知った僧が伝え僧兵たちが使い始めた武器が元になった』などの説が有力と言われている。
当初、武士が台頭した平安時代半ば～鎌倉時代前半までの主力戦闘員は重武装の弓騎兵であり、弓と長柄武器の同時携帯は困難であるという都合上、接近戦においては太刀や短刀を使っていた。
薙刀は後に雑兵・足軽と呼ばれる補助戦闘員や、僧兵と呼ばれる武装した僧侶といった、主に武士身分ではない者たちが扱う得物だった。
その立ち位置から、あまり武器として期待されなかったのか、初期の薙刀はその全長が2m以内に収まっていることが多く、長柄武器としては非常に短かった。（このため、後世に成立した長巻と混同する学者もいたらしい。)
その後、接近戦が徐々に増加し徒歩で戦う主力戦闘員が多くなってからは徒歩の足軽のみだったのが、鎌倉時代末期から室町時代初期の辺りには、騎乗の武士まで広く使われる武器となった。
（なお、最も使用率が高かったのは源平合戦があった時代（1180～1185年）という説があるが定かではない。)
南北朝時代後半になってからは長いリーチと突きに特化した特性を持つ槍、重量があり扱いづらいものの凄まじい威力を誇る長巻というライバルが生まれるも、前者は貧乏兵士の簡易薙刀という位置づけで特に注目もされず、後者は比較的高価でとり回しに難があるなどの問題点があったため応仁の乱以前まで長柄武器（ここでは大型刀剣も含む）の主役の座は揺らがなかった。
しかし、動員数が激増した応仁の乱以降は、南北朝時代には見向きもされなかった槍が注目され始める。槍は突き出させた兵士を横に並べるだけでも効果を見込める分扱いやすく、生産が容易ということもあり瞬く間に薙刀に取って代わり、戦場を席巻していく。
さらにその後、鉄砲が伝来し長柄武器時代の使用率が下がった戦国時代後半などを巡り、薙刀は衰退していき戦場からは一部の武士が好んで扱うのを除けば(長巻との混同の可能性が高いが。)ほとんど姿を消したのだった。
時代の荒波に飲まれ続けた薙刀だったが、相対的に弱体化したとはいえその武器としての完成度を支持するものが多かったためかその後も生き残り続けた。
江戸時代は婦女子の習う武芸として稽古され、武士の家では嫁入り時に薙刀を持参した。
薙刀は家を守る女性の持つ武器としては非常に強力な武器とされ、家の中に攻め入る相手を抑える際は相性が良かった。 （廊下や入り口などで相手の進路を塞ぎやすく足払いで足を止めやすいため防衛に向いていた）
明治時代は撃剣興行（剣術を見世物とし人気を博した興業）、大正時代から太平洋戦争の時代までは女性のたしなむ武道『なぎなた』として命脈を保ち、占領軍から禁止されていた中でも存続を諦めなかった。
現在でもこの武道は存続しており、全日本なぎなた連盟や全国の道場は熱心な活動を続けている。
ちなみに、古武道は『薙刀術』、現代競技としての武道は『なぎなた』と書かれ区別されている。
