概要
陸上自衛隊の普通化(歩兵)部隊向けに開発された小松製作所製装輪装甲車で、愛称は「ライトアーマー」。
ただし他の装備同様、恥ずかしいとか仰々しいとかアニメじゃあるまいしとか、色々な理由からあまりそう呼ばれない。もっぱら英訳のLight Armoured Vehicleの頭文字をとってLAV(ラブ)と呼ばれている。
イラク派遣にも持ち込まれ、有名になった。当時のTVニュースで見た人も多いだろう。
自衛隊の規格によるところの「軽装甲」。すなわち小銃弾程度の防弾機能を備えており、固有武器は持たないものの、車の天井のオープンハッチに盾つきの5.56mm機関銃、あるいは12.7mm重機関銃を据え付けるか、各種携行ミサイル兵器を持った隊員が身を乗り出して発射することが可能。
乗員4名(前2名、後方2名)が基本。天井ハッチを開けて射手を設けた場合はさらに1名を追加することができる。
本格的戦闘に使用することは軽装甲のため難しい面もあるが、パトロール任務、偵察任務などの普通科部隊・師団偵察隊がこなさなければいけない任務の多くは、この車輌でまかなうことができる。また、ヘリに吊り下げての移動もできるなど機動性に富むことも確か。総火演ではCH-47輸送ヘリで空輸される姿が見られる。
この種の車輌の少なさが陸自の泣き所だったためか、軽装甲とはいえ重宝がられ、他の装甲車輌等が年間数両などお寒い配備が続く陸自にしては珍しく、この軽装甲機動車のみ平成13年の配備当初から毎年100両を超える数で配備がつづけられている。また航空自衛隊の基地警備用にも若干数配備がつづけられている。 (他に高機動車があるものの、あれは小型トラックのようなもので非装甲のために戦場で使うことが厳しいという面があることから、軽装甲機動車は現場にも好評だとか。但し海外派遣に備え、高機動車や大型トラックにも増設防弾板は開発されている)
ただし、欠点として高機動車に比して搭乗者数が少ないため戦力展開の面では劣ること、高機動車より騒音が大きく被発見率や乗り心地が悪いこと、視界が悪いこと、重く重心が高いため不整地走行能力に劣ることが指摘されており、高機動車が防弾性を持ちうる今、正直ビミョーなところという評価もあるらしい。
陸上自衛隊の制式配備ではなく、部隊使用承認扱いで採用年度(○○式)は付いていない。制式化されてないことで色々と改造、改良したりすることが容易いのでこちらの方がいいという話も。(なまじ制式化していると財務省との改造・改良に必要な予算折衝で「改良が必要な機材を制式化したのか?」など突っ込みが入るなど色々厄介ごとが生じる…らしい。泣ける話ではある。ただ航空自衛隊の戦闘機や、海上自衛隊の艦艇は定期整備の名目で結構電子機器など中身がアップデートされる場合がある。ここは外面が変わると面倒だということかもしれない)
ともかく現にイラク派遣では追加装甲が付け加えられ、天井の機銃盾も360度全周の装甲付きにかわったほか、トラップ防止用のワイヤーカッターも据え付けられた。初期型に比べると現行の車輌は防弾ガラスが一枚増えたり、煙幕発射装置があるタイプなどバリエーションに富む。
形状はフランスのパナール社製VBL装甲車とそっくりで、イラク派遣ではオランダ軍兵士からVBLだと信じられてしまったらしい。(まぁここはパクリというか、運用コンセプトが同じなので同じ形になった…と好意的に解釈した方がいいかもしれない)
小銃弾に耐えられる程度の装甲を持ち、歩兵の足代わりに色々な用途に使える車輌というコンセプトは悪いものではない。なお、第6師団広報幹部の言葉によると「正面でガラスを含め12.7mm重機関銃弾に。側面で7.62mm機関銃弾に耐えられる」とのこと。
現在、防衛省技術研究本部(TRDI)において発表された2009年10月分随意契約内容から、現在「軽装甲機動車(改)」およびファミリー車両と思われる「軽偵察警戒車」なる車両の研究(開発)がスタートされたことが明らかになっている。詳しくは、TRDIの契約調達情報のページを参照のこと。
仕様[1]
- 乗員:4名
- 空車重量:4.5t
- 全長:約4.4m
- 全幅:約2.0m
- 全高:約1.9m
- 登坂能力:tanθ 60%
- 最高速度:約100km/h
- 行動距離:500km以上
- エンジン:水冷4サイクルディーゼルエンジン
- 武装:5.56mm機関銃の車載射撃または01式軽対戦車誘導弾の車上射撃が可能
※軽装甲機動車はコスト低減のために比較的短い周期でモデルチェンジされる民生部品が高い割合で使用されており、制式の対象としてなじまないことから制式化せず部隊使用承認が適当とされた。
軽装甲機動車のバリエーション
軽装甲機動車にも(非公式では)あるがいくつかのバリエーションが存在する。
通常型
冒頭の画像にもある軽装甲機動車の基本型。後述の各型はこの基本型を各部隊で改造して生み出されている。固有の火器はないものの、全周旋回可能なターレットに防盾を取りつければミニミを据え付けることが可能。また、ターレットからは01式軽対戦車誘導弾や87式対戦車誘導弾、84式無反動砲を発射することもできる。
オプションとして後部側面に発煙弾発射機を取り付けることができる。この車両は偵察隊や普通科連隊の情報小隊に配備されている模様。
国際派遣仕様
2003年の自衛隊イラク派遣の際に改修された車両。
96式装輪装甲車や高機動車の国際派遣仕様は後に制式化されたが、こちらは制式化されていない模様。
主な改修内容は
- ターレットに全周から防御可能な装甲版を追加。
- ターレットの機関銃手をワイヤートラップ(首切りトラップ)や切れた電線から守るためにワイヤーカッターを設置
- 側面・後部の防弾ガラスを7.62mm弾に耐えられるよう強化
- 後部に予備タイヤやジェリカンを載せるラックを追加
- ラジエーターを砂塵から防護するために改修
- 車体色を2色迷彩からオリーブドラブ1色に変更
- 車体側面や後部に大きな日章旗と「Japan」」「اليابان(アラビア語で日本の意)」などをペイント
など。これらの改修は設計から取り付けまで僅か3ヵ月で行われたんだとか…
現在、これら全ての改修がなされた車両は国際活動協力隊にのみ配備されているが、防弾ガラス強化や後部ラック追加などが施された車両は全国に配備されている。また、2010年の自衛隊ハイチPKO派遣の際は車体色は2色迷彩のままで側面に「UN」とペイントされた車両が使用された。
このほか、現在ジブチに派遣されている第一空挺団の車両には現地改修で天井を付けた車両があるようだ。
航空自衛隊仕様
航空自衛隊の基地警備隊に配備されている車両。
車体色が陸自の色より青っぽいオリーブドラブ1色になり、車体前部に桜と翼が組み合さった航空自衛隊のマークがペイントされている。この他の仕様は陸自と同じだとみられる。
指揮車型
各種指揮官用に車体後部に無線機を搭載したタイプ。無線機用のアンテナが1~3ほど装備されている。
また、第7師団所属の第72戦車連隊で運用されている車両には所属する戦車と通信できるようにしたものがあり、車体上部に戦車用の通信アンテナが増設されている。
12.7mm重機関銃M2 搭載型
第一空挺団や中部方面隊の一部部隊で運用されている車両。名前の通り車体上部に西側ベストセラー重機関銃である「12.7mm重機関銃 M2」を搭載したもの。これにより、ミニミと比べて大幅に火力を強化することが出来た。出来たのではあるが…
まず、こちらの画像をご覧頂きたい。実は、軽装甲機動車の銃架はこのイラストにもある通り「5.56mmMG用」つまりミニミ専用の銃架であり、62式やM2や96式自動てき弾は据え付けることが出来ない。なんでや!なら、どうやってM2を据え付けているのか?では、こちらの画像をご覧下さい…
なんということでしょう!ターレット前に自作した銃架をボルトオン!そこにM2を据え付けました!
が、しかし。ターレットに据え付けていないので旋回は不可。前方の極限られた範囲にしか指向できない。
それでも22口径の豆鉄砲よりはマシである……たぶん。
但し昨今開発に成功した国産RWSは5.56ミリ軽機関銃MINIMIから12.7mm重機関銃M2まで対応した上で、軽装甲機動車への搭載が前提とのことなので、本装備の配備普及が進めば火力も大分改善されると思われる。
装甲救護車型
車体後部のスペースに木製の台を搭載しており、ここに負傷者を載せて後送するようだ。
このほか、地上レーダーらしきものを搭載した車両や、車内に針金を巡らせてターレットに乗る銃手が各ドアのロックを解除できるようにした車両などがあるようだ。
また、某普通科連隊では改善要求(現場部隊から装備品の改善点を纏め、報告する制度)の際にLAVに「96式自動てき弾載っけれるようにしてよ!」と要望したところ、「それなら1度お前らで試してみろ!」と言われたので、木製の銃架を自作してターレットに固定し、96式てき弾を据え付けれるようにした車両もあったとかなかったとか…
軽装甲機動車の評価についてなど
アメリカ軍には、イラクにも持ち込んだ陸上自衛隊の高機動車のお手本になったハンヴィー(HMMWV)(SUVハマーの軍事仕様)があるものの、所謂ジープと同様に耐弾性のある装甲が無いため、簡単に小銃弾が貫通し中の兵士が傷を負う事態が続出。慌てて装甲板を貼り付けると今度は車重が増えて、サスペンションなどあちらこちらが故障する…という事態になった。
軽装甲でも軽装甲機動車の設計思想は紛争地域の警察活動、戦場では歩兵の損失を防ぐのに十分に有効と言えるだろう。また、敵襲撃武装歩兵にとっても軽量の小銃・機関銃ではなく、かさばる対戦車ミサイルが必要となれば機動性が落ち、「嫌がらせ」効果を期待できる。
イラク派遣でも使い勝手の良さから各国兵士から羨望の目で見られたと言われるが、果たして軽装甲機動車の能力故か、クーラーありの快適装備故だったのかは定かではない。
イラク派遣時のTV露出が多かったこともあり、ミニカーやRCカーが出たりと中々人気は高いようだ。
ただし、この手の装甲装輪車両は乗車戦闘ができない上に、その軽装甲ゆえに無反動砲などの対戦車兵器のカモにもなりうるため、イラクのようなゲリラがうようよする地域での非対称戦は別として通常の戦闘では結局最前線到着前に降車するのがセオリーであり、日本が想定するような正規戦における本カテゴリーそのものの有効性に疑問があるという意見もあることにはあるのを覚えておくと良いかもしれない。