スペイン・リオハで最大の自社畑を持つワイナリーにして熟成マスターを自称する「ファウスティーノ」が2025年、日本での存在感を増すべく、あらたな門出としてワイン業界向けイベントを開催。 ワイナリーの輸出部門の長アンヘル・エルナンデス・ベレスさんが来日した。
なぜか日本では知られざる世界的高級ワイン産地
ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、ナパ・バレー、バローロ、バルバレスコ、キャンティ・クラシコ、フランチャコルタ……それからモーゼル川流域にプエンテ・アルト?
日本は世界的にも結構ワインをよく飲んでいる国で、特に高級ワイン界隈ではかなり重要なマーケットなのだけれど、高級ワインと言ったときに名前が挙がる産地に、スペイン・リオハはなぜかなかなか入らない。スペインはフランス、イタリアとならぶ世界三大ワイン生産国で、そのなかでも押しも押されもせぬ高級ワイン産地がリオハだというのに……
そんな事情なのでちょっとだけ解説すると、リオハ・ワインには品質の指標として熟成期間でのカテゴリ分けがある。最短熟成期間2年で「クリアンサ」(白・ロゼは1.5年)、3年で「レセルバ」(白・ロゼは2年)、赤ワインの場合5年、白かロゼなら4年で「グラン・レセルバ」。いずれもオーク樽熟成期間が赤1年、白・ロゼ半年、グラン・レセルバの赤のみ1.5年以上というのがルール。
要するに、ワインに「リオハ」「グラン・レセルバ」と書いてあったら、少なくともそのワインは仕組み上は世界で一番いいワインのひとつだ。
さてそれで、このグラン・レセルバの最大生産者としてグラン・レセルバ全体の約35%を造り、グラン・レセルバ以外も含めた総生産量は年間約1000万ボトル、7万5千樽と140万本のワインを常時熟成中というリオハを代表するワイナリーが「ファウスティーノ」だ。
収穫したブドウが現金化するまでに場所も時間もたくさん必要なため、必然的に希少化・高価格化する長期熟成ワイン界隈で、ファウスティーノはこの圧倒的規模を武器にしている。現在販売中のワインで一番ブドウ収穫年(ヴィンテージ)が古いものは1955年だというから驚き。まぁそれは特別としても日本での輸入元・都光が現在販売中の代表作『ファウスティーノ Ⅰ グラン・レセルバ』(赤ワイン)が2014年ヴィンテージ。今年の春に、このワインの40周年を記念して限定販売されるというものは2004年ヴィンテージだ。ルール上は5年でいいところを倍以上の期間熟成させて、なおかつ希望小売価格は前者5,400円(税別)、後者でも同15,000円というのだから、スゴいお買い得感がある。
余裕と安定の長期熟成
名産地のワインが高騰化する現在、この価格は嬉しい。とは言っても、ワインの出来はそこそこでした……ということなら仕方がない。しかし、このワインはスペインが誇る世界最高峰カテゴリを背負って立つだけのことはあって、ワイン専門誌でも高得点の常連。
2014年のそれは、最近のエレガント志向なトレンドは抑えつつも、酸味とタンニンがしっかりとしているフルボディ赤ワイン。今飲んでも価格以上の納得感があるし、なにより魅力的なのは実に高そうな潜在能力。現時点で前面に出ている要素や今はまだ控えめな要素が、この後、5年、10年と時が経つと、また状況が変わって、ワイン全体としてはさらに格が上がっていくことが容易に想像できる。
造り手的には50年以上熟成可能、と見ているらしい。そこまでいくと真偽の確認は次世代だよりだ……
ただ、私はファウスティーノの輸出部門の長 アンヘル・エルナンデス・ベレスさんの来日のイベントで(なにせファウスティーノは生産量の64%を世界140カ国以上に輸出しているから重責)2014年ヴィンテージのほかに、2004年、1987年を試すことができたのだけれど、2004年はそもそもが過去60年で最高の年だったそうで、どこまでがブドウでどこまでが熟成の力かはわからないけれど、2014年比で+10年の熟成は全体の滑らかさ、キメの細かさ、という形で感じられた。ワインとしての格があきらかに1クラス上。38カ月以上樽熟成しているらしいのだけれど、ワインの潜在能力を引き出す樽使いの技術もこのくらいの熟成を経ると明確に素晴らしくて、品のない“オーキーさ”みたいなものが微塵もないのは当然のこと、高貴と称したくなるワインだった。
1987年は今から約40年前のブドウ。普通このくらいになると、さすがにワインも疲れてくるというのか老いてくるというのかをするものだけれど、まず驚くのはそのエネルギッシュさ。すごくシャキっとしている。壊れ物に触れるように大切に扱い、若い時期は顕著ではなかったボトル一本一本の差異を楽しむのは、ヴィンテージワイン愛好家の喜びではあるだろうけれど、このワインについてはそこまで慎重でなくてもいいようにおもえる。
同ヴィテージで複数のボトルを試したわけではないけれど、ファウスティーノの熟成ワインからは不安定さを感じない。10年後、20年後、40年後、このワインはこうなると確信を持ってプロダクト(商品)として完成させているのだろう。同じように飲むものを幸せにしてくれる年月を重ねたワインであっても、自然なりにブレるプロデュース(農産物)としてのワインとは、そもそも意識のありようが違うように感じられた。
と言うと、ファウスティーノがなんだか冷たいビジネスマンのように感じられるかもしれないけれど、このワイナリーは元を辿ればブドウ栽培家の一族が立ち上げたワイナリーで、そちらの起源は1861年にある。ファウスティーノというのは1930年からこのワイナリーを引き継いでいる一族の2代目の名前で、現在も家族経営で4世代目。ブランドの成立は1964年だそうだ。
この歴史の中で手に入れた畑はリオハのワイナリーとして最大の650ha。そこに長い歴史のなかで縁を結んだ契約農家のブドウも加わり、先述の年間1000万本が実現しているのだけれど、ブドウ農家としてのオリジンゆえに、自然に翻弄されるのではなく上手な付き合い方を心得ている、と見るのが正解のようにおもう。
そこにビジネスセンスが加わって、現在に至っているのだろう。家族経営だけれど、今やファウスティーノのほかに5つのワイナリーを傘下に収めているという。
日本でのラインナップはシグネチャーである『ファウスティーノ Ⅰ グラン・レセルバ』を中心に、極めて珍しいグラン・レセルバの白『ファウスティーノ Ⅰ グラン・レセルバ ビアンコ』(2025年春から日本発売)、エントリーレベルの『ファウスティーノ Ⅶ(セブン)』(赤・白・ロゼ)『クリアンサ』となる。