中心市街地の空洞化を食い止めるために復活した市電

 全国で起きた市電廃止ラッシュが一段落した昭和末期、市電は「昭和の遺物」とのイメージで見られるようになったが、時代が平成に移ると、再び市電に注目が集まる。

 行政関係者が抱く市電の古臭いイメージを払拭させたのは、熊本市電が1997年に導入した9700形という車両だった。それまでにも乗り降りしやすい低床車は各地で登場していたが、同車両はさらに開発・設計を進めて乗りやすさに磨きをかけていた。また、見た目もスタイリッシュになり、かつての路面電車のイメージを刷新した。

市電のイメージを大きく刷新した熊本市電の9700形(写真:筆者撮影)

 車両というハード面だけではなく、市電は自治体の政策と結びつけることでソフト面でも斬新な施策を展開するようになった。

 例えば、地方都市はマイカー利用を前提とした生活スタイルが普及し、商業施設側もより大きな施設・広大な駐車場を建設する必要から地価の安い郊外へと移転した。これが既存の中心市街地を空洞化させることになり、結果的に地方都市から活気を奪っていく。

 中心市街地の空洞化を食い止めるには、自動車を前提とした生活スタイルからの転換が必要になる。そこで、行政は市電と連携して停留所に駐車場や駐輪場などを併設。家から停留所までは自動車・自転車を使い、停留所から中心市街地までは市電に乗るという「パークアンドライド」を提唱した。

 福井県を走る福井鉄道は、早い段階からこのパークアンドライドを積極的に導入してマイカーから市電への転換を促し、需要の掘り起こしにつなげた。

 そのほかにも、昨今ICカードによる運賃収受が一般的になったことから、市電の「信用乗車方式」といった施策も検討が始まっている。これは運賃の支払いを乗客に委ねるシステムで、海外では広く普及している。

 市電の多くは経営的な観点からワンマン運転となり、運転士は運転業務のほか本来なら車掌がこなしていた運賃収受といった業務を担当することが一般的になっている。乗降時に運賃を支払うと、当然ながら停留所における停車時間が長くなり、それは移動時間を短くする速達性や時間通りに運行する定時性といった市電のメリットに支障を生じさせかねない。

 日本国内では不正乗車を防止する観点から信用乗車方式には慎重論も根強いが、それでも2023年に新規開業した宇都宮ライトレールは、信用乗車方式を採用してスムーズな乗降を実現した。