いま最も真剣に勝負、そして強さというものに向き合っているスポーツ漫画として挙げたいのが『メダリスト』です。
トップから最下位までの点数が並べられ、残酷なまでに実力(強さ)が可視化されるフィギュアスケートの競技性を、作者のつるまいかださんが真正面から描き出しています。
年間数百タイトルの漫画を読む筆者による連載「漫画百景」。第五十六景目のタイトルとして、スポーツにおける“真の強さ”とは何なのか? この難しい問いに答え得る快作を紹介します。
目次
米津玄師も激賞 TVアニメも反響を呼ぶ『メダリスト』
『メダリスト』は、2020年5月から講談社の漫画誌『月刊アフタヌーン』で連載中のフィギュアスケート漫画です。作者はつるまいかださん。
2022年に「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門で1位を受賞。2023年には第68回「小学館漫画賞」一般向け部門、2024年には第48回「講談社漫画賞」で総合部門を受賞しています。
2025年1月から放送中のTVアニメ(制作はENGI)は、アニメーションでここまで表現するか! と驚かされる演技の流麗さが注目を集めています。本当に凄いです。
また、アニメのオープニングテーマ「BOW AND ARROW」を歌う米津玄師さんは、主題歌が解禁された際に原作の熱心なファンであることを明かし、「とにかく素晴らしい漫画なので全人類読んでください」と激賞。
おまけに、自分で描いた本作の主人公・結束(ゆいつか)いのりを「BOW AND ARROW」のジャケットイラストに使用するこだわりっぷりを見せて話題になりました。
「BOW AND ARROW」のジャケットイラスト(Illustration by 米津玄師)
フィギュアスケートで避けられない“親”の存在を誠実に描く
『メダリスト』の主人公は、小学5年生の結束いのり。誰よりもスケートリンクに立ちたいと熱望する少女です。しかし、母親の結束のぞみから理解が得られず、満足に氷の上を滑ることができない毎日に打ちひしがれています。
のぞみは、何でも起用にこなす姉の結束実叶(みか)と比べて、運動と勉学のどちらにも秀でていなかったいのりに対し、始める前からフュギュアスケートなんてできっこないと決めつけてかかります。尊厳を傷つけられたいのりは、どうしてものぞみに強く出られずにいました。
そんないのりと運命的な出会いを果たすのが、彼女のコーチをつとめることになる青年・明浦路(あけうらじ)司です。
『メダリスト』1巻。司といのり/画像はAmazonから
現役時代はアイスダンスの選手として活躍するも、あと一歩のところで表彰台に立つことができなかった司は、中学生になってからフィギュアスケートを開始。スタート時点から大きく周囲から出遅れた過去を持つ苦労人です(フィギュアスケートをはじめる適齢期は5歳前後と言われる)。
司はかつての自分をいのりに重ね、いのりのコーチになることを決意。のぞみがドン引きする勢いで説得し、かなり強引ですが、いのりをスケートリンクに引っ張り出すことに成功します。
以降も、のぞみはいのりが選手になることに懐疑的だったのですが、めきめきと頭角を現す娘の姿を見て、自分が間違っていたことを悟り、以降は全力でいのりの夢を応援する心強い味方になるのでした。
なお、当初はいのりの可能性を閉ざす言動が強調されていたのぞみですが、決して毒親ではありません。
実叶が怪我で選手生活を断念した姿を見ていたことや、いのりに向けられる周囲の心無い言葉を聞いて、自分の育て方が間違っていたのではないか? と不安を抱えていた背景が後々描写されます(『メダリスト公式ファンブック』にも詳しいです)。
『メダリスト』公式ファンブック/画像はAmazonから
子どもの将来を心配する親こそ陥りやすいネガティブな感情を、相当リアルに描写していて驚きました。のぞみに割かれたページは決して多くはないにも関わらず、サイドストーリーとして見事に親の心情を描き出した一連の流れを読んで、「つるまいかださん、只者じゃない」と思わされたものです。
フィギュアスケートは資金面でのサポートが不可欠な競技です。そのため、保護者の話をスルーするわけにはいかないのですが、これを1話から盛り込む姿勢につるまいかださんのフィギュアスケートに対する誠実さを感じます。
このようなサイドストーリーは他にもあって、スケートリンクの閉場を機に現役を引退せざるを得なかった選手も登場します。熱い本編はもちろんのこと、選手を応援する家族や様々な事情を抱える選手の内面にも焦点が当たるのが『メダリスト』の魅力の一つです。
※以下より最新51話(2025年2月25日時点)までのネタバレを含むため、未読の方はご留意ください。

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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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