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バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

“最良”を更新し続けるヤマハ「MT-09」。地味な改良ながら想像以上に進化した2024年モデル

ヤマハのネイキッドモデル「MT」シリーズのなかでも人気の高い「MT-09」が、2024年4月にマイナーチェンジ。それほど大きな改良ではないが、ルックスが変わり、乗り味も異なるという。新型「MT-09 ABS」の進化の程度を確かめてみた。

「ダークブルーイッシュグレーメタリック8」「ディープパープリッシュブルーメタリックC」「マットダークグレーメタリック6」の3色をラインアップ

「ダークブルーイッシュグレーメタリック8」「ディープパープリッシュブルーメタリックC」「マットダークグレーメタリック6」の3色をラインアップ

ライディングポジションを中心にブラッシュアップ

すぐれた加速力を持つ3気筒エンジンと、ストリートファイター的なアグレッシブなデザインが特徴の「MT-09」は、2014年に登場した初代モデルから多くのライダーに支持され、ブラッシュアップを繰り返しながら進化してきた。そして、2021年には初のフルモデルチェンジでフレームからエンジンまで一新。筆者はこのモデルに試乗しているが、その進化具合に驚かされたものだ。

今回のマイナーチェンジは、外観の変更と、ハンドルやステップ位置などライディングポジションのブラッシュアップが中心。個人的に着座位置を含めたライディングポジションが「MT-09」の魅力を作り出す要素だと思っているので、そこに手を入れてきたことに期待が高まる。

フルモデルチェンジから比較的短いスパンでマイナーチェンジされたことから「MT-09」の人気の高さが感じられる。新型「MT-09 ABS」のサイズは2,090(全長)×820(全幅)×1,145(全高)mmで、重量は193kg。メーカー希望小売価格は1,254,000円(税込)

フルモデルチェンジから比較的短いスパンでマイナーチェンジされたことから「MT-09」の人気の高さが感じられる。新型「MT-09 ABS」のサイズは2,090(全長)×820(全幅)×1,145(全高)mmで、重量は193kg。メーカー希望小売価格は1,254,000円(税込)

888ccの並列3気筒エンジンは、120PS/10,000rpmの最高出力と93Nm/7,000rpmの最大トルクを発揮する。パワートレインのスペック値は先代モデルと同じ

888ccの並列3気筒エンジンは、120PS/10,000rpmの最高出力と93Nm/7,000rpmの最大トルクを発揮する。パワートレインのスペック値は先代モデルと同じ

車体下にボックスのような形で配置された集合マフラーも先代モデルと共通。排気音を路面に跳ね返らせてライダーの耳に届ける仕組みだ

車体下にボックスのような形で配置された集合マフラーも先代モデルと共通。排気音を路面に跳ね返らせてライダーの耳に届ける仕組みだ

新しくなった外観で目を引くのはフロントフェイス。歴代の「MT-09」もインパクトのあるデザインが多かったが、新型は「アイアンマン」を思わせるようなルックスだ。また、ガソリンタンクとシートも一新された。特にガソリンタンクは新しいプレス成形方法を採用することで、ニーグリップがしやすい形状に仕上げるとともに、高さを抑えてハンドルの切れ角を増している。

歴代モデルの中でもかなりインパクトの強い顔立ち

歴代モデルの中でもかなりインパクトの強い顔立ち

新しいプレス成形方法により実現した複雑な形状のガソリンタンク。高さを抑えて幅を持たせることで容量を確保し、ニーグリップする部分を絞り込んで下半身との一体感をアップさせている

新しいプレス成形方法により実現した複雑な形状のガソリンタンク。高さを抑えて幅を持たせることで容量を確保し、ニーグリップする部分を絞り込んで下半身との一体感をアップさせている

タンクキャップの近くには、ライダーに吸気音を聞かせるギミックが設けられている

タンクキャップの近くには、ライダーに吸気音を聞かせるギミックが設けられている

先代モデルはタンデムシートがシートと一体化していたが、新型は別体式を採用。ライダーが着座位置を後ろにズラした際に、お尻を支える形状となった。また、シートの前側が絞り込まれ、足付き性が向上

先代モデルはタンデムシートがシートと一体化していたが、新型は別体式を採用。ライダーが着座位置を後ろにズラした際に、お尻を支える形状となった。また、シートの前側が絞り込まれ、足付き性が向上

そして、ハンドル高さが低くなり、ライディングポジションが変わった。歴代の「MT-09」はスーパーモタード的なキャラクター付けとされていたため、ハンドル位置がかなり高かったが、ややロードスポーツ的な乗車姿勢に近付いたカタチだ。それに合わせて、ステップ位置はやや後退。ライディングポジションの変更にともない、フレームの剛性バランスや足回りのセッティングも調整しているという。

ハンドル高が先代モデルと比べて約3.4cm低くなり、前傾姿勢が取りやすくなった

ハンドル高が先代モデルと比べて約3.4cm低くなり、前傾姿勢が取りやすくなった

先代モデルのハンドルクランプはゲタを履かせたような状態だったが、ハンドルの高さが抑えられたことで自然な見た目に

先代モデルのハンドルクランプはゲタを履かせたような状態だったが、ハンドルの高さが抑えられたことで自然な見た目に

ステップの位置が後方に下がったのもロードスポーツっぽい部分。クイックシフターも装備している

ステップの位置が後方に下がったのもロードスポーツっぽい部分。クイックシフターも装備している

メーターディスプレイの形状は変わっていないが、新たにBluetoothでスマートフォンと接続できる機能を搭載。スマートフォンに専用アプリ(Garmin StreetCross)をインストールすれば、メーターディスプレイ上でナビゲーション機能を使用できる

メーターディスプレイの形状は変わっていないが、新たにBluetoothでスマートフォンと接続できる機能を搭載。スマートフォンに専用アプリ(Garmin StreetCross)をインストールすれば、メーターディスプレイ上でナビゲーション機能を使用できる

スイッチ周りのUIやウインカースイッチの形状も変更。クルーズコントロール機構も搭載された

スイッチ周りのUIやウインカースイッチの形状も変更。クルーズコントロール機構も搭載された

フレームの基本設計は同じだが、フロント周りの剛性バランスなどは変更しているとのこと

フレームの基本設計は同じだが、フロント周りの剛性バランスなどは変更しているとのこと

フロントサスペンションのバネレートは従来モデルより高くなった。先代モデルで一新された軽量なホイール「SPINFORGED WHEEL」は引き続き採用

フロントサスペンションのバネレートは従来モデルより高くなった。先代モデルで一新された軽量なホイール「SPINFORGED WHEEL」は引き続き採用

コーナリング中の車体姿勢や荷重配分を最適化するため、リアサスペンションのリンク設計も調整している

コーナリング中の車体姿勢や荷重配分を最適化するため、リアサスペンションのリンク設計も調整している

ラジアル式のマスターシリンダーはブレンボ製に変更。タッチやコントロール性が高い

ラジアル式のマスターシリンダーはブレンボ製に変更。タッチやコントロール性が高い

マスターシリンダーの変更に合わせて、クラッチレバーも左右対称を意識したデザインに変わった

マスターシリンダーの変更に合わせて、クラッチレバーも左右対称を意識したデザインに変わった

さらにキレ味を増したハンドリングを実感

「MT-09」は車体重心に近い着座位置で車体との一体感が高く、かつ、そのライディングポジションだからこそ凶暴と言えるほどの加速も楽しめるのが初代から続く魅力。前傾を増すなど、ライディングポジションが変わった新型「MT-09 ABS」は、どのくらい乗り味が異なるのだろうか。

シート高は先代モデルと同じ825mmだが、シートやシートレールを絞り込んだ形状としたことで足付き性が向上。身長175cmの筆者の場合、両足のかかとが接地しないくらいだ

シート高は先代モデルと同じ825mmだが、シートやシートレールを絞り込んだ形状としたことで足付き性が向上。身長175cmの筆者の場合、両足のかかとが接地しないくらいだ

筆者は過去長い期間スーパーモタードに乗っていたこともあり、先代モデルまでの「MT-09」のライディングポジションがしっくりきていた。このため、ロードスポーツ的になった新型には違和感を覚えるのではないかと懸念していたが、実際にまたがってみると違和感はまったくない。乗車姿勢が前傾になるというより、フロントに荷重しやすくなった印象。タンクやシートの形状が変更されたことで、以前より前よりに着座しやすくなったことが効いているのかもしれない。

前傾は少しきつくなったが、前のほうに着座する「MT-09」シリーズの設計思想は変わっていない

前傾は少しきつくなったが、前のほうに着座する「MT-09」シリーズの設計思想は変わっていない

久しぶりに「MT-09」の加速を味わうので、まずは出力が低い「RAIN」モードで走り出す。街中や渋滞時などに扱いやすく、後述するハンドリングのよさも相まって“乗りやすいネイキッドマシン”のような特性だ。だが、「RAIN」モードでは、すぐに物足りなくなり、「SPORT」モードに切り替えた。過激なモードだが、車体との一体感が増しているため、強烈な加速でも体が遅れることがない。恐怖感も少なく、加速力をしっかり味わえた。

マシンとの一体感が高まったことで加速を存分に味わえるように。そのいっぽうで、街中での扱いやすさも向上

マシンとの一体感が高まったことで加速を存分に味わえるように。そのいっぽうで、街中での扱いやすさも向上

ブレーキのマスターシリンダーが変更され、フロントのバネレートが高くなったことで、ブレーキング時のコントロール性や安心感がアップ。コーナーへの進入時の余裕が増すのはもちろん、交差点などで停止する際に停止線でピタッと止められて気持ちいい。また、サスペンションの変更により前後タイヤの接地感も向上し、特に、加速時にタイヤが路面を蹴っている感覚がつかみやすくなった。これは、新たに採用されたブリヂストン製「バトラックスS23R」タイヤのおかげもありそうだが、アクセルを開ける楽しみがさらに増えた印象だ。

そして、コーナリングがさらに楽しくなった。以前のサスペンションのピッチングを利用して曲がるようなハンドリングも好みだったが、サスペンションが固められたこととフロントに荷重しやすくなったことで、コーナーでの安定感とハンドリングのキレ味が向上。重心に近い位置に座り、マシンとの一体感を感じながらコーナーに飛び込むと、スパッと向きが変わる。ワインディングで存分に発揮されるだけでなく、街中の交差点を曲がるようなシーンでもその片鱗が味わえた。

キレを増したハンドリングが爽快。ワインディングはもちろん交差点やUターンなども気持ちいい

キレを増したハンドリングが爽快。ワインディングはもちろん交差点やUターンなども気持ちいい

高速道路では、前傾がしやすくなったこともあり、体に感じる風圧がやや軽減。クルーズコントロールが装備されたこともあって巡航やツーリングがしやすくなった。6速ギアに入れたままでも、右手をひと捻りすれば楽に追い越せる加速力はもちろん健在だ。少し気になったのは、舗装の継ぎ目などでの突き上げ感が強くなっていること。バネレートが高められた影響なのかもしれない。

試乗を終えて

細かいブラッシュアップを中心とした新型「MT-09 ABS」はマイナーチェンジと発表されているが、実際に乗ってみると、想像以上に手間をかけて運動性能が磨き上げられていることを感じる。フレームを新設計し、ホイールを軽量化した先代モデルで感じた魅力がさらに向上している印象だ。元々「MT-09」はマシンとの一体感が高く、体に馴染むのが早いが、その印象はこの新型がいちばん高い。

スペック的には変わらないモデルチェンジであっても、「MT-09」は毎回“今回のモデルが最高”と感じる仕上がりを実現している。まさに、最新の「MT-09」こそ最良の「MT-09」であると言えるだろう。

●メインカット、走行シーン撮影:松川忍

増谷茂樹
Writer
増谷茂樹
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。
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中村真由美(編集部)
Editor
中村真由美(編集部)
モノ雑誌のシロモノ家電の編集者として6年間従事した後、価格.comマガジンで同ジャンルを主に担当。気づけば15年以上、生活家電の情報を追い、さまざまな製品に触れています。
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