炭素クレジット共同購入でCO2排出量実質ゼロ、佐賀の中小11社に見る脱炭素実践のヒント
佐賀県の中小企業11社が連携し、脱炭素化に取り組んでいる。各社が温室効果ガス(GHG)排出量を計測し、カーボン(炭素)クレジットを共同購入して排出量を実質ゼロにしている。11社は切磋琢磨(せっさたくま)しており、一社単独とは違った成果を生み出している。商品の魅力向上にもつながり、海外での新規取引先を獲得する事例も生まれた。“連携”が、中小企業の脱炭素実践のヒントとなりそうだ。(編集委員・松木喬)
【伝統産業守る】異業種交流会から始動 自然喪失に危機感
11社のグループは「SAGA COLLECTIVE(サガコレクティブ)協同組合」。家具、しょうゆ・みそ、ノリ、茶、ゆずこしょう、日本酒、和紙、有田焼、そうめん、鍋島緞通(敷物)と、いずれも地元の伝統産業を支える企業ばかりだ。これら11社はそれぞれが事業活動によって排出するGHGを計算している。算定基準でいうと「スコープ1、2」の排出量だ。節電や設備更新によって削減に取り組み、7社は残った排出量を炭素クレジットによって打ち消してゼロ化する「カーボンオフセット」を実行している。
現状は排出量が多くてゼロカーボン化ができていない4社も、商品分をカーボンオフセットしている。
協同組合は前身が2017年、伝統産品の輸出について勉強する異業種交流会としてスタート。統一ブランドを「サガコレクティブ」と決定した直後、新型コロナの大流行に見舞われた。

同じ時期、有明海のノリの不漁や集中豪雨被害も経験した。気候変動の脅威を目の当たりにし、協同組合の樺島雄大理事長は「11社はどの企業も、自然の恵みを受けて事業をしている。山や水がしっかりとしていないと、先代が築いた仕事を続けられない」と危機感を覚えた。各社の経営基盤である自然を守るために活動を脱炭素に転換。環境問題の専門家を招いて勉強会を開くようになった。
連携による成果が生まれている。「みんなが取り組んでいるなら、うちの会社もやらないといけないと、お互い刺激を受けている」(樺島理事長)という。11社全体の21年度の排出量は1617トンだった。切磋琢磨によって23年度は1315トンまで減った。
【新規取引決まる】クレジット共同購入 収益拡大に効果
お互いの工場見学も実施している。樺島理事長が社長を務める家具製造のレグナテック(佐賀市)は工場に電力計を取り付けた。取得した電力データを見て、設備の稼働を平準化している。GHG排出量を21年度と比べ、23年度は30%削減した。
連携の効果は炭素クレジットの調達にも現れている。11社が共同調達することで、単価を低減できた。炭素クレジットの管理口座や利用の手続きも協同組合が担うので、一社で取り組むよりも経費を抑えられている。
また、オフセットに利用する炭素クレジットは、佐賀県内と福岡県内の森林整備による「Jクレジット」、佐賀県唐津の藻場再生による「Jブルークレジット」。再生可能エネルギー事業や省エネ投資によって創出された炭素クレジットもあるが、協同組合は自然を守る目的で設立されたため生態系由来の炭素クレジットにこだわる。

協同組合の山口真知事務局長は「ストーリーとして伝えやすく、感情を込めやすい」と、炭素クレジットがブランディングの役割も果たしている。
実際に事業にも好影響が出ている。11社の商品ブランド「サガコレクティブ」には、排出ゼロマークを付けている。環境関連のイベントで出品を求められるようになり、差別化につながっている。
さらに樺島理事長が経営するレグナテックは、欧米の取引先からGHG排出量を問われており、活動を評価されてフィンランドの企業との新規取引が決まった。樺島理事長は「脱炭素への活動が販路拡大や収益向上に結びつき、成長できることを示したい。そして佐賀に人を呼び込みたい」と思いを熱く語る。
11社が連携した協同組合の活動は、24年度の「グリーン購入大賞」で環境大臣賞に選ばれた。興味を持つ地元企業が増え、旅館の新規加盟が決まった。他地域からの視察も相次いでおり、中小企業の脱炭素実践のモデルとなりそうだ。