9/3 OKI DUB AINU BAND＠渋谷クラブクアトロ
2010年9月3日、残暑が厳しい渋谷にOKI DUB AINU BANDのライブを見るためにやってきた。新作『SAKHALIN ROCK』は、僕の中で2010年のベスト・アルバムの一枚に挙げられるほど、新鮮さと驚きと独創性にあふれた作品だ。彼らにしか鳴らすことのできないその音楽を聴き、この日まで何度も何度もその唯一無二のグルーヴに浸っていた。OKIは今作の制作に入る前に、サハリンへトンコリ（アイヌの伝統民族楽器）の源流を訪ねる旅に出ている。サハリン、日本名「樺太」。そこはかつて3千人ものアイヌ民族が暮らしていた場所。しかし、今では日本とロシアの国境線の取り合いにより、その土地にアイヌはほとんど残されていない。その旅の中で、強烈なビジョンを得たOKIは日本に戻り、『SAKHALIN ROCK』の製作に入る。そして、そのビジョンの全貌が生演奏という形で、猛暑日の渋谷で明らかになろうとしていた。
渋谷クアトロに集まったオーディエンスは、OKI DUB AINU BANDが現れるのを今か今かと待ち続け、すでに静かな熱気に包まれていた。そして、19：00を少し過ぎたあたりで、『SAKHALIN ROCK』のジャケットの中で着ているアイヌの民族衣装で現れたOKI。この日は新作のレコーディングに参加したメンバー、居壁太（vs&tonkori）、中修卓（bass）、沼澤尚（drs）、エマーソン北村(keyboards)、ダブ・ミックスには内田直之という強力なメンバーが彼のバックを支えていた。1曲目「OSORO MAP」のイントロが始まり、トンコリの音色が響いた瞬間、クアトロはサハリンの氷を溶かすほどの熱気に一瞬にして包まれた。地を這うようなベース・ライン、寸分の狂いもなくリズムを刻むドラム、空間を操るキーボード、アイヌ語で歌われるボーカル。これら全てがまるでひとつの音の塊のように会場を揺らし、時折空間をゆがめるようにDUB MIXが施される。そして、静かにミニマルなメロディーを奏でるトンコリ。その響きは、真冬には−２０℃を下回る北の大地を数百年以上乗り越えてきた力強さと、アイヌの人々を癒してきた優しさの両方を兼ね備えている。
新作からの楽曲を中心に演奏する中、中盤OKI以外のメンバーが全てステージ上からいなくなる。そして、OKIは一人で−２３℃のサハリンの地でフィールド・レコーディングしたという「PORONAYSK−２３℃」をおもむろに演奏し始める。静けさの中、ソロで響くトンコリのメロディは、神秘的なものを感じさせるほど穏やかだった。その後も、アイヌに伝わる伝統音楽を何曲か一人で演奏し、後半からはトンコリをエレキ・ギターに持ち替え再びバンド演奏に戻る。するとそのサウンドはより鋭さを増し、会場全体を揺らすうねりを生み出した。特にアンコール３曲前に演奏された「BEKA BEKA」はベスト・アクトだった。ひたすら同じメロディが繰り返される中、わずかに高揚していくリズム隊、一体どのくらいの時間演奏していたのかわからなくなるほど、トランス状態に持ってかれてしまった。この日がこのメンバーでの初ライヴだったとは思えないほどの強固なバンド・サウンドは、後半に進むにつれて勢いを増し、アンコール直前に演奏されたタイトル曲「SAKHALIN ROCK」、アンコール楽曲「EAST OF KUNASHIRI」で頂点を迎えた。
この日、何より驚いたのは、５０歳を過ぎても一切衰えることのないOKIのパワーとその創作意欲だ。２時間近くにおよぶライヴ中、常にエネルギーを放ちほとんど休憩をとることなく演奏する姿を見ていると、まだまだこれからも未知のサウンドを創り続けていくことを確信した。そして、次はどんな音楽を作り出し、どんなヴィジョンを僕たちに見せてくれるのか今から楽しみでならない。(text by 池田義文)
SAKHALIN ROCK TOUR 2010
2010/09/03(金)@渋谷クラブクアトロ
CAST:
OKI DUB AINU BAND
OKI - tonkori, vocals, guitar & mukkuri
居壁太 - vocals & tonkori
中條卓 - bass
沼澤尚 - drums
エマーソン北村 - keyboards
内田直之 - engineer
DJ：H☆F(CULTURAL VIBES)
