アレハンドロ・フラノフ ピアノ・ソロ作品2タイトル同時配信!!
「アルゼンチン音響派」の第一人者アレハンドロ・フラノフ。作品ごとに様々な表情を持ち、親指ピアノや電子楽器、ゴングやシタールなど多くの楽器を使用し、マルチ・プレイヤーならではの多彩な音色で楽しませてくれますが、なんと今回は全編ピアノ・ソロ!! また新作を記念し、廃盤となっているフラノフによる、2005年のピアノソロ作も再発です! はたして、音の魔術師アレハンドロは、ピアノでどんな世界をみせてくれるのでしょうか? OTOTOYでは2人のライターによるクロスレヴューで、この魅力的な作品をじっくり紹介します!
過去の紹介記事はこちら
『Yusuy』『Opsigno』紹介記事
アルゼンチン特集
ALEJANDRO FRANOV / Solo Piano
【配信価格】
WAV 単曲 200円 / アルバム購入 1,400円
mp3 単曲 150円 / アルバム購入 1,050円
【Track List】
01. Bulnes / 02. Impasiones / 03. Otamendi / 04. Para la mbira / 05. Beijing
06. El ombú / 07. Despedida / 08. Saquito de té
ALEJANDRO FRANOV / Melodia
【配信価格】
WAV 単曲 200円 / アルバム購入 2,000円
mp3 単曲 150円 / アルバム購入 1,785円
【Track List】
01. Rigen / 02. Huemules / 03. Siglos / 04. Dentro 05. Gatera 06. Súplica / 07. Luz de lux / 08. De Agua / 09. Mbira / 10. Muraya / 11. Opsigno / 12. Himno / 13. Bewbea / 14. Sauce / 15. Melodia / 16. Brawnies / 17. Beijing
音楽的な豊かさの背景には密やかなメロディーの調べがある(text by 坂本哲哉)
ギター、ベース、あるいはピアノのような基本的な楽器はもちろんであるが、シタールやタブラ、ムビラなど世界各地の民族楽器を自由に操り、それらを柔軟かつ繊細に多重録音・編集することによって我々を異国へと誘ってきたアルゼンチンの音楽家、アレハンドロ・フラノフ。そんな彼が新たに届けてくれた作品は『Solo Piano』。タイトルからもわかるように、この作品はピアノ・ソロ・アルバムであり、楽器はピアノしか使用されていない。だが、多種多様な楽器を駆使し、未知の異国を想像させるような音像を生み出してきた彼が楽器を制限して作った今作は、単に毛色が違う作品として認識されるだけなのだろうか? 私はむしろ、音数を制限することによって浮き彫りになったのは美しいメロディーのタペストリーとそれを追求する意志であるように思えてならないのだ。
静けさと叙情性を伴った甘美なメロディーは、アルバム全編を通して非常にゆっくりと変化していく。特に、アルバム中盤の「Beijing」から終盤の「Despedida」に至る道程は素晴らしく、フラノフの鍵盤上での十指の運動のしなやかさを想像出来るであろう。また、音量をグッと絞って部屋でこのアルバムを聴いていると、静かに変わり続ける穏やかなモチーフによって、時間感覚だけではなく、どこか空間感覚さえ失われて、空中に浮遊しているような感覚になる。そういう意味では、今作はフラノフによるアンビエント・ミュージックともいえる。さらに深読みするならば、2012年にリリースされた前作『Champaqui』でフィールド・レコーディング、シンセ、民族楽器によって生み出された幻想的なアンビエンスと手法は違えども、今作は地続きになっているということもできるのではないだろうか――と妄想は広がるが、やはり、メロディーの美しさとフラノフの独特の間がもたらす静寂さを堪能できるのがこのアルバムの魅力である。
そして、この筆舌に尽くしがたいほど美しい『Solo Piano』のリリースと同時に2005年にリリースされた『Melodia』が新たにリマスタリングを施され再発される。こちらも同じくピアノ・ソロ・アルバムであり、フラノフが感銘を受けたドビュッシーを思わせる規則的な律動にとらわれない曲やプリペアド・ピアノのような音色が打楽器的な響きをする曲などもあるが、特筆すべきは、個々の楽曲の持つ旋律の美しさ。『Solo Piano』と通して聴くことによって、フラノフの音楽的な豊かさの背景には密やかなメロディーの調べがあることを再確認できるであろう。
「アルゼンチン音響派」の重鎮による日常の営みとしての音楽(text by 青野慧志郎)
多彩な楽器を用いた一人多重録音による不思議音楽で、「アルゼンチン音響派」の重鎮として評価されるアレハンドロ・フラノフの新作は、そのタイトルが示すように、意外にもピアノ・ソロによる作品集である。本作では、フォークトロニカ、エスニック、アンビエント… そのいずれの要素を孕みつつも、何物にも束縛されない自由へと解き放たれた抽象的な音楽性からは一歩距離を置き、比較的明瞭で素朴なメロディーラインの曲を、しかもフラノフのピアノ演奏のみの一発録りで構成された楽曲には、意表を突かれることだろう。しかし、その音楽には、浮世離れした仙人とも天衣無縫の妖精とも喩えられる音楽家の、日常の営みの風景が映し出されているように思える。
フラノフの作品をいくつか振り返ってみると、たとえば『Digitaria』(2009)は、シタールやマリンバによってエキゾチックで芳香な色彩と、シンセや打ち込みのビートといった現代的なサウンドが混ざり合ったフォークトロニカといった趣で、オオルタイチが日本盤にコメントを寄せているのもうなずける。多くの曲ではメロディーの焦点が定まらず、アンサンブル全体が醸し出すアンビエンスに意識が集中されるが、そうした点が「アルゼンチン音響派」と称される所以であろう。かと思えば、翌年の『Aquagong』(2010)では、ロバート・ワイアットのような囁き声の歌でふらふらとたゆたってみせる。多彩な楽器が散らかったトラックも相まって、いい意味で自由奔放であり、デモ音源のような混沌をそのまま愛でる感性は、初期の二階堂和美(『また おとしましたよ』の頃)やテニスコーツとの共鳴を連想させる。そして、異例とも言える今回のピアノ・ソロである。オーヴァーダブもなく、ピアノのみで簡素に構成された本作は、アルゼンチン南部のアンデス地帯に位置するエル・ボルソンという町で、ピルトォリキトロンという山のパワーに触発されて制作されたという。
「さあ、好きなようにお弾きなさい」と楽器を一つ与えられれば、音楽家にとってはそれこそ素っ裸にされるようなものであるが、そうして姿を現した音楽には、フラノフの根幹を構成する要素が随所に潜んでいる。その一つが、ジャズである。たとえば、M1「Bulnes」は、曲そのものは、どこか不安定な平衡感覚を覚える、エリック・サティのような現代的なクラシック曲であるが、曲の構成としては「テーマ→テーマのコード進行上でのアドリブ・ソロ→テーマ」という典型的なジャズの形式を取っている。収録曲中最長の7分半に及ぶ、M7「Despedida」は、特にD♭のベース音を終止持続させた中間部はその多くが即興と思われる演奏で、キース・ジャレットの完全即興演奏を思わせる。また、M2「Impasiones」の前半部で歪なハーモニーとメロディーラインが執拗に繰り返される様子はセロニアス・モンクのようであり、後半部ではウォーキング・ベースが奏でられる。
ジャズは即興演奏という能力を与えてくれるが、即興で演奏できるということは、いつでも「今・ここ」の音楽を演奏できるということである。「音楽で呼吸する音楽家」であるフラノフには、ジャズの精神が確かに息づいており、日々次々と音楽を生み出し続けるフラノフの日常の営みとも呼べるものが、この作品からは垣間見える。なお、本作中随一の美しい旋律を持つ「Beijing」は、本作にあわせて再発されることとなったもう一つのピアノ・ソロ作『Melodia』(2005)からの再演であり、「Impasiones」の後半部分も同じく『Melodia』に収録されている「Gatera」の引用である。『Melodia』の収録曲はほとんどが2分前後であり、湧き出るままに小品たちを録音していったような作品で、本作とも印象がまったく異なるため、フラノフの自由奔放さに翻弄されるばかりなのであった。
(text by 青野慧志郎)
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PROFILE
ALEJANDRO FRANOV
「アルゼンチン音響派」最重要人物の一人。ブエノス・アイレス在住。 シタール、アコーディオン、キーボード、ギター、パーカッション、ボーカルと何でもこなすマルチ奏者。フアナ・モリーナのプロデュースや、モノ・フォンタナの作品にも参加、2007年にはフェルナンド・カブサッキらと来日、ROVOの勝井祐二、山本精一ら多数とコラボレート。その後、ネイチャーブリスより4枚の国内盤をリリースし、アルゼンチン音響派を定着させる。