REVIEWS : 051 ポップ・ミュージック(2022年9月)──高岡洋詞
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による“ポップ・ミュージック”。SSWやバンドなどなど、この国で生まれた良質なポップ・ミュージック、もりだくさんの12枚をお届けします。
OTOTOY REVIEWS 051
『ポップ・ミュージック(2022年9月)』
文 : 高岡洋詞
YeYe 『はみ出て!』
冒頭の “素っ頓狂” でBIMのフィーチャリング魔人ぶりに感服し、 “確かな午後” で長いセンテンスをユニークに刻んだ譜割に快感を覚え、ジンジャー・ルートとのコラボ “水面に、アイス” のフューチャー・ファンク感満載のアレンジに感心していたら、続く “Look Around” は輪をかけてビザール。アルバムは終盤に向けてどんどん深化し、簡素にして豊潤なアンサンブルを従えて「へへっへー、もももももー」(正式表記ではなく聞こえ方)と愉快げに歌う “余計ななぐさめ” には陶酔あるのみだ。柔和で涼しげだが芯の強そうな歌声はもとより、メロディも歌詞も演奏も音質も、心浮き立つ要素ばかりで構成された通算7作め。インディー・ポップの至宝と呼びたい風格を感じる。客演したMPC GIRL USAGI “Dancing Womer” もすばらしい。
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w.o.d. 『感情』
4年前、次世代ロック研究開発室のショーケース・イヴェントで幕間に流れた “Fullface” のMVを見て一発KO。以来このパワー・トリオにはずっと注目している。当時はグランジを標榜していてリフのゴリ押しが痛快だったが、徐々にメロディアスな歌心を発揮し、この4作めではメロディの冴えもアレンジの幅も1段階上がった印象を受ける。サイトウタクヤの歌も情感を増して、シューゲイズ的な “Sunflower” で「ここには 花があって/風が吹いて 君がいた」と歌われる無常観と優しさには感無量。ラストの “オレンジ” ともども、w.o.d.の成熟を示して余りある。 “リビド” で初期を思い出させる直情をさらに高出力・高精度でブッ刺してくるのもまた成熟の表れだろう。個人的な推しはダンス・ロック “Kill your idols, Kiss me baby” だ。
SANABAGUN. 『BLOOM』
〈ビクター〉を離れて独立してからは2作め、磯貝一樹をギタリストに迎えた新体制では初めてとなる通算7作めのアルバム。ジャズとヒップホップを揺るがぬ軸として、ファンク(“KING”)、ロック(“My Dog is Bad”)、バラード(“One Call~消せないテレフォンナンバー~”)など左右にウィングを広げたジャンルレスな演奏、男臭いユーモアが光るリリックと仲間同士のおふざけ感(“まだかな” のコーダに重なる会話にはニヤニヤ)は健在。 “Deep Himawari” の30代前半へのメッセージ(「予定調和の馬鹿騒ぎ/嫁に許可得た男たち」)は沁みる男性ファンが多そうだ。度重なるメンバー交替を乗り越えて、もうすぐ結成10周年。ライヴでビシッとかっこよくキメる姿が思い浮かぶかのよう。