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205系直流通勤型電車

登録日:2021/09/03 Fri 20:31:49
更新日:2024/01/21 Sun 07:34:32
所要時間:約 10 分で読めます





205系直流通勤型電車とは、日本国有鉄道(国鉄)が開発した電車である。
国鉄分割民営化後もJR東日本JR西日本が導入を進めた。


概要

103系の後継車となる省エネ仕様の通勤型電車として開発・製造された車両。
国鉄末期の1985年に登場。
103系の後継車というだけでなく、103系及びその原型といえる101系からのフルモデルチェンジとも言える形式である。

導入の経緯

国鉄の都市部での主力車両として製造・運用が行われていた101系及び103系。
シンプルで信頼性の高い車両ではあるものの、抵抗制御方式や(当時としては軽量な設計ではあったが)重量のある鋼製車体でエネルギー消費量が大きい車両であり、とりわけオイルショック以降の省エネルギーの流れにあっては少なからず問題視されていた。
何より車両の設計そのものも陳腐化している。
このため、国鉄は省エネルギーな通勤型電車として、制御方式にサイリスタチョッパ(電機子チョッパ)制御を採用した201系を開発。
回生ブレーキと併せることにより、103系よりも25%ほど電力消費を抑える車両となった。
かくして完成した201系は81年から中央線快速や中央・総武緩行線、京阪神緩行線に合わせて1000両ほど投入される。

…だが、電機子チョッパには厄介な問題があった。
とにかくコストが高いのだ。
要因は制御装置の中枢部である大容量の半導体素子。
大電力を扱える半導体は、それに比例して価格も上がる。
それも150kWのモーターを複数制御するとなれば、それ相応の大容量で高価な半導体が必要になってくる。

このことは財政難の当時の国鉄にとっては、決して無視できない問題となっていた。
そして言うまでもなく、大都市圏の通勤車両を置き換え、また増備するにはまだまだ車両が必要なのだ。

「設計を改めコストを抑えた201系も配備はしてはみたものの所詮は小手先、高価な制御方式もどうにかしなければコスト問題の解決とはならない」

そんな感じで「省エネでなおかつコストも安い次世代車」として、当時開発が進んでいた次世代近郊型車両である211系をベースとした205系が急ピッチで開発されることになった。

折しも1985年3月14日のダイヤ改正で横浜線・武蔵野線の増発が決まり、その増発用の103系をねん出するために山手線へと導入されることが決定。84年6月に導入が決まり落成は翌85年の1月という、国鉄車両では驚異的な早さでのデビューとなった。


仕様

車体は101系、およびその源流である旧型国電の63系から続く20m4ドアだが、材質は軽量設計のステンレス製となり重量が低減されている。
技術の進歩により、補強用のビード(凹凸)も減ってスッキリした外観となった。
側面窓は山手線用の初期車は201系と同じ二段窓であったが、後期車以降は下降窓となっている。理由?隣で作っていた横浜市営地下鉄の2000形が一段下降窓でかっこよかったから。
下降窓は見た目はスッキリしているが、「下におろして窓を開ける」という機構の都合上、下部に雨水が溜まることで車体の腐食(錆)の原因ともなる諸刃の剣。
実際、国鉄でも1960年代に157系や10系客車、急行形グリーン車で採用されたが、前者は廃車が早まる一因となり、後者は腐食対策で2段窓に改造された車両も存在した。
…だが205系の車体はよほどのことがない限り錆が発生しないステンレスなので心配無用なのだ。

初期に製造された車両は、ドア窓が201系と同様の小さいものが採用されている。
1988年以降に製造された車両から、103系以前と同じ一般的なサイズに戻されている。

ラインカラーは全面塗装ではなく、窓の下にラインカラーの帯を貼るという方式に変更。
この帯は塗装ではなくシールである。まあステンレスという材質は塗装不要*1なのだが。
前面は201系に続き、東急車輛の意匠が強めに反映されており、ブラックフェイスの切妻となっている。
灯火具配置も203系と同じく腰部に移動したことで、東急8000系列をどこか思わせるような見た目ともなっている。

制御装置は211系向けに開発されていた、界磁添加励磁制御を採用。
界磁添加励磁制御は界磁*2に別電源からの電流を流し込むことにより、界磁の強さを変えて速度制御を行う方法。
もう少し詳しく書くと、直流モーターは界磁を弱くすると回転数が上がるという性質がある。つまり、界磁の強さを変えることにより車両の速度を制御する事ができる。
これはいわゆる「弱め界磁制御」というもので、205系以前からも多用されてきた方法である。
その弱め界磁制御を低速域から積極的に使うのが界磁添加励磁制御である(このため、"弱め界磁制御を連続して行っている"と表されることもある)。

逆に止まるときは、界磁の電流を強くすることで速度を下げられる上に、電気ブレーキ、とりわけ回生ブレーキとしても機能させることができる。
回生ブレーキの発動条件は思いっきり要約すると、架線の電圧<車両がブレーキで発生させる電圧とする必要があるが、界磁を強めることで架線の電圧を上回る起電力を持たせれば回生ブレーキが成立する。

で、どうやって変えるのかというと、ものすごく簡単に書くと界磁に主電流とは逆方向の電流を流して、主電流を邪魔することで電流=界磁の強さを変えている。

基本的には抵抗制御の延長線上であり、今までの直流モーターも使える。
つまり今までのパーツやノウハウが使える上に、さらに回生ブレーキも使用可能である。
制御装置一式の価格も電機子チョッパ制御より安上がりになる。
保守の観点から複巻電動機を採用していなかった*3当時の国鉄の事情にマッチしたシステムである。

この方式は私鉄他社にも採用され、一部の私鉄でも新造車で採用例が現れた。直流モーターが使えることから抵抗制御から改造された車両もあり、一例では東武特急の「りょうもう」で使われている200系は、旧型の1720系DRCの部品を使いまわしながらも界磁添加励磁制御にアップグレードされている。

主電動機はMT61。
定格出力は長らく使われてきたMT54と同じ120kWだが、CADの導入などにより効率的な設計をなされたことで、回転数などの性能は大幅に向上している。
同じくMT61を搭載する予定だった特急電車の187系*4は、MT61による全電動車編成で、補機無しで碓氷峠を登り降りする予定だったとか、
成田エクスプレスの253系や、JR北海道の721系は、113系などと同じギア比ながら130km/hを余裕を持って出せる性能であるなどで、MT61の性能が垣間見れるはずだ。
ちなみにMT61が最初に実戦投入されたのは、JR九州宮崎地区で走っている713系という車両である。

台車は国鉄が新規に開発したボルスタレス台車・DT50系列。
車体を空気バネで直接支える方式であり、部品点数が少なく軽量となる。

車内は201系をベースとしたもので、送風機(扇風機)はラインデリアとなっている。
車端部にあった妻面窓が廃止され、その部分が広告枠になっているのも特徴。

バリエーション


0番台

1985年に落成し、同年3月から山手線に投入される。
山手線を皮切りに、京浜東北線中央・総武緩行線埼京線南武線横浜線武蔵野線京葉線東海道山陽本線(京阪神地区)に投入。

0番台(武蔵野線・京葉線用)

武蔵野線・京葉線用に新造された車両。
前面はミッキーマウスをイメージしたとされる丸っこいものとなっており、「メルヘン顔」の通称を持つ。

1000番台(阪和線用)

分割民営化後にJR西日本阪和線用に製造した車両。
前面窓が0番台と逆の配置となっていて、見た目の印象が従来車と異なる。
主電動機はさらに回転数の高まったWMT61Aに変更し、110km/h運転に対応した。
また台車にはヨーダンパ取り付け準備が行われ、ブレーキも高速対応型になった。
通常型の205系との互換性すら廃しており、「205系のような何か」「221系のパイロット版」と呼んだほうが差し支えない。
内装は通常の205系と同じだが、造花が生けられているという小粋な演出もあった。
現在は0番台と共に全車奈良線に転属しており、体質改善工事を受けて207系と同様の内装となっている。ただし、帯色は阪和線時代のスカイブルーから変更されていない*5

サハ204

山手線用の目玉として、分割民営化後にラッシュ対策で投入された6ドア車。
「ダァの数は多いほうがラッシュに強いんだよ」(by 京急)の思想の行き着く先とも言える車両だ。
ラッシュ時は座席を折りたたむ、究極の通勤輸送仕様。座席の固さは通勤型有数。
また、ドア上にニュースやCMを流す(列車案内はない)液晶モニタも本格的に設置された。
6ドア車は後継のE231系500番台にも引き継がれ、山手線にホームドアが設置されるまで続いた。

横浜線に増備された100番台は本形式の最終ロットで、液晶モニタが省略されたほか、ドアや台車が増備の始まっていた209系に準じた仕様となっている。

なお、山手線のサハ204はE231系導入後、横浜線・埼京線に転属して使用された。
また、廃車となった1両は三菱重工の三原事業所に台車試験車両として使用されている。

500番台

相撲線の電化に際し投入された、相撲線スペシャルの車両。
前面は全く別の形式のように見えるが、横から見れば205系なのはすぐわかるはずだ。
ドアは押しボタン式の半自動となっている。
2021年11月からE131系500番台による置き換えが開始され、2022年3月改正で引退。

1200番台

南武線向けに、元山手線用の車両を改造した編成。
中間車から改造したため、前面は小田急3000形のようなデザインとなっている。
このうち1編成は3100番台へと改造され、仙石線に転用された。
現在は退役済み。

1000番台(南武支線用)

阪和線用のものと番台区分がかぶる*6が、JR東日本の方は南武支線用の短編成版。
前面は1200番台と同じものだが、モハ2両なので凄まじい加速を繰り出す。
半自動ボタンは採用されていないが、ドアを1ヶ所だけ開ける3/4閉スイッチを装備している。
E127系の転入で2編成が運用離脱し、現在は1編成のみ運用。

1100番台

JR東日本の中間車改造軍団その3。
鶴見線用に改造された3両編成。
改造元の関係上、全編成でドア窓の大きさが揃っていない。
1000番台同様、半自動ボタンは採用されていない代わりに3/4閉スイッチを装備している。
E131系の導入に伴い、2024年3月改正で引退予定。

3000番台

八高線川越線用の改造車。
500番台同様、半自動ボタンが搭載されている。
後述の仙石線用の3100番台に似ているが、座席はロングシート。
現在は退役済み。2編成が富士急行へ譲渡されている。

3100番台

仙石線の103系の後継車として投入された改造車。
東北地方を走るため耐寒構造となり半自動ボタンが搭載されている他、トイレが設置されている。
目玉はロング-クロスの切り替えが可能な「2WAYシート」の採用、そしてアニヲタ的には石ノ森章太郎先生の作品のラッピングを施された「マンガッタンライナー」だろう。
ただし、2WAYは現在使用停止となりロング状態で固定されたまま運用。
ラインカラーと相まって外観は1000番台にもまして小田急3000形っぽく(ry
なお、東日本大震災で被災した2編成が廃車となっている*7

5000番台

武蔵野線用のVVVF改造車。
武蔵野線は直通する京葉線の地下区間の急勾配に対応すべく、0番台の時点で6M2Tのハイパワー仕様である。
一方で山手線から転属した車両を各線区に投入するにあたっては、上記の事情で武蔵野線にモハを集中させていたらいつかはモハ不足になる。
そのようなわけで、モハ4両でも6両分の性能を確保するためにVVVF化改造をされたのが5000番台である。
制御装置は東洋電機製のVVVFインバータ、主電動機は交流モーターのMT74に変更。MT74はE231系で使われていたMT73の強化版と言われており、速度センサーを廃止することでその分大型化して出力を95kW→120kWに強化したもののようだ。
ちなみに主回路の構成は、一説には同時期に製造されていた京成3000形のそれに近いとも言われている。音もそっくりだしね。
現在は0番台と共に退役済み。ちなみに、最終日には方向幕に(譲渡先の)「ジャカルタ行き」を表示させるという、小粋な演出が行われた。

600番台

日光線宇都宮線用の改造車。
107系や211系の後継車として投入された。
2M2Tの4両編成で、宇都宮線用は湘南カラーの帯、日光線用は茶色ベースの落ち着いた配色の帯。
京葉線からの転属車はメルヘン顔、埼京線からの転属車は一般顔と二種類がある。
日光線の急勾配や雪に対抗するために、(発電ブレーキにも使う)主抵抗器の強化や、耐雪ブレーキの追加、空転防止のセラミック噴射装置が追加されている。それでもよく空転を起こしてたけど。また、3100番台同様トイレが設置されている。
加速度は1.7km/h/sとだいぶ控えめ。
日光線用の車両の一部は中間2ドアを潰して、座席をセミクロスシートにした観光仕様の「いろは」もある。別料金無しで利用可能。
E131系600番台の導入に伴い、2022年3月改正で「いろは」を含めた全車が引退。これにより首都圏から一般顔、そしてメルヘン顔の205系が消滅した。

今後

最盛期には1400両以上の在籍数を誇った205系であるが、それでも抵抗制御の延長線上といえる界磁添加励磁制御では省エネ化には限度があったことや、製造から30年以上経過し陳腐化も進んでおり廃車が進められている。
ただそれでも枯れた設計の安定した使い勝手のいい車両であり、さらに信頼性を重視する国鉄の設計ともあって、西日本や富士急行ではまだしばらく活躍が続きそうである。
何より、インドネシアではバリバリの「新車」として人気である。

総評

205系という車両は、様々な意味で新性能国電の「第二世代」として現在までも強い影響を与えている車両だろう。
205系(と、その元となった211系)のシステムを発展させ採用した車両としては、JR北海道の721系(0番台)、JR東日本の651系・251系・253系・719系、JR東海の311系、JR西日本の221系、JR九州の811系・783系と、多数の車両がある。
電気機器だけでなく「6ドア」という空前絶後の車両も、209系やE231系、東急5000系などにも引き継がれた。
ステンレス製やボルスタレス台車という、今となっては当たり前のものも、国鉄では205系が初めて本格的に採用した。
財政難の国鉄が生み出した傑作、それが205系である。

富士急行への譲渡

インドネシアへの譲渡が目立つが、山梨県遊園地運営会社富士急行(現:富士山麓電気鉄道)が老朽化著しい元京王5000系の1000形の一部と自社発注の5000形を置き換えるため、譲渡を受けている。
京葉線で活躍していた10両編成を3両編成へ短縮。片側の先頭車は中間電動車に運転台を取り付けて先頭車に改造し、前面は従来のクハと揃えられた。この他冬場寒い山梨県を走るということで半自動開閉スイッチの設置や暖房能力の強化を行っている。

2013年1月までに4編成が導入されて一旦打ち止めとなるも、2018年には元埼京線から1編成、2019年には元八高・川越線編成2編成がそれぞれ3両編成へ短縮されて導入されている。なお元八高・川越線編成は元が先頭車化改造車なのでそれまでの5編成と顔つきが異なっており、富士急で改造した方の車両も当然揃えられている。

ちなみに第2・第3編成は山手線へ導入された初期編成を改造したため、窓が二段窓となっている。

小ネタ

205系をインドネシアに譲渡した際のこと。
現地ジャボタベックの技師…
「あれ?これスマホと学生証じゃないか?」

そう、譲渡された205系の座席に、とある大学生のスマホと学生証が挟まっていたのだ。
落とし主は南武線205系運行の最終日に乗り合わせていた大学生。
翌年にスマホと学生証は持ち主に届けられた。

「落とし物」を発見した技師は一躍大スターとなり、ジャボタベックでも知名度を広めた功績で表彰された。
彼の結婚式には、件の学生も出席したそうな。


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最終更新:2024年01月21日 07:34

*1 鉄道車両の塗装には車体の腐食防止という意味合いもある。

*2 電動機の周囲に取り付けられたコイルを指す。

*3 当時私鉄で多数採用されていた界磁チョッパが国鉄に導入されなかったのはこれが最大の理由である。ちなみに製造コスト自体は電機子チョッパよりも安い。

*4 形式は新たに起こされているが、183・189系の余剰グリーン車を改造して導入する計画だった。

*5 奈良地区の103系や201系はウグイス色が採用されている。

*6 阪和線の1000番台は「クハ」と「モハ」で構成されているが、南武支線用は「クモハ」のみで構成されているため車両番号は同じにならない。

*7 1編成は石巻駅留置中に津波で冠水、1編成は野蒜駅付近で津波に流されて脱線した。