エモいピアノTranceの作り方
このページではTranceを作るときにエモいピアノフレーズを作る方法について書きます。
ただ「エモい」と感じる部分は人それぞれですので、あくまで一例として参考にしてもらえればと思います。
エモいピアノフレーズのコツ
個人的に考えるエモいピアノフレーズのコツは以下のとおりです。
- マイナースケールを使う
- ロングトーン中心に組み立てる
- 長めの休符を入れる
マイナースケールを使う
個人的に考えるエモさは「ダーク」「物悲しさ」「陰鬱さ」といったネガティブな要素から生まれると考えています。それを表現するのにマイナー・スケールは適切です。
マイナースケールを難しいと思うかもしれませんが、Aマイナーであれば白鍵のみで演奏できるのでスケールが苦手な方はまずはAマイナー・スケールがおすすめです。
この記事でも「Aマイナー・スケール」のみを使用します。
そして少しずつ色々なマイナースケールに触れていくと、曲作りの幅が増えていきます。
例えば個人的な好みなマイナースケール (ナチュラルマイナー) は以下のとおりです。
調 |
印象・イメージ |
構成音 |
補足 |
Cm (ハ短調) |
陰鬱さと侘しさ |
C・D・Eb・F・G・Ab・Bb |
|
Ebm (変ホ短調) |
落ち着きと暖かさ |
Eb・F・Gb・Ab・Bb・Cb(B)・Db |
黒鍵だけで弾くとマイナーペンタトニック・スケール |
Em (ホ短調) |
暗さや艶めかしさ |
E・Gb・G・A・B・C・D |
ギターのキーがEなので使われやすいスケール。 それと黒鍵がGbのみで演奏しやすい |
Gm (ト短調) |
神聖で荘厳 |
G・A・Bb・C・D・Eb・F |
|
Am (イ短調) |
優しあや悲しさ |
A・B・C・D・E・F・G |
白鍵だけで弾ける |
- 選定基準はよく見かけるとか弾きやすいとかのシンプルな理由です
それ以外のコツは実際にフレーズを作っていく上で解説します。
ロングトーンのフレーズを作る
ベースの作成
FLEXを起動してプリセットから "Arksun Cityscape > Bite Me" を選びます。
なお、このプリセットパックを作られた "Arksun" という方はTranceミュージックを作られている方なので、
Arksun CityscapeにはTrance向けのプリセットが数多くあって便利です。
今回のコード進行は "Am - Am - Am - Am - FM7 - FM7 - FM7 - G" というシンプルなものです。エモさを出すには「あまり動かさない」ほうがより良くなります。
ベースのフレーズはオフビートのルート音を演奏するだけとしておきます。
パッドの作成
パッドはピアノのエモさを引き出すために重要なパートです。
FLEXを起動してプリセットから "Arksun Cityscape > Haunting Hour" を選びます。
演奏データは厚みを出すために、「ルート+コード弾き」としました。
ピアノの作成
FLEXを起動して "Sense Gemini Magnificence > Dream Piano" を選びます。
基本的にデフォルト設定で良いですが、"Atmo" が音を延ばしたときに再生される環境音となります。この値を少し小さめにしたほうが良いと思います。
次にフレーズの作成です。
基本的にコード構成音を中心としたゆったりのフレーズにします。
パッドの調整
パッドの音が大きい場合は調整しておきます。パッドは前に出る音ではないので、おそらく3分の1あたりまで減らすと良いと思います。
それと
Fruity Parametric EQ 2 でHighとLowをカットして、音を後ろに移動させます。
HighとLowをカットする場合は、プリセットの "Mastering > 20Hz + 18kHz cut" が便利です。
このプリセットを使うと右下のつまみからカーブの傾きや位置を簡単に動かせます。
さらにエモいフレーズにする
ロングトーンのみのフレーズでも十分エモいですが、少しだけ動きを入れるとさらによくなります。
方針としては以下のとおりです。
- 4小節目だけを動かす
- できるだけ順次進行にする
- それぞれ異なる動きにする
これのバリエーションとして16分のフレーズにする方法もあります。
もし16分のフレーズが唐突に感じる場合には、直前に4分音符を挟むことで16分フレーズの違和感を減らすことができます。
個人的な印象としては、8分よりもフレーズに勢いが生まれたぶん、エモさは少し減っている気がします。ここは楽曲全体の構成で何を表現したいのかを考えて判断する必要があると思います。
細かいテクニック
ロングトーンを分割する
ロングトーンのフレーズのバリエーションとして、ノートを分割するというテクニックがあります。
ピアノの音を前に出す場合
なお、他のシンセフレーズと一緒にピアノを演奏すると音が埋もれてしまう場合があります。このあたりは音量パランスやEQの調整が大事ですが、"Dream Piano" には "EQ High" というマクロパラメータがあるので、これを少し持ち上げることで音をさらに前に出すことができます。
このテクニックを使うとグルーヴ感を生み出せる反面、同じ音が繰り返されて単調さが生まれてしまうので、Velocityの強弱やサイドチェイン、カットオフなどで変化を付けることが重要となります。
Stutterによる装飾を入れる
ロングトーンの前に少し装飾を入れたい場合は、Chopperツールで擬似Stutterを入れる方法があります。
手順としては目的のノートの前に4分音符を入れます。
そのノートを選択した状態で、ALT+UでChopperツールを起動します。
そして、"Pattern" が "Default" になっているのを確認して、"Time mul" の値を9時方向少し下にします。
これでノートが細かく分割されますが、耳に痛い音となるので、階段状にVelocityを変化させます。
さらにランダムっぽい音にするため、ところどころを小さくします。
これをそれぞれのロングトーンの前に配置して完成です。
FLP (プロジェクト)ファイル
補足
必ずしも4小節目に動きを入れる必要はない
例えば2小節目と6小節目に動きを入れるなど、必ずしも4小節目である必要はありません。
奇数の小節に動きを入れるのも問題ありません。
駆け上がり(下り)フレーズは前後が必ずしも順次進行である必要はない
駆け上がり(下り)フレーズの前後は必ずしも順次進行である必要はありません。
ただフレーズを構成する音程にはあまり変化がない方が良いです。
エモいアルペジオの作り方
エモいアルペジオの手順は以下のとおりです。
- 最低限のノートでキーとなる音を決める
- 少しずつ音を足していく
- 別の音楽を聴いて耳をリセットしてから聴き直す
1. 最低限のノートでキーとなる音を決める
アルペジオというと「完成したフレーズが最初にあるもの」と思ってしまうかもしれませんが、いきなり完成されたフレーズを作るのは大変です。
まずは最小限の音でイメージを少しずつ作り上げていきます。
例えば1小節に2音だけノートを置いてみます。
このとき考えるべきことは以下のことです。
- 上昇系か下降系、複合系のどれにするかを決める
- 始まりの音はコード構成音を使用する
「上昇系」だと高揚感などのプラスの感情を得られ、「下降系」だと沈んでいくようなマイナスの感情を得られます。ただ調性やコード進行などの影響も受けるので、一概には決められませんが、2音だけなら「上昇」「下降」のどちらかになるので、両方のパターンを試してイメージに合うものを選びましょう。
それと始まりの音は「コード構成音」にするのがおすすめです。
2. 少しずつ音を足していく
キーとなる音が決まったら音を足していきます。
ここでは小節全体を埋めるようにノートを追加しましたが、間を取った方が良い場合もありますし、色々な場所に入れて試してみましょう。
さらにノートを追加しました。
アルペジオは音域を広げるとエモさが増すので「オクターブ移動」はなるべく入れたほうが良いです。
ここでの留意点として、同じタイミングだと違和感がある場合は別のタイミングにずらすのも有効です。むしろ同じタイミングがずっと続くと短調なフレーズになってしまうため、適度に変化のあるフレーズにするのがおすすめです。
それとピアノのアルペジオは音程が高いとエモくなるので、パッドよりも1オクターブ上で鳴らすようにしました。
手数を増やして良いならペダルポイントを作るのも有効です。
ペダルポイントとは「持続低音」とも言い換えられ、本来の意味は「非和声音になっても継続する音」ですが、ここでは同音連打でコードのリズムを生むような低音のノートという意味で使わせてもらいました。
さらにはループの終わり方として「解決を先延ばしにする」という方法も有効だと思っています。
例えば「シ」で終わるようにすると、本来のキーである「ラ」に解決したい気持ちを先延ばしにして、さらに空白を1小節分作ることで曖昧なままにしています。
わかりやすい元気な曲を作る場合ならしっかり解決させるほうが曲に勢いが生まれますが、エモさを「複雑な感情の表現」と捉えるならば、聴き手に答えを委ねるようなこういった手法はとても有効だと思います。
3. 耳をリセットする
特にアルペジオは繰り返し聴くことになるので、別の音楽を聞いたりするなどして耳をリセットしてから再び聴いてみて、違和感がないかどうかを再度確認すると良いです。
その他のテクニック
小節の頭にノートがないフレーズ
小節の頭にノートがない場合は、頭にベース音を入れるとフレーズが引き締まります。下降系の場合はアルペジオの上の音程に入れても良いです。
もしくはコードにしても良いと思います。コードにすると重厚な響きとなります。
アルペジオの FLP (プロジェクト)ファイル
パターンのリストからそれぞれのフレーズを確認できます。
- Arp Only: アルペジオのみ
- Arp + Bass: アルペジオとベース
- Arp + Chord: アルペジオとコード
- Arp + Pedal: ペダルポイントのあるアルペジオ
トリルでエモくする
Tranceは16分音符の細かいフレーズの繰り返しを主体とした音楽ジャンルですが、それにトリルを適用することでエモくできます。
例えばオクターブ下に16分音符の細かいフレーズを入れます。上記はオクターブ移動としましたが、3度でも5度でもコード構成音以外でも成立します。
ちなみにトリルの本来の意味は、目的となる音の短二度または長二度を上下させることで、また16分よりも細かい演奏をすることですが、ここでは「高速なオクターブ移動」という意味で使わせていただきました。
ただトリルは良くも悪くも目立ってしまうので、それが気になる場合は音の長さを短くすると良いです。
さらに HumanizeツールでVelocityをバラけさせるとなお良いです。
個人的な好みだと左側のツマミを9時方向、右側のつまみを12時方向にするがおすすめです。
このようにVelocityや音の長さやタイミングがバラけました。
トリルの FLP (プロジェクト)ファイル
エモいコード弾き
ピアノでコードを演奏する場合にエモくする方法です
- 1. 2小節単位でコードを弾く
- 2. かなり低域のベースを入れる
1. 2小節単位でコードを弾く
パッドの演奏は1小節単位で行われていますが、ピアノのコード弾きは2小節単位にします。
最後はコードチェンジが入っていたり、変化を入れるという意味で1小節単位での演奏としましたが、このように長めの休符(空白)をあると想像力を掻き立てられるフレーズになります。
これがピアノ演奏だけであれば間が持たないですが、パッドが空間を埋めてくれるため、こういった贅沢な休符の入れ方ができます。
2. ベースよりも低域の音を使う
ピアノという楽器は、かなり低域の音を使える特徴があります。
これによりベースよりもさらに低域にノートを入れることで重厚感が得られてエモさがアップします。
コード弾きの FLP (プロジェクト) ファイル
最終更新:2023年12月23日 14:14