
ファイサル・イスラム経済編集長
今年1月に行われたドナルド・トランプ米大統領の就任宣誓式の日、私はとあるアメリカの大手テクノロジー企業のトップから、アメリカは報復関税の影響を受ける可能性が高いものの、貿易戦争はすぐに収束すると考えていると聞かされた。
その幹部は、「トランプ大統領はダウ・ジョーンズの反応に従って行動する」と述べた。市場ではこれを「トランプ・プット」と呼んでいる。ホワイトハウスから市場心理を損なう発表があっても、株式市場の下落を見て、トランプ氏が方針を転換するという意味合いだ。
しかし、この前提は変わった。トランプ氏がテレビでのインタビューで、市場動向からの影響を軽視する発言をしたからだ。
そして、アメリカの株式市場がトランプ氏の政策の影響を懸念して急落したその翌日、トランプ氏はカナダに対する鉄鋼とアルミニウムの関税を2倍にすると決定した。
これは、ニューヨーク、ミネソタ、ミシガンの各州で、カナダから供給される電力料金が、請求書1件あたり約100ドルに上昇したことへの対抗措置だ。
カナダ・オンタリオ州のダグ・フォード州首相は10日、アメリカ向けの電力に25%の追加料金を課すことを発表し、供給を完全に停止すると脅した。
トランプ氏は、自分は数十年、さらには1世紀先を見据えた富の再構築を進めており、アメリカ株式市場の四半期ごとの結果ではこれを測ることはできないと述べている。
ホワイトハウスはスコット・ベッセント財務長官のコメントと共に、市場に対し、大統領が短期的な市場および経済の痛みをある程度は許容すると伝えた。これによって計算法が変わった。
ここにはさらに2つの要因が関係している。まず、アメリカ経済に対する市場心理が実際に逆転し得るという根拠があるため、景気後退の懸念が生じている。
アメリカ連邦準備制度(FRB)アトランタ支部による最新のリアルタイム分析では、今年の最初の3カ月間にアメリカ経済が低迷すると予測されている。
政府による予算削減もこの予測に寄与する可能性があるものの、民間セクターの市場心理も関税の影響で打撃を受けている。
そして何より、不確実性が深刻な脅威となっている。政策は日々変わり、時にはさかのぼって一時停止されることもある。
アメリカ政府の主要部門は、ホワイトハウスの方針を完全には把握していない。
さらにカナダでは総選挙が近づいているため、アメリカへの譲歩や妥協を良しとする理由がほとんどない。
トランプ氏が経済的な影響力を使って北の隣国を「51番目の州」にしたいのだと発言している中で、カナダに妥協の余地がどこにあるのか。
状況の方向は、貿易戦争の激化と範囲拡大へと向かっている。
「相互主義」に基づく新しい貿易障壁が、3週間以内に欧州連合(EU)に対して出現する可能性がある。
他国はアメリカでインフレ再燃の兆候を見ると、アメリカの消費者に自分たちの政府の決定による影響を実感させるために、インフレ加速に加担しようとする可能性が高まる。
この2週間で世界は、トランプ大統領が関税に対して真剣だと学んだ。関税は今や、アメリカの同盟国に対しても大々的に適用されている。
アメリカの主要貿易相手国は、同じように報復し、貿易戦争をさらにエスカレートさせるだけの動機を持っている。そうしたなかでホワイトハウスは、自分たちが短期的な経済および市場の混乱に対する高い耐性を持っていると、世間に伝えようとしている。
すべての道は4月2日の「相互関税」の発表に向かっている。現時点ではこれらの緊張が休戦や停戦、または一時停止に向かう兆しは見られない。