
〈那須雪崩事故から2年〉生き残ったからこそ伝えたい”登山の鉄則”とは?
2017年3月27日。栃木県の那須岳で起きた雪崩事故。今回、雪崩事故に巻き込まれながらも救助された、元大田原高校山岳部の三輪浦 淳和さんにお話を伺いました。一時期は部活での登山が怖かったと話す三輪浦さんですが、「登山を続けたい」と決断し、今でも登山を続けています。そんな三輪浦さんが登山を続ける理由や、事故に巻き込まれながらも生き残った経験から登山者に知ってほしいことについて、話を聞いてきました。
2023/01/08 更新
目次
那須雪崩事故からもうすぐ2年。同じことを繰り返さないために・・・。
2017年3月27日。栃木県にある那須岳で、雪中歩行訓練中の生徒と教員を雪崩が襲う事故が発生。県立大田原高校の生徒7名と教員1名、計8名の尊い命が犠牲になったことは記憶にも残っているのではないでしょうか?
あの事故からもうすぐ2年。雪崩に巻き込まれながらも救助されて生き残り、当時の感情や登山に対しての想いを「山の羅針盤」というブログなどを通じて発信している三輪浦 淳和さん。そんな三輪浦さんに『これからやっていくこと』について、話を伺いました。
2度と同じようなことを起こさない、起こさせないために、三輪浦さんが登山を楽しむ人に知って欲しいこととはいったいどんなことなのでしょうか?
はじめに
本編に入る前に、事故の関係者の方へどうしても伝えたいメッセージをいただきました。
はじめに、もうすぐ三回忌を迎えるにあたり、改めて亡くなられた友人、先輩、恩師8人に謹んで哀悼の意を表します。 次に、今回の事故で多くの方にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。特に危険がある中、懸命の救助活動をいただいた警察、消防をはじめ、地元山岳救助隊や医療機関、自衛隊の皆さま、 本当にありがとうございました。 また事故の後、事故の原因究明や再発防止に向けて、精力的に取り組んで頂いた検証委員会の皆さま、教育委員会、 地元の山岳会、国立の防災科学研究所、 更には民間の雪崩研究に携わる方々まで、幅広い皆さまのご支援、 ご協力、ありがとうございます。 今回の事故に携わった多くの皆さまに、改めて謝意を申し上げます。三輪浦 淳和
守れなかった『登山の鉄則』とは?
編集部(以下、編):本日はよろしくお願いします。三輪浦さんのブログを読んだのですが、事故当時の状況を振り返っている記事で「講習会だから普段の登山とは違うという認識でいた」というようなことを書かれていました。当時はどんな心境だったんですか?
三輪浦さん:自分の意識としては、先生たちにいろいろ教えてもらうという意識でしたね。きちんと理由があるわけではないですが、思い込みとして普段の山行よりも安全に配慮されていると思っていました。
装備などはきちんと考えていたのですが、現場では完全に教えて貰うという気持ちでした。完全に学ぶ側として参加していたので、「この次は何をするんだろう?」と、先が見えないまま行動して登山の鉄則を破っていたのだと思います。
編:登山の鉄則というのは「自分で状況を判断して考える」ということですか?
三輪浦さん:そうですね。自然の中に入るということは、いつ何があるかわからないじゃないですか。もしかしたら、経験が浅い自分がグループを指揮する立場になるかもしれない。だから、普段から自分で考えて仲間と相談して、意見を出し合って自分たちの行動を決めていくっていうことが、私は大事だと思います。
山岳部の活動で学んだ”登山をする上での軸”
元々、家族で登山を始めた三輪浦さん。高校3年間は、さらなる登山技術の向上のために山岳部で過ごしました。そこでの経験が、登山をする上での軸になっているようです。
「後輩の意見を聞けるのがうれしかった」
編:登山技術の向上のため山岳部に所属していたようですが、山岳部での登山ってどんな感じなんですか?
三輪浦さん:登山経験がより豊富な先輩が積極的に動いてくれて、後輩はそれを見て(歩き方などの登山技術を)学ぶことが多いですね。まずは先輩を見て学んで、経験を増やし、自分で状況を判断するという感じで、少しずつ成長できる環境になっています。
自分にはこの「状況を判断して考える」という要素が十分でなかったと感じました。なので、部長になった時は優秀な後輩にも恵まれたので、後輩たち自身に考えてもらえる機会も増やしたんです。後輩たちが自分の考えを言ってくれると、やっぱりうれしかったですね。
編:山岳部のメンバー全員がそれぞれ考えていないといけないですし、考えるための情報や方法を教えてもらえるいい環境ですね。
「感じた違和感は、口に出してみて欲しい」
三輪浦さん:山岳部って2つの面があると思うんです。「先輩と後輩」と「一緒に山に登る仲間」という面。先輩と後輩の関係では技術や知識、考え方を学んで、それを後輩に伝えていくことが大切。
でも、一緒に山を登る仲間として考えると、フラットな立場で意見を出し合うのが必要なのかなと思います。
編:リーダーの判断をそのまま鵜呑みにして従うだけではなく、気になることがあったら考えを伝えることが大事ですね。
三輪浦さん:知識や経験にレベルの差はあるかもしれません。だけど後々後悔することになる可能性もあるので、ちょっとした違和感でも言ったほうがいいと思うんです。そうすれば判断する人が振り返る機会になるだろうし、それで問題がなければその人が説明してくれると思います。
一緒に登山をしている仲間なのであれば、気になったことは包み隠さず話してみるほうが良いと僕は思うんです。グループの雰囲気が悪くなるかもしれません。ですがそこは自分が痛い目を見ているので、皆さんにも少しやってみて欲しい部分です。
「登山を続けたい!」三輪浦さんがそう思う理由って?
事故当時、救助されてから2時間後には「登山を続けたい」と決断していた三輪浦さん。今はどういった想いで登山を続けているのでしょうか?