天才と変人の関係 脳の「フィルター装置」が独創性を左右?
日経サイエンス
天才と呼ばれる人々の脳は普通の人とは違うのか。脳の使い方が違うせいで、ひらめきや、けた外れに高い知性が生み出されるのか。創造性の源泉について研究してきた心理学者や脳科学者が最近注目しているのが、天才と変人の関係だ。
創造性に富む人々は、しばしば奇妙な思考や振る舞いをする。
物理学者のアインシュタインは道端のたばこの吸い殻を拾ってパイプに詰めて吸った。作曲家シューマンは自分の楽曲はベートーベンをはじめ死去した著名人が墓の中から送ってくれるのだと信じていた。マイケル・ジャクソンは鼻の整形に執着し、ダリは危険なペットに愛情を注いだ――。
最近の研究によると、独創性と変人を関係づけるカギを握っているのは、脳が持つ情報のフィルター機能だという。脳には膨大な量の信号が感覚器官を介して入ってくる。これらすべてに注意を払っていては訳が分からなくなってしまう。
そこで脳には精神的なフィルター装置があり、そのおかげで脳での大半の情報処理は意識せずに済んでいる。このフィルターの働きが弱まっている状態を「認知的脱抑制」という。
クリエーティブな人と、そうでもない人それぞれのグループで心理学実験を行ったところ、前者のグループが認知的脱抑制の傾向を示しやすいことがわかった。
認知的抑制が弱まると、様々な情報を意識に上らせることが可能になり、これがうまく処理されると、創造的な発想が生まれるという説明が可能だ。
創造性に富む人たちは一方で、社会生活上で必要なことをおざなりにして、自分の世界に没入する傾向がある。
これは認知的フィルターの働きが弱いため、意識が様々な刺激で過密になり、そちらに関心が向かってしまっていると説明できる。こうした傾向は脳画像や脳波測定の実験によっても裏付けられている。
統合失調症の患者や、統合失調型と呼ばれる人々は、こうしたフィルター機能が低下している傾向があり、彼らがとっぴな考えをしたり、幻覚を見たりすることとの関係が想定できる。
また、サバン症候群の人たちは特定の分野に極めて優れた能力を発揮するが、事実をありのままに受け止めフィルターに通さないような認知スタイルが、この能力につながるらしい。
(詳細は25日発売の日経サイエンス6月号に掲載)