アマゾン、読み放題の誤算 出版社と対立
小学館は4日、アマゾンジャパン(東京・目黒)の読み放題サービス「キンドル・アンリミテッド」から170~180冊の自社作品が除外されたことを明らかにした。講談社も1000以上の提供作品が通告なしに読み放題から外され、3日に抗議声明を発表した。電子書籍市場の活性化につながるとして注目を集めた新サービスに早くも暗雲が垂れこめている。
講談社の抗議文は「大変困惑し、憤っている」と強い口調で書かれている。作品提供のために著作者に説得を重ねたにもかかわらず、一方的に通告なくサービスから除外されたためだ。小学館も「読者に十全な対応ができておらず、著作者に不安を与えている」(広報室)としてアマゾンに改善を求めている。
キンドル・アンリミテッドは月980円で電子書籍が読み放題になるサービスで、日本では8月3日に始まった。アマゾンは出版社に対して電子書籍が読まれた量に応じて利用料を分配する仕組みになっているとみられる。複数の出版社によると、サービス開始時の作品数を増やすため、年内はアマゾンが出版社に上乗せ料金を支払う契約にもなっていたという。
アマゾンは出版社に説明を繰り返して作品提供を求めた。4大出版社のうちKADOKAWAや集英社が参加を見送る中で、講談社と小学館がサービス参加を決めた。
アマゾンの誤算は日本市場におけるコミックの存在だ。米国など日本以外の国でのキンドル・アンリミテッドでは、読まれる書籍は小説などが中心で1冊を読み終えるのに数時間~数日かかる。
日本の電子書籍市場は数十分で読み終えることができるコミック作品が中心だ。アマゾンは利用者を囲い込むため、サービスの開始当初は無料にしていた。その期間に想定を上回るペースで利用があったとみられる。開始直後の段階で出版社に支払う料金が予算を超えてしまったとみられ、高額な商品や人気作品を対象から除外したようだ。
講談社が提供した作品のうち、十数作品が8月に除外された。講談社はアマゾンに抗議していたところ、9月30日にサービスから講談社の名前が消えた。光文社もアマゾンのサービスに参加していたが、提供していた550作品は現時点で全て除外されている。
インプレス(東京・千代田)が主要な電子出版関連事業者への聞き取りなどをもとに集計した調査によると、2015年度の電子出版の国内市場規模(書籍・雑誌の合計)は14年度比29.4%増の1826億円だった。
内訳はNTTドコモの定額制サービス「dマガジン」などの電子雑誌が66.9%増の242億円。電子書籍は25.1%増の1584億円で、その8割相当の1277億円がコミックだった。「日本人のコミック好き」は出版関係者であれば以前から分かっていることであり、アマゾンの市場調査不足は否めない。
アマゾンの電子書籍の販売に関しては、公正取引委員会が8月に立ち入り調査をした。公取委はアマゾンが競合他社と同レベルの価格や品ぞろえを出版社に保証させる行為を問題視している。今回の読み放題サービスの対応によって、出版社のアマゾンに対する不信感がさらに広がる可能性がある。日本に根付きかけた読み放題というスタイルが、立ち枯れになりかねない。
(荒尾智洋)
[日経産業新聞10月5日付]
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