被災地支える「投資家集団」(震災取材ブログ)
@宮城
衆院選を翌日に控えた昨年12月15日の午後。宮城県石巻市東端にある十三浜の小さな漁村を訪ねた。選挙カーも来ない静かな昼下がり、1台のツアーバスから続々と降りてきたのは約30人の「投資家」たちだ。
投資先は株や投資信託ではない。彼らはコツコツためた預貯金から被災企業に1口1万円の出資をしている。ミュージックセキュリティーズ(東京・千代田)の被災地応援ファンドの仕組みを通じた支援だ。1口1万円の半分が出資金、半分が寄付になり、一定期間後、会社の売上高に応じた分配金が支払われる。
十三浜では鵜の助、タツミ食品、木村水産の3社が、出資を検討する参加者に復興状況をアピールする、いわばIR(アイアール=投資家向け広報)が行われていた。参加者は老若男女、様々だ。
彼らが被災地に興味を持ち続け、支援を継続する動機はどこにあるのだろう。既に9社に出資している仙台市在住の30歳代女性は「もともと商品を知っていた会社が被災し、復興へ頑張っているのをネットで見つけた。つぶれてもらっちゃ困るから出資したのが最初だった」と話す。商品を買いたい、食べたい、だから支えるという純粋な気持ちの集合が被災企業を支えている。
千葉県在住の男性は「企業や商品を選んで、その復興に参加できて、だんだん楽しくなってくる」と話す。東京都から参加した男性は「年収の1%を出資すると決めている」。同情心だけでは支援は長く続かない。一人ひとりがお金の使い道を考えるなかで責任を持って投じた支援だからこそ、息が長い。
企業側も「投資家」に事業の成長性をアピールしないといけない。自社製品を実際に味わってもらい、販路の説明もする。十三浜の後に訪れた南三陸町の水産加工会社、橋本水産食品は約4000万円をファンドで調達する。同社の千葉孝浩さんはファンド立ち上げにあたり綿密な事業計画を練った。10年後の復興の姿を描き、新工場を新たに確保した土地に建てる。販路はまず、震災前から取引のある仙台市の老舗百貨店、藤崎の地下テナント復帰を目指すほか、ネット通販を強化する――。
「ボーナスも入ったし、出資を検討します」。参加者が声を上げる。被災企業から「ありがとうございます」との声が漏れる。暗いトンネルの先に、一筋の光をみたような気がした。
半分は寄付だが、ただの寄付ではない。復興が成功して企業が利益を生めば出資金が返ってくる仕組みだから、企業も出資者も真剣になる。出資をした瞬間、被災企業と被災地の外にいる人が、利害関係の絆で結ばれる。
復興予算による再建需要も観光客の応援消費も永遠には続かない。日本のなかで東北を戦略的にどういう地域にするのかを議論し、東北の食やものづくり、企業のファンになる。そういった思いを持つ人たちが少しでも増えれば東北が救われる。
東北は広い。面積で北海道に次ぐ2位と3位が岩手県と福島県。東北6県で日本全体の18%を占める。しかし、人口は日本全体の7%、域内総生産は日本の国内総生産(GDP)の6%しかない。東北に直接関わる日本人が少ないから関心が薄れてしまう。だからこそ、被災地の外で東北をちょっと好きな人が東北の「インサイダー」になる仕組みがあれば、被災地支援、被災地への関心継続につながるのではないか。(甲原潤之介)