「レンタル彼氏」を重宝する中国キャリア女性たち
結婚より夢の実現優先
親に結婚を迫られている「結婚適齢期」の中国女性の間で重宝されている「レンタル彼氏」。本業は金融マンで、休みになるとボランティアで彼氏役を請け負う男性、王卓さん(27)のもとには、この2年で100人以上の女性から問い合わせがあった。最近の中国の女性たちはどのような事情でレンタル彼氏にすがるのか。王さんの話から見えた彼女たちの姿は――。
35歳にして部下は1000人。北京の民間金融機関で働くバリバリのキャリアウーマン、陳寧さん(仮名)が王さんにショートメッセージを送ってきたのは2011年秋の国慶節(建国記念日)休みの直前だった。「あなた、レンタル彼氏をやっているんだって?ちょっと会えるかしら」。王さんと同じ会社の10歳上の先輩社員だった。
「どうしても結婚したくないの。彼氏もつくりたくない」。会うなり、彼女は悩みを吐露した。北京の一流大学を卒業後、この会社に入り、2万人いる社員の上位30人にまで上り詰めた。このまま突き進めば女性総経理(社長)だって夢ではない。結婚や恋愛は今の陳さんにとっては優先課題ではない。
陳さんにとって悩ましいのが両親、そして両親以上にうるさい祖父母の存在だ。「35歳にもなって独り身なのはおかしい。何か問題でもあるのかって近所でうわさになっているのよ」。祖母からは繰り返しこう言われる。何度も反論は試みた。「おばあちゃん、仕事はやりがいがあるのよ。同期でも出世頭の一人で、さらに会社で上に行けそうなの」といくら説明しても、祖母にはぴんと来ない。「で、子どもはどうするの?」と聞かれ、答えに窮する。
そこで国慶節休みにレンタル彼氏を北京郊外の実家に連れて帰り、親族を安心させる作戦に出た。「彼氏」の王さんは年齢差を隠すためにあえて実際より年上に見えるようスーツを着込み「30歳です」と5歳サバを読んだ。同じ会社のボーイフレンドだとすっかりだまされた祖母は安堵の表情を見せた。
祖父母が陳さんに早期の結婚、出産を促すのは、かわいい曽(ひ)孫が見たいからだけではない。年金や介護など社会保障が不十分な中国では、老後に面倒を見てくれるのは子と孫しかいないという切実な事情もある。
100人以上から問い合わせがあった王さんだが、実際に彼氏を装って帰省に付き合ったのは5回。トラブルに巻き込まれないようにするため、事前にチャットで女性から十分に事情を聴き、女性の勤務先でまず面会する、というルールを自分に課している。
河北省出身の29歳。医療関連のベンチャー企業に勤める女性、趙小氷さん(仮名)の場合、毎晩のように親から結婚を促す電話がかかってくるのに閉口し、王さんに助けを求めてきた。聞けば帰省のたびにお見合いを設定されているという。だが趙さんからすれば、今の都会のシングルライフを上回る魅力は見いだせない。「姑(しゅうとめ)との関係を考えたらゾッとするわ。少しでも帰宅が遅かったら文句を言われそうで、いまの自由がなくなってしまう」
昨年の春節(旧正月)、2人は河北省の趙さんの実家で一週間を過ごした。「自分は山東省出身で北京の金融機関に勤めています。親は田舎に家を持っていますが、北京ではマンションも車もありません」と王さんが自己紹介すると、初対面なのに女性の父親は肩をたたきながら、こう答えた。「大丈夫、大丈夫。結婚すれば、家も車も全部買ってあげる」
2年前、初めてインターネットに「無料彼氏」の広告を出した時には、一つ一つの依頼が新鮮で楽しかった王さん。しかし、さすがに問い合わせが100件を超えると、現代の女性たちがいかに大きなプレッシャーの下で生きているかを実感するようになった。王さんはこう語る。「どの家でも両親がとても良くしてくれるので、だますのは悪いと思うが、レンタル彼氏を使うことで女性たちがキャリアを追求し、夢が実現できるのだとすれば意味のあることだと思う」(大連=森安健)
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