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なでしこ、誇れる銀 世界に伝えた女子サッカーの魅力

サッカージャーナリスト 大住良之

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力の拮抗したチーム同士の勝負はほんのわずかなところで決まる。

サッカーの女子決勝。なでしこジャパン(日本女子代表)は昨年の女子ワールドカップ以来、攻守両面で最高の試合をした。世界ランキング1位のアメリカを精神的に追い詰めたプレーは、金メダルを争うにふさわしいものだった。

前半と後半の序盤に許した2点が重荷

だが、前半と後半の序盤に許した2点が大きな重荷となった。

前半8分、右を突破されてクロスを入れられたが、受けたアメリカのFWモーガンはボールをゴールから離れる方向にコントロールしてしまい、日本はピンチを逃れたと思われた。

だが、モーガンをマークしていたDF岩清水梓(日テレ)が足を止めた瞬間、モーガンはボールに走り寄り、ほとんど180度といっていい角度でゴール前にボールを送った。

ゴール前には米国のエースFWのワンバック。その左足はボールに届かなかったが、ペナルティーエリアの外からMFロイドが猛烈な勢いで走り込んできていた。最後の一歩を出したロイドの頭に、ボールがぴたりと合ってしまった。

わずかなスキを突かれる

後半9分の2点目は、ロイドが中央をもって上がったときの一瞬のスキをつかれた形だった。

ロイドの前を、モーガンが右から左前方へとペナルティーエリア向けてダッシュ。ロイドに対応していた日本のMF阪口夢穂(日テレ)は、後ろを振り返り、左手を挙げてモーガンに気をつけろと指示を出した。

その瞬間、ロイドがギアを一段上げ、ペナルティーアークの右まで入ってシュート。ボールはゴール左上に吸い込まれた。

日本がわずかなスキを見せたのは90分間を通じて数回にすぎなかった。そのうちの2回を決められたことになる。

アメリカ戦ではこのところ何回もモーガンのスピードとシュート力にやられていた。もしかすると、モーガンへの意識が強すぎた結果の失点だったかもしれない。

ハンドとは判定されず

しかし、試合全般はキックオフ直後の数分間を除いてずっと日本のペースだった。

FW大野忍(INAC神戸)がスピード豊かなドリブルで中盤を進んで攻撃を牽引し、FW大儀見優季(ポツダム)がしっかりとしたキープで攻撃に厚みを加えた。

前半、大儀見のヘディングシュートとMF宮間あや(岡山湯郷)の左足のシュートがバーをたたいた。

そして前半25分には左からの宮間のFKが相手MFヒースの左腕に当たるという場面もあったが、ドイツのシュタインハウス主審はこれをPKと判定しそこねた。見る角度が悪かったのだろう。それも「ゲームの綾」というものだ。

川澄のスピードが威力を発揮

2点をリードされても、なでしこジャパンのペースは落ちなかった。

大野と大儀見が中央で奮闘したことによって、威力を発揮したのが左MF川澄奈穂美(INAC神戸)のスピードだった。

前半、日本が繰り返しチャンスをつくったのは、良いタイミングで川澄にパスが回り、川澄がスピードに乗ったドリブルでマークするアメリカDFルペイルベを振り切り、きわどいクロスを送り続けた結果だった。

アメリカは日本の左サイドからの攻撃に神経質になり、MFラピノーも戻って川澄に対応するようになり、その分、攻撃の威力は落ちた。

ただ、後半18分の日本の得点は、右からの攻撃から生まれた。川澄が左サイドから圧力をかけ続けたことで生まれた得点ということもできる。

大儀見のゴールで1点差に

タッチライン近くでボールを受けた宮間がカットインして中央に向かい、ゴール前を見る。アメリカの守備陣がゴール前をかためた。

その瞬間、ペナルティーエリア右にできたスペースに大野が走り込んだ。宮間から絶妙のタイミングのパス。抜け出した大野が思い切り体をひねって中央にボールを戻した。

走り込んできたのはMF沢穂希(INAC神戸)。そのシュートはアメリカのDFがはね返したが、もう一度打って再びはね返されたボールがゴール左前にいた大儀見の前に転がり、大儀見が押し込んだ。

1点差になり、アメリカは明らかにカウンター狙いに切り替えた。ワンバックとモーガンだけを前線に残し、あとは自陣に引いてぶ厚い守備組織を構築したのだ。

日本はパスをつなぎ、その守備組織のなかに果敢に入っていった。日本の攻撃は「大波」にはならず、決定的な形はなかなかできないが、「さざ波」とはいえ、ひたひたとアメリカにプレッシャーをかけ続けたことは「ワールドチャンピオン」の名に恥ずかしくないものだった。

「この大会で一番の試合」

ワンバックの頭めがけてロングボールを送り、落ちたところをモーガンがロケットのような速さで追うアメリカのカウンターは迫力があったが、日本の両センターバック、岩清水と熊谷紗希(フランクフルト)の集中は最後の最後まで切れずに、3点目を許さなかった。

「この決勝戦で、アメリカを相手にこの大会で一番の試合を見せてくれた。選手たちに感謝したい」。試合後、佐々木則夫監督はそう話した。

「日本の女子代表が活動を始めてから31年になる。なでしこジャパンは、常に明るく、正義感があり、フェアプレーで、相手に対するリスペクトをもってやってきた。日本の女性の素晴らしさが、なでしこに受け継がれていると思う」(佐々木監督)

なでしこジャパンだけでなく、この日のアメリカも素晴らしいサッカーをした。試合は前半から互いに見事な攻撃を応酬し、エキサイティングな内容になった。この日ウェンブリー・スタジアムを埋めた8万人の観衆は、目を離すことのできない展開に歓声をあげ続けた。

誰もが夢中になった決勝戦

この大会中、女子サッカーの試合にもたくさんの観客が詰めかけたが、地元英国の人びとの多くは試合を見るというより「オリンピックに参加する」という感じで、試合が始まるとウェーブを繰り返すなど、試合そのものへの関心を示したとは思えなかった。

しかし、この決勝戦は試合が始まると誰もが夢中になった。それほどハイレベルで見応えのある素晴らしい内容のサッカー。女子サッカーの魅力を世界に伝える最高の宣伝になったはずだ。

そして、なでしこジャパンにとっても、今大会で最高というだけでなく、昨年のワールドカップのときをも超える最高の内容の試合だった。

選手たちは最後の最後まであきらめずに攻守を繰り返し、佐々木監督の言葉どおりフェアプレーを貫き、勇敢そのもののプレーを続けた。

「敗者」はいなかった

優勝と準優勝、金メダルと銀メダルには、もちろん違いがある。しかしこの日ウェンブリーのピッチに立った両チームに、「敗者」はいなかった。

この大会の後半、選手たちはなでしこらしいサッカーを貫き、決勝戦では技術的にもメンタル面でも最高の試合を実現した。

「なでしこはすごいな」と、早朝のテレビ中継を見ていた人もみんなが感じたはずだ。選手も、監督も、日本のサッカー界も、そして日本人も、すべての人が誇りにできる決勝戦だった。

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