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マラソン連戦でだるい… 刺激の練習で体スッキリ

ランニングインストラクター 斉藤太郎

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昨秋のシーズン入りからフルマラソンを連戦、疲れた体を次のレースまでに立て直せるだろうか――。シーズン終盤を前に、そんな悩みを抱えるランナーが増える時期です。「なんとなく体がだるい日が続く」「思ったようにスピードを上げて走れない」「足に新鮮さがなく重い感じ」。こうした状態になったとき、皆さんはどう対処するでしょうか?

腰が落ちたフォーム、エクササイズで修正

レースの連戦や走り込みで体が疲れているからペースを落としてゆっくり走ろう、と考えるランナーが多いようです。しかし、こうした単調な方法では疲労は抜けにくいのです。腰が落ちたフォームになり、スピードが失われて、かえって心地よく走れるようになるまでに時間がかかることがあります。

ゆっくりしたジョギングを繰り返すばかりでは体が反応してくれません。むしろどんどん鈍い動きしかできない体になってしまいます。

また、体が疲れた状態のときにはランニングフォームが崩れてしまいがちなので注意が必要です。はじめにフォームを修正するエクササイズを紹介します。

まず姿勢を整えるストレッチから。両手を頭上でクロスして手のひらを合わせ、左右の肩甲骨をギュッと寄せて伸び上がります。骨盤が前傾し、胸が開いた状態で深呼吸しながら10秒間。続いて左右それぞれに倒して体の側面も伸ばします。左右交互に10秒間、2回ずつが目安。猫背姿勢になって背中を丸めてしまわないように注意してください。(写真1

次に、片足立ちで軸足を真っすぐにして手の先まで垂直をキープ、反対の足は膝を上げて膝関節と股関節をそれぞれ90度に曲げます。臀部(でんぶ)にしっかり力を入れて左右それぞれ10~20秒。腰の高い姿勢になります。(写真2

背骨がS字の自然な湾曲、骨盤は前傾した正しい姿勢ができました。その姿勢を保って片足でスクワット。腰を落とす・上げる、この動作を骨盤回りの筋肉を使って行います。左右それぞれ10回。数十センチの段差を利用すると、腰が落としやすく、緊張感をもって片足で支える練習になるでしょう。ランニングの着地時に地面をしっかり捉えられるようになります。(写真3

疲れたときには、脚の付け根、振り子の支点に当たる骨盤の位置が下がって、腰が落ちたフォームになりがちです。「1・2・3腿(もも)下げ」で腰の位置を高く修正しましょう。ケンケンの動きで片方の足で続けて3回着地し、続いて反対の足で続けて3回着地するのを繰り返します。左右交互に計10セット。(写真4

肩・骨盤・膝・くるぶしが横から見て一直線となる垂直のラインを維持。軸足を伸ばし切った状態で、膝を曲げない意識で着地の際に地面から受ける反力を感じてください。着地点の真上に体の重心を載せ、左右の切り替え時は腕・足ともに一瞬で交代させます。骨盤が後傾したり、膝が曲がったり、後ろ加重になったりして姿勢を崩さないように注意しましょう。

スパイスとなる練習で回復早める

スローペースで長時間走り続けるLSD(Long Slow Distance)は、レース後や負荷の高いポイント練習後の筋肉疲労(つっぱり感や凝り)を抜くのには有効です。しかし、こうした練習を長く続けるのは好ましくありません。鈍く重たいといった、ぐったりした感覚や慢性疲労は、かえって抜けにくくなってきます。

そんなときには、"スパイス"となる練習を織り交ぜるのが有効です。主食ではなくてピリッと味付けをする調味料のようなもの。平日の練習に取り入れることで週末に予定しているポイント練習に備えたり、練習として参加するレースの前日や、20キロ・ペース走など距離走の前日などに取り入れたりすると効果的です。

疲れているからといって、ゆっくりランにとどめない。これはいわゆる「スピードプレー(speed play)」と呼ばれる方法です。距離やペースといった数字は気にしないで、遊び感覚で割とアバウトにスピードを上げ下げして走ってみましょう。

疲労感はドブにこびりついたヘドロのようなものだと考えてください。よどんだドブに強い水流を通してあげると、ヘドロが一気に流されて拡散していきます。練習で呼吸と心拍数を上げて血流が激しくなることで、体内に滞留していた疲労物質が吹っ切れるような効果が得られます。後にはスッキリした爽快感が得られ、その先の練習がうまくこなせるような体調に回復するでしょう。

通常の走りでは「10」動かしたいところを、疲れて「7」とか「6」くらいの動きしかできなくなってしまったとします。そんなときはゆっくりジョギングではなく、「15~20」の動きをすることで「10」の動きをする余裕ができるのです。

走力アップでなく疲労抜きが目的

練習メニューに取り入れるといい走り方を紹介します。

ジョギングの合間に上り坂150~200メートル走を5本、下り坂はゆっくりジョギングでつなぎます。肩をリラックスさせて腕は低い位置で強く振る。深く吐く呼吸を大切にしてください。つなぎの下り坂ジョグ中には、腕を回したり肩を脱力させたりしてフォームをリセットしてください。

このほか、200~300メートル走を10本、つなぎは立ち止まらず100~200メートルをジョギングします。距離が分からない場所では60~90秒のランを10 本、つなぎに1分間ジョギングを挟むといった方法も。時計を見ずに電信柱を何本分など、場所に応じて気ままに走るのもいいでしょう。

舗装路に限らず土や芝生のようなデコボコ道、上り下りのあるコースで取り組むのもOK。いずれも心地良いペース、心地良い本数で走っていいです。本数を追うごとに力みが取れて筋肉がほぐれ、体が動いてくるのが理想です。

また、いつものジョギングの後に1キロ走を1本、もしくは2分ジョグでつないで2本という走り方も。メーンの練習のジョギングで体が温まり、ストレッチをして筋肉を緩める。その後で締めくくりに走ってみましょう。ジョギングよりも数段階ギアを切り替えるイメージです。力まず心地良い範囲で走りましょう。

これらのスパイスとなる走り方だけで走力がアップするものではないことも理解してください。あくまでフルマラソンに向けた走り込み練習中のぐったり疲労を拭い去ることが目的です。逆に言えば力んで気負うようなことはせず、リラックスして取り組むべきなのです。

こうした要素を入れずにゆっくりジョギングばかり続けていては、体が速い動きを拒絶するようになります。いつまでたっても体は速い動きをしてくれません。一方で、体が動かないのにもかかわらず、力ずくで、がむしゃらにスピードを追求するような練習を重ねたが思うように動かない、といった悪循環を繰り返していても良い結果は得られません。

最後に体のケアも忘れずに。自分で足をマッサージするのもいいでしょう。足の裏を指や棒で押すほか、写真5のように足の指の間に自分の手の指を滑り込ませて、右にも左にもぐるぐる回してみましょう。入浴中などにのんびりやってみてください。体の末端部分の血行が促進され、心地良くなります。睡眠前に行えば眠りが深くなるでしょう。

<クールダウン>走る習慣、体もアタマも生き生き
 年度末が近づくにつれて何かと慌ただしくなり、走る時間を確保するのが難しくなる季節。走る習慣が途絶えてしまうと、情緒が不安定になってしまう人もいるというから大変です。
 走ることが発想にプラスとなることを証明した実験の話を読んだことがあります。「新聞紙にはどんな使い方があるかを列挙せよ」との質問で、読むことはもちろん、食器を包む、鳥かごの下敷きにする……など、被験者40人がひたすら答えるもの。被験者の半分は約30分間の映画鑑賞、残り半分はランニングをして、その前後に実施しました。
 結果は映画鑑賞後だと目立った変化がなかったのに対し、ランニング後には答えの速度や柔軟性が明らかに向上したそうです。アタマの働きが良くなって仕事の効率が上がることで、時間に余裕ができてランニングに出掛ける――。そんな好循環が実現するといいですね。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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