年明けのNHKスペシャルだったと思うが、蟻の一生というか、
生態を報告する番組があった。1匹の女王蟻を中心に、無尽
蔵のごとく生まれくる働き蟻が、せっせと餌をかき集め、蜜を
貯める。蟻の巣は、迷路のごとく塊として地中に形成される。
番組では、たしか南米の草原だったと思うが、巣の中にセメン
トを流しこみ、固まったあとで掘り返していた。それはまるで、
豪邸のプールほどもあり、画像自体が3Dではないかと見まが
うほどグロテスクだった。なぜか東京の都市を想い浮かべた。
それはともかく、1匹の女王蟻は次第に貫禄を増し、やがて羽
蟻を生みだす。羽蟻は働き蟻がせっせと運んだ蜜を食べ、これ
また養育専門の働き蟻に傅かれながら育つ。やがて飛翔の時
がくると、航空母艦の艦載機の如く、羽を折って巣の外へ出る。
羽蟻は、黄金色に光る夕暮れの光線に身を浴びせながら、羽
を優雅に開くと舞い上がる。飛び立った羽蟻の数・数・数。まる
で桜の花が散るようにひらひらと飛び、拡散していく。彼女達は
女王蟻から生まれ、その後継者として新たな巣を探すのである。
しかしこれが殺戮の始まりなのである。1匹の女王蟻が形成し
た巣は、膨大な蜜の貯蔵を更に増やしながら膨張し、黄金期を
迎える。しかし、それはやがて近隣に出来た新興の巣から出た
蟻の触手に掛り、殺掠と強盗の末、女王も抹殺されでしまう。
まるで人間の世界を見るようである。1部の人間の利益の為に
大勢の働き蟻が生みだされ、毎日毎日餌を取りに外へ出て、
その一部は毎日の闘いで消耗される。女王はそれを知ってか、
次から次へと子を成し、羽蟻を輩出する。破滅するその日まで。
人間がこの地球に出現してこの方、常に発展を目指して生きて
きた。何万年にも渡りせっせと闘い、子を成し、血を繋いできた。
それは脳の中で発生するドーパミンという神経伝達物資を分泌
して常に意欲をかき立ててきたのだ。しかしこれにも限界がある。
方や、人は他人に親切にすると「オキシトシン」という神経物質
を分泌するという。これは「愛情物質」ともいい、他助論の清水
氏にして「成幸ホルモン」と呼ぶ。もちろん神経物質としても、
重要なことはバランスであろう。片方だけでは生きていけない。
しかしSNSのメリットである「見も知らぬ人と当たり障りのない
会話や出会いを楽しむ」というのは、いささか問題ではないか。
なぜなら、人は出会い、話をして、ぶつかり、葛藤して、悩み、
そうやって生きてきたのであり、でなければ面白みが減ずる。
ただ、親子間で厳しい中にも密接な関係を維持してきた戦前の
社会規範を捨て、戦後米国の一種ドライな関係を醸造してきた
日本は親と子の関係が希薄になり、結果社会の規範もずれた。
それは誰あろう、団塊世代とその後の私の世代の責任である。
よって人との関係の希薄な世代が、いまSNSを通じて新しい
出会いを模索している。ここにきっと新しい日本の規範が生じ
るのではないかと、どこか願望でしかし確信を持って見ている。
きっとこれが21世紀なのであろう。明らかに20世紀とは異なる。
あっという間に長文となった。「蝙蝠」は次回とする。
三神工房