Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                
SSブログ

1月7日(火) 総選挙の結果と憲法運動の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『月刊 憲法運動』通巻537号、2025年1月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

二、憲法運動の成果と課題

 明文改憲阻止の実績

 総選挙の結果、憲法の明文改憲に賛成する自民・公明・維新・保守・参政などの政党の議席は3分の2を下回りました。憲法条文の書き換えに向けての発議は難しくなり、改憲派にとっては「冬の時代」の始まりです。立憲民主党の枝野幸男元代表が憲法審査会の会長に就任しましたので、改憲賛成派だけで突っ走ることもできなくなりました。
 これまでは衆参ともに改憲派が3分の2を上回り、その気になれば、いつでも改憲発議できたわけです。そうできなかったのは、ひとえに改憲反対を掲げた憲法運動の力によるものでした。その背後には「改憲を急ぐべきではない」という国民世論がありました。総選挙後に取り組んでほしい政策として、改憲を挙げる人は産経新聞の調査でも3%しかいません。
 安部首相以降、菅・岸田と続いた自公政権は任期中の改憲発議をめざしてきました。安倍元首相は現行の9条に手をつけず、新たな条項を設けて自衛隊の存在を書き加えるという「妥協案」を提示しました。「9条を守れ」という世論の壁に跳ね返され、譲歩せざるを得なくなったからです。
 今回登場した石破首相は、戦力不保持と交戦権の否認を定めた9条2項を削除することを持論としていました。しかし、首相就任にあたってこれをひっこめ、安倍「妥協案」を踏襲しています。石破首相も安倍元首相と同様に譲歩する道を選ばざるを得ませんでした。
 加えて、総選挙後の石破政権は少数与党に転落し、政権維持に汲々としています。最初の所信表明演説で改憲に意欲を示しましたが、「それどころではない」というのが正直なところでしょう。今後も警戒と監視を怠らず、私たちの運動によって追い込み、改憲に取り組む余裕を与えないことが重要です。
 当面の改憲にとって最大のテーマになっていたのが緊急事態条項の新設です。12月5日に韓国で勃発した「非常戒厳」の発令と短時間での解除騒動は、憲法に緊急事態条項を導入することの危険性を浮き彫りにしました。これも改憲勢力にとっては大きな打撃となることでしょう。

 大軍拡・戦争準備の危険性

 明文改憲の危機が差し当たり遠のいたからといって、安心はできません。朝日新聞と東大の谷口研究室の調査によれば、衆院当選者のうち改憲賛成派は67%で3分の2を上回っているからです。それに、岸田前政権が進めてきた安保3文書に基づく大軍拡によって、すでに9条は「風前の灯」となっています。
 憲法条文の書き換えは阻止してきたものの、9条の内実を掘り崩す「実質改憲」は着々と進行し、もはや条文の書き換えなき改憲段階ともいうべき状況に達しています。かつて自民党が自衛隊の存在を合理化するために展開していた9条の解釈を放棄し、自制も弁解もせずに堂々と戦争準備を進めているからです。
 その第1は、専守防衛に基づく安全保障政策の大転換と軍拡の急進展であり、個別的自衛権から集団的自衛権の行使容認に向けての機能強化です。自衛隊は「盾」のみならず「矛」の役割も担うようになり、陸海空の自衛隊を統合する作戦司令部の創設、敵領土内の基地だけでなく中枢部も攻撃できる長射程の戦闘機やミサイルの整備、敵の攻撃に耐えうる基地機能の強靭化、南西諸島の要塞化、秘密情報の保護、武器の生産と輸出、戦時における飛行場や港湾などの軍事利用、同じく戦時に際しての地方自治体の動員と食料の確保なども準備されてきました。いつでも戦争できるようにするという構えです。
 第2は、米軍の戦略転換と在日米軍の体制強化です。これまで米軍はインド太平洋軍を管轄する部隊の指揮機能をハワイのホノルルに置き、横田基地の司令官は作戦指揮の権限を持っていませんでした。今後は横田基地の位置付けを高めて宇宙軍を新設し、指揮権限の一部を付与して都心の赤坂に移転しようとしています。市ヶ谷の防衛省の近くに移して共同作戦体制を容易にしようというわけです。これも戦争できるようにするための準備にほかなりません。
 自衛隊は必要かつ最小限度の実力組織であって「戦力」ではないという憲法解釈によって9条との整合性を保ってきたのが、これまでの政府の立場でした。これはすでに放棄されてしまったと言えるでしょう、「戦力であって何が悪い」と居直るような大軍拡です。総選挙の結果、これにもストップをかける可能性が生まれました。政権交代によって、このような「居直り大軍拡」を阻止しなければなりません。

 憲法を変えるのではなく活かす

 日本周辺の安全保障環境が厳しさを増していることは否定できません。だからと言って、大軍拡によってこの厳しさを緩和できるのでしょうか。外交や話し合いというソフトパワーではなく、もっぱら軍事力というハードパワーに頼れば、軍拡競争を煽り立てて危機の火に油を注ぐだけではないでしょうか。
 日本周辺の緊張を緩和するために外交的な努力を欠かすことはできません。平和と安全のための最善の手段は、憲法の力を発揮することです。日本は軍事大国にならず、軍事力による恫喝や威嚇ではなく対話と外交によって相互理解を深めることこそ、憲法9条がさし示す道です。9条を守るだけでなく、その理念に基づいて非軍事的な対話路線を具体化しなければなりません。
 「今日のウクライナは明日の日本かもしれない」と、岸田前首相は恫喝していました。正しくは、「今日のウクライナを明日の日本にはしない」と言うべきだったでしょう、「なぜなら日本には平和憲法があり、私は9条を守り実行するから」と。
 中国との関係でも「台湾有事」が懸念されています。中国周辺に展開する米軍との偶発的な軍事衝突が起きる蓋然性は否定できません。もしそうなったとき、米軍とともに自衛隊が「存立危機事態」と認定して参戦すれば、ただちに「日本有事」に連動してしまいます。そのような事態は絶対に避けなければなりません。
 そのためにも、9条を守るだけでなく活かすことが重要です。トランプ米大統領が返り咲き、日本に対する軍事分担要請は一段と強まるでしょう。「日米同盟」と言えば思考停止してしまう悪弊を改め、日本独自の立場から毅然として対応することが求められます。
 今年のノーベル平和賞に日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が選ばれました。ウクライナ戦争で核使用をちらつかせているプーチン大統領の暴走を阻止するためにも、唯一の戦争被爆国としても、被団協を先頭に核廃絶を求める世論を高め、非核の政府を実現して核兵器禁止条約への加盟を実現しなければなりません。


nice!(0)