新しいカタチのSUVとして、感性に響く「美しいデザイン」と「楽しい走り」を追求したのが、2023年11月に発売されたトヨタ「クラウンスポーツ」だ。
トヨタ「クラウン」シリーズの第2弾として発売された、「クラウンスポーツ」(ちなみに、第1弾は「クラウンクロスオーバー」)。しなやかな足回りと俊敏な走りによって、運転の楽しさが味わえるスポーティーなSUVに仕上げられているという
「クラウンスポーツ」のエクステリアは、「クラウン」シリーズにとどまらず、日本車全体の中でもひときわ異彩を放っているように思える。まるで、コンセプトカーがそのまま出てきたようなスタイリングには、20代の若いデザイナーが深く関わっているとのこと。「クラウン」が標榜する“革新と挑戦”の言葉どおり、さまざまな新しいことにチャレンジしているのだ。
当記事では、そんな「クラウンスポーツ」に試乗したのでレビューしたい。なお、以下の動画でも「クラウンスポーツ」試乗の模様をお伝えしているので、気になる方はご覧いただければ幸いだ。
「クラウンスポーツ」のフォルムは、全長とホイールベースを縮めてオーバーハングも短いので凝縮感がある。四隅で踏ん張る、大きなタイヤが印象的なデザインだ。
「クラウンスポーツ」の外観で特徴的なリアフェンダーは、特別な工法と最新のシミュレーション技術を駆使して実現しているのだそう
参考までに、「クラウンスポーツ」の4,720×1,880×1,565mmというボディサイズは、「クラウンクロスオーバー」(4,930×1,840×1,540mm)と比べると210mmも短く、40mmワイドで、25mm高い。オーバーハングは、フロントで30mm、リアで100mm短くなっている。
比較参考として、「クラウンクロスオーバー」のエクステリア
立体的な造形が印象的な「クラウンスポーツ」のインテリアは、スペシャルティな雰囲気が巧みに演出されている。運転席と助手席とを、大胆なアシンメトリーにコーディネートしているのも「クラウンスポーツ」ならではだ。運転席側は、集中力を高めるためにブラックで統一しつつ、助手席側はくつろいでもらえるように特別な素材や配色であしらわれている。
「クラウンスポーツ」のインテリア
メーターやディスプレイは、水平に集約することで視線移動を最小限にとどめるとともに、操作を迷わないように配慮がなされている。インフォテインメント系は、これ以上はなかなかないだろうと思えるほどに充実している。機能があまりに多様なので、むしろ使い方に迷ってしまうほどだ。
また、低速走行時や駐車時の視界を補助する機能は、驚くほどに充実している。歩行者や自転車など検知すると、近づきすぎないように減速、操舵してくれる「プロアクティブドライビングアシスト(PDA)」や、スマホによる遠隔操作で駐車場への入出庫が可能な「アドバンストパーク」のリモート機能など、高度な運転支援機能が数多く搭載されているのはありがたい。
「クラウンスポーツ」は、リフトアップされているもののそれほど地上高は高くないので、フロントシートへのアクセス性はまずまずだ。ドア開口部が広く、サイドシルも高くなく、シートの座面が成人男性にはちょうどよい高さにあるので、とくに気になることはない。
「クラウンスポーツ」のフロントシート
いっぽう、リアシートは開口部の形状やドア開閉の支点の位置関係で、フロントほどの余裕はない。少しかがみながら足を持ち上げて乗り降りする格好になるが、乗り込んでしまえば、居住空間自体は十分に確保されている。
「クラウンスポーツ」のリアシート
足元空間は、運転席は右足よりも左足の周辺に余裕がある。上半分は、あえてタイトになっているようだ。後席は、ホイールベースが短め(クロスオーバー比で80mm減)なので、膝前空間の余裕はあまりない。また、フロントシートが大柄でガラスウィンドウの開口部も絞り込まれているので開放的ではないが、できるだけ乗員にそう感じさせないようヒップポイントを高めて、アップライトな姿勢で座るように設計されている。それでも、頭上には空間の余裕がある。
ラゲッジルームは、リアシートを立てた状態での奥行きは、それほど大きくない。だが、リアシートを前に倒せば(床の位置はやや高いが)ほぼフラットになり、ハッチバックの強みである広大な荷室スペースになる。これだけの広さがあれば、不便に感じることはないだろう。
「クラウンスポーツ」のラゲッジルーム(画像はリアシートを立てている状態)
ただし、後端寄りに荷物を積んでテールゲートを閉じると干渉しやすいので、高さのある荷物を積みたいときは気をつけたほうがよいだろう。
「クラウンスポーツ」のグレードは、2.5リッターHEVの「SPORT Z」(590万円)と、2.5リッターPHEVの「SPORT RS」(765万円)の2種類がラインアップされている。今回は、販売比率が圧倒的に多いHEVの「SPORT Z」に試乗した。
HEVの2.5リッター直4エンジンの最高出力は186ps、最大トルクは221Nmと、PHEVの177ps、219Nmよりも数値はやや高めだ
「クラウンスポーツ」はHEV、PHEVともに駆動方式は4WDのみで、フロントとリアにそれぞれモーターが搭載されている。HEVのフロントモーターの最高出力は120psで、最大トルクは202Nm。リアモーターは同54ps、121Nmで、システム最高出力は234psになる。
アクセル操作に対する応答性のよさと、パワフルでスムーズな加速を実現するため、高出力のバイポーラ型ニッケル水素電池を搭載し、徹底したシステム効率の追求により、21.3km/LというすぐれたWLTCモード燃費を達成している。
フロントアクスルとリアアクスルはつながっておらず、それぞれ個別にモーターを駆動する「E-Four(電気式4WDシステム)」は、走行状態に合わせて前後輪トルク配分を100:0〜20:80の間で緻密に制御する。滑りやすい路面では、スムーズに4WD状態へ切り替えて発進性や走行安定性をアシストしたり、コーナーリングではリアの駆動力配分を大きくしたりして、燃費向上と旋回中の車両安定性向上を両立させている。なお、どのように制御しているかをマルチインフォメーションディスプレイに表示することもできる。
この4WDシステムは、トヨタやレクサスの多くの車種にも搭載されていて好印象なのだが、「クラウンスポーツ」は心なしか、走りがより快活に感じられた。
「クラウンスポーツ」は、発進時から俊敏なアクセルレスポンスを楽しめて、ダイレクトな加速フィールを幅広い車速域で体感できる
「クラウンスポーツ」の足まわりについて、開発担当者は「硬いだけがスポーツではない」ことを追求したと強調していたのだが、ドライブすると改めてその思いが伝わってくる。
「スポーツ」モデルにふさわしく、さらには「クラウンクロスオーバー」との差別化のために少し引き締められたことで、コツコツという感触はあるものの乗り心地が硬いとまでは感じられない、絶妙なスポーティー感だ。
「クラウンスポーツ」は、公道をごく一般的な速度で走っていても、適度にスポーティーな運転フィールを味わえる
「クラウンスポーツ」は、「クラウンクロスオーバー」よりもホイールベースとオーバーハングが短いために、回頭性が高い。さらには、後輪操舵システムや左右の後輪のベクタリング機構を備えた4WDシステムは、俊敏なハンドリングを誰でも味わえるよう最適化するとともに、乗り心地が硬くならないようサスペンションの摩擦を低減、路面からの入力をいなすように作り込まれた。結果として、ワインディングや高速道路では、安定した走りを楽しめる。
HEVの「SPORT Z」には、PHEVの「SPORT RS」に標準装備される電子制御の「AVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システム)」は設定されていないものの、運転フィールはちょうどよい味付けになっているように思えた。
「クラウンスポーツ」の最小回転半径は5.4m。数値としては、最後のFRとなった先代「クラウン」や現行の「クラウンクロスオーバー」と同じなのだが、「クラウンスポーツ」はホイールベースやオーバーハングが短いので、感覚としてより小回りがきくように感じられる。
「クラウンスポーツ」は、5.4mの最小回転半径や後輪操舵システムの恩恵もあって、この車格のクルマとしては取り回し性にすぐれる
また、スタイリング優先のクルマには違いなさそうだが、乗る人が不便に感じないように配慮されていることも見てとれる。車両感覚がつかみやすいわけではなく、やや高めのアイポイントからの視界もそれほどよいわけではない。とくに、斜め後方は死角が大きめだ。だが、ドアミラーは見やすく、右左折時の見切りを考えてピラーとの間に隙間が設けられるなどの配慮も見られた。
先進運転支援機能は、これ以上はなかなかないほどに充実している。最近、トヨタが新型車に順次採用している、周囲の状況に合わせて先読みしてブレーキや操舵を支援する「プロアクティブドライビングアシスト」の制御もそれほど違和感はなく、よくできていると感じられた。特に、前走車との車間距離を保つ機能は本当に重宝した。
最後に、2024年8月中旬時点で公式HP上の「工場出荷時期目処」、すなわち納期は「詳しくは販売店にお問い合わせください」と表示される状況が続いている。調べてみると、仕様によって「6か月〜15か月」となっているようだ。せっかくの魅力的なクルマなので、少しでも早くほしいと思ったユーザーの手元に届くようになることを願いたい。
(写真:島村栄二)