“ヒールに高低差がない”で人気「ゼロドロップシューズ」のメリット&デメリット。3日間の筋肉痛の後に起きた“驚きの変化”
こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
20数年前、私はイギリスで靴の設計を学んでいた頃、今でも忘れられない授業がありました。「靴のヒールは何のためにあるのか?」この問いに、私を含めた全員が正しい回答ができませんでした。正解はひとこと、「ファッションで、機能はない」。衝撃的でした。健康第一のドイツならともかく、クラシックなドレスシューズの本場であるイギリスですら、この答えだったのです。
確かに人の足はフラットにできています。快適さを追求すると、革靴からスニーカー、特にヒールの高低差のない「ゼロドロップシューズ」の勢いが、最近急速に加速しています。
実は、市場のスニーカーの99%は「真っ平ら」ではありません。1cm~3cmほどヒールが高くなっています。これにより、一歩目がスムーズに体重が乗りやすいですが、逆に言えば「常につま先に重心がかかっている」とも言えます。スニーカーを履いているのに、足の裏が疲れたり、巻き爪になる原因のひとつが前重心です。もうひとつの原因は、足が踏ん張れない不安定性にあります。これを解消するために編み出されたのがゼロドロップシューズ、特に裸足に近い状態を再現する「ベアフット(裸足)シューズ」です。
HOKAやONなどの厚底シューズとは対照的な考え方ですが、理にかなっています。その勢いを象徴するように、ベアフットシューズの旗艦店が首都圏の一等地に続々と出店しています。アメリカの「Altra」が銀座の歌舞伎座の真横に、イギリスの「Vivobarefoot」が青山に出店するなど、メーカーの本気度と評判の良さが伺えます。
ソールの厚みに頼る「守りのクッション」に対し、薄底シューズは人間の関節や動きを利用する「攻めのクッション」。ソールが厚いと歩行が不安定になり、ケガを誘発しやすいというデータもあります。
理論だけでは実感がわかないことも多いので、筆者が実際に使ってみたメリット・デメリットを紹介します。
筆者はAltraの代表作「Lone Peak 9+Wide」を1週間ほど履き続けてみました。底の厚みは2cmほどで、通常のスニーカーが3cm、HOKAなどの厚底シューズは4cm以上の厚みがあるので、比較すると地面の凹凸がダイレクトにわかります。本来は山道や未舗装道路を走るためのトレイルランニングシューズですが、都会のコンクリートの上でも問題なく歩けます。
まず、デメリットから紹介します。デザインとフィット感は完全に好みが分かれる部分です。Altraに限らず、ベアフットシューズ(薄底シューズ)はどれもトウが足と同じ形で、むき出しの形状が特徴的です。指先の形も人によって異なり、エジプト型・ギリシャ型・スクエア型などに分かれるため、極端に第2指が長いギリシャ型の場合、合わない方もいるでしょう。
ただし個人的には、指先が自由に動き、親指も小指も当たらないため、開放感を感じました。
もう一つのデメリットは、重症の関節痛を抱えている方には厳しいことです。物理的に薄底なので、当然といえば当然ですが、現在進行形で通院しているようなヒザ・腰の痛みを抱えている方には不向きです。ベアフットシューズは体の動きを利用して、結果として関節を守る設計なので、いわば「スパルタ」。厚底靴でようやく痛みが解消された方には、いきなりのヘビーユーズは推奨しません。
重症の関節痛や体調不良が続いている方には、無理な使用を控えるようにしましょう。医師の指示を仰ぐことをおすすめします。
ゼロドロップシューズの台頭

アルトラ公式HPより
ローンピーク9+ワイドを1週間履いてわかった意外な快適さと課題

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イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』
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