もう1度原点に──言葉を捨てて挑むsioneの初アルバムを先行ハイレゾ配信!
美しいことばの響きを大切にした歌詞と独自の世界観で歌を紡ぎ続けている湯川潮音。そんな彼女が昨年、ことばを手放し新名義“sione”をスタートさせた。ことばを持たない唄だけで構成された楽曲は、彼女の新たな世界観を生み出した。新しい武器を手にいれた彼女が、4月15日に待望の初アルバム『ode』をリリースする。OTOTOYでは4月1日より、このアルバムを2週間先行ハイレゾ配信。いち早く楽曲をお聴きいただけるとともに、彼女へのインタヴューも。名義を変えて始めたこのプロジェクトについて丁寧に語ってくれた。
sione初のアルバムを先行ハイレゾ配信!
sione / ode
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?
【配信価格】
単曲 173円(税込) / アルバム 1,890円(税込)
【収録曲】
1. Birds
2. Wealth of Flowers
3. Nocturn
4. ivy
5. The Seeker
6. Plein Soleil
7. Golden Age
8. The Hole in Your Heart
9. Harvest
10. I saw you one time
11. Kemono
12. Coda
INTERVIEW : sione
全ての楽曲で歌詞を用いずに唄われる湯川潮音の新名義“sione”として初のフル・アルバム『ode』。収録されている12曲は、言葉を持たないことで、楽曲の世界観が大きく広がり、喜怒哀楽どんな感情にも響き渡る楽曲たちだった。湯川自身も、大切にしていたと語った「ことば」を放り投げることは、彼女にとってどんな意味があったのだろうか。今回のインタヴューでは“sione”を始めたきっかけや、今作に対するこだわりなどを訊いた。
インタヴュー&文 : 鈴木雄希
写真 : 大橋祐希
大切にしていた歌詞やことばを放り投げて
──まず、今回はsione名義でのアルバム・リリースになりますが、“sione”と“湯川潮音”で、名義を分けたのはなぜですか?
sione : ずっと“湯川潮音”名義では、自分の中で歌詞やことばを大切に曲つくりをしてきたところがあったんです。でも今回は音楽を作る上でそれを放り投げて全く逆のこととしてやってみたいなと思って、違う名義にしました。
──歌詞やことばを放り投げるきっかけは何だったのでしょう。
sione : 2年くらい前からニューヨークと日本、両方に拠点を置いているのですが、ニューヨークでも日本語でライヴをしています。お客さんは、わたしが何を言っているのかわからないと思うんですけど、楽しんでくださるんですね。ことばだけではない、語感とか響きで楽しんでくれている感覚を目の前にして、自由な気持ちになったんです。自分が今まで取り組んできたものとは、また別のおもしろさを見つけられたような気がして。子供の頃に合唱隊に入ってて、その10年ちょっとの間に、世界中のいろんな教会でミサとかを歌ったことがあるんです。その頃は、もちろん外国語の意味なんてわからずに歌っていて、雰囲気とか語感を楽しんで歌っていたんですよね。その時のことを思い出したんです。
──“湯川潮音”には歌詞とかメロディーのおもしろさを感じていたのですが、“sione”の楽曲には音響的なおもしろさを感じました。その違いで特に意識したところはありますか?
sione : 今回の作品の曲作りに関しては、world's end girlfriend(以下、WEG)と一緒に作業をしていく上で、ある程度投げていたというか、任せていました。サウンドのつくり方など、自分にない新しい部分が見れたんじゃないかなと思います。
──今回のアルバムには、“湯川潮音”の時には出てこなかったアイデアなどが多く含まれているんですね。
sione : “湯川潮音”のときは、どこまでも凝りすぎてしまって、自分で納得いくまで突き詰めないと満足できないという感じでやっていたんです。だけど、sione名義の場合はちょっと肩の荷が下りているというか、楽しみながら新しいものをつくれている気がします。
──sioneとしてのリリースにあたって、なぜVirgin Babylon Recordsを選ばれたのですか?
sione : 10年くらい前に、WEGの作品にゲストとして参加させてもらって、そのときはじめて一緒に曲をつくらせていただいたんです。そこからツアーやライヴに参加させてもらっていくうちに、いつか一緒に何かつくらせてもらいたいなと思っていて。なので10年越しの思いという感じで今回一緒に作品が作れました。
──今回のアルバム・タイトルである『ode』という言葉には、「特殊の主題でしばしば特定の人や物に寄せる叙情詩」という意味があるんですよね。なぜこのタイトルをつけたのですか?
sione : 楽曲にことばがない中で、タイトルのようなことばの存在は、聴いている人にヒントを与える大事なものだと思うんです。メロディーと響きだけで何かを伝えているシンプルな作品なので、根本的に「うた」を表すことばがないか探していて、この言葉を見つけました。
──sioneさんにとってこの作品を寄せた「特定の人や物」は、なにかあったのでしょうか。
sione : うーん、先ほどお話ししたような、昔の自分というか、原点のところかな。声を出して楽しいと思っていたときの、歌うことに翻弄されて舞い上がるような気持ちに焦点があったと思います。
──今回のプロジェクトは、これまで長く活動されてきたなかで、1回原点を見つめ直す意味合いが強かったんですね。
sione : そうですね。特に今回の作品の曲は、最初に鼻歌とかギター、小さい鍵盤とかでメロディーをつくり始めたんです。それで自然に出てくるのが、昔どっかで歌ったミサの旋律だったりとか、自分の中にあるストックが、考えなくとも出てきているような感じがして。それは体の一部になっているようでたのしかったですね。
──自然と出てきたものが多かったんですね。
sione : そうです。あと、コーラスを重ねたりするのは、“湯川潮音”名義ではあまりやっていなかったので、そういうハーモニーの楽しみとかも、いろいろ実験しながらつくりました。曲は20曲くらいつくったのかな。なのでずっと作業し続けていた感じです。
──そのなかから選ばれた12曲が今回のアルバムに入っているんですね。この12曲のなかで特に思い入れのある曲はありますか?
sione : 今回このアルバム制作と同時に、映画のサントラの仕事があったんです。ターシャ・テューダーっていう方のドキュメンタリー映画(『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』)なんですけど。その曲作りも一緒にしていて。その作業中にできて、このアルバムに入れた曲もあったんです。だからターシャのドキュメンタリーからインスパイアされた部分もあって、相互作用がすごくおもしろかったです。発売日と公開日が同じ日なんです。
──じゃあ結構忙しいなかつくられたんですね。
sione : でもかえって良かったのかなと思います。
できるだけ「無」というか楽器の一部みたいな気持ちで
──sione名義の楽曲は全て歌詞がないですが、その難しさは感じましたか?
sione : やってみて気づいたんですけど、歌う方は歌詞があるより大変でした。ことばを歌っていたらごまかせる部分とかがあるんですけど、ことばがないとそういうところもないんです。なので、歌い手としての鍛錬が必要なんだなっていうのは、思いました。
──今回の曲作りはどういった方法でやられていたのですか?
sione : 単純な旋律と単純なコード感みたいなものを、私がつくってWEGに送ったり、逆にWEGからわたしに送ってもらってメロディーを乗せたりっていう感じです。曲によってつくり方はいろいろでした。でも日本とニューヨークで、離れていてもこういう形でやりとりできるんだなって。
──そこのコミュニケーションは難しくなかったですか?
sione : それがなかったですね。WEGはすごくよく私を知っていてくれていて、わたしも彼をよく知っているので、そういう部分は阿吽の呼吸というか。なのでストレスはあんまりなかったですね。
──sione名義の楽曲には、いろいろな感情の混ざりを感じたのですが、それは意図していたことなのでしょうか。
sione : いえ、意図していないですね。でもそうだったらすごい嬉しいです。今回は、できるだけ「無」というか楽器の一部みたいな気持ちで歌っていました。
──歌を大事にというよりは楽曲全体の音を大事に作っていたのですね。
sione : そうですね。レコーディングの方法もそうなんですけど、どうしてもスタジオで「さぁ歌を歌います」ってなると、いかにも“歌を歌っている”ものが録れるんです。今回は1人で録ったこともあって、“あえて高らかに歌を歌う”というよりかは“そこに存在している”みたいな感じで歌いました。
──歌い方で特に意識していたことなどはありますか?
sione : ことばのニュアンスを感じさせないようにはしました。自然に出てくるヴォイシングも、なるべく無の方向で。あとはビブラートみたいなものもなるべくしないようにしましたね。
──逆にことばがあるからこその難しさや楽しさはありますか?
sione : 歌詞はいつもすごく悩むんです。意味合いを持つと、そこから風景が広がりにくいというか、曲から想像する範囲が狭まってしまう部分がどうしてもありますよね。それはいいところでも悪いところでもあると思うんですけど。なので、自分が思っている風景を忠実に書きたいと思って、時間がすごいかかるんです。でも今回のこのプロジェクトは、ことばがないぶん無限大に可能性があって。それこそインド人の人が聴いたら、インドの風景を思い浮かべるだろうし、アラスカの人はアラスカの風景を思い浮かべるだろうし。今回のsione名義ではそういうことができるので、おもしろいです。
──今回のアルバムを聴いて、もやもやとしたものなんですけど、広い世界が想像できたんです。それもことばがないからなのかなって思いました。
sione : そうですね、きっと。曲が流れる場所とか時間とかそういうものによっても全然変わるし、もっと風景に馴染むようなものだといいなと思います。
──今回のアルバムは、リスナーにどういう場所で聴いてもらいたいとかはありますか?
sione : なかなかことばのあるものだと、作業してたり勉強してたりすると気になっちゃうと思うんです。だけどこのアルバムはいつでも生活の中に溶け込める気がする。なので旅のお供でもいいですし、みなさん自分なりに楽しんでもらえたらいいなと思います。
──いつ聴いても気持ちいいという感じはすごくしました!
sione : そうだといいな。
──今回、ことばのない歌を歌うなかで、歌以外のサウンドとかの考え方に変化はありましたか?
sione : WEGとやらせてもらったし、今回の歌には歌詞がなかったので、透明性がでたんです。そこで描きたかったのが光と影の陰影。いろんなことの2面性みたいなことが、このsioneでは出しやすいのかなと思っていて。よりそこにフォーカスを当てた部分はあると思います。
──湯川潮音名義の時はあまりそういうところは考えていなかったのですか?
sione : どっちかというと、それを歌詞に込めていました。サウンドとしては歌詞に導かれるままにやっていましたね。
遊ばせながらやるっていうのは大事かな
──『ode』も『Golden Age』もジャケットに妖怪というか化け物みたいなものが描かれていますよね。あれsioneさんがイメージを伝えてあのようなジャケットになったのでしょうか。
sione : 絵を描いていただいた岸野衣里子さんは、すごい好きなアーティストさんで。彼女の作品は割とああいうテイストのものが多いんです。前にクリスマス・アルバム(『chime』)をつくった時にジャケットをお願いしていて、私のこともよく知っていてくれているんです。なので音を聴いてもらって丸投げしました。それでああいう絵が送られてきたので、さらにそこに合わせて曲を作った部分もありました。楽曲制作の途中で、こういう感じって絵を見せてくれていたので、それが結構キーワードになったというか。
──今回のテーマでもある「原始とモダンの交差」の、原始の部分がジャケットにはすごく出ているなと感じました。楽曲を聴いたら原始だけじゃなくモダンな感覚も感じ取れたのですが、sioneを始める上で「原始とモダンの交差」に注目したのはなぜでしょうか。
sione : モダンの部分は、わたしが本来持ち合わせていないものなんです(笑)。せっかくWEGとやるならそういう要素ももらえるっていうところがあったような気がします。
world's end girlfriend(以下、WEG) : 実際はそこまでモダンにはしていないんだけど、現在においてちょっと原始的な表現をすると、原始とモダンがちょうどよく混ざる気がして。歌詞がないから普遍的な歌の部分に合っていくから、メロディーも曲構成もできるだけシンプルに音数も減らしていったっていうイメージですね。sioneさんの声自体にそういう原始的なものがあるから、おれのトラックを掛け合わせてっていう感じで。
──sioneさん的にはここに対して意識したことはありますか?
sione : さっき話していたような、よりシンプルに歌うっていうところかな。
WEG : シンプルだからこそ普遍性に近づける。
──昨年から始められたsione名義ですが、しばらくはこの名義で活動をするのでしょうか。
sione : いや、たぶん両方、2つの顔としてやっていければいいなと思っています(笑)。
──両方やることの難しさとかは感じていますか?
sione : 逆にいいバランスが取れたなと。ずっとこのsione名義をやっていると、何かいいたいことが出てくると思うんです。そしたらそれを書きとめて、歌詞にする。歌詞を書いていて、もうなにも言いたくないってなったら、sioneの楽曲をつくったりとかできるかなって思っています。1人でやっているとどうしてもそういう刺激というか、自分の中でリフレッシュしていくことが難しくなっていくので、そういう風に遊ばせながらやるっていうのは大事かなと思います。いまニューヨークと日本で住んでいるのもそうなんですけど、両方の風を感じられると、ずっと自分が新鮮でいられる。
──ニューヨークにいるからこそわかる日本語のおもしろさとかはありますか?
sione : 繊細な表現だったり、季語だったり、そういうおもしろさははいつも感じています。日本語ってすごい母音が多いんです。外国語はもっと子音が多くてきついので、海外の方から「日本語はすごいやわらかい響きだね」って言われることがあるんです。「響き」で日本語を意識したことがなかったので、いろんな国の人の意見を聞いて自分の音楽を客観的に見たりするのがおもしろいですね。
──逆に英語のおもしろさはありますか?
sione : 英語のおもしろさ……。うーん、喋れるようになりたいですよね(笑)。英語っていろんな国の人と通じるからいいですよね(笑)。特にニューヨークなんかはいろんな国から来た人が英語を使うので、方言どころじゃなくて訛りが多様すぎる。“英語じゃない英語”が共通言語としてあるんです。それはすごいおもしろい。ハチャメチャな英語でも、みんな自分のものにしているので、それでいいんだなと思うところはありますね。それでも通じるし、「英語みたいなもの」がいっぱいあります。
──海外に行くと、ちゃんとした英語を喋らなくちゃって思ってしまうんですけど。
sione : とんでもないですよ。30年近くやっているタクシーの運転手さんでさえ、まったくしゃべれないとかなので。おもしろい街ですよね。とにかくエネルギーで生きている感じですね。
──いろんな人種の方と関わっている中で影響を受けたことはありますか?
sione : なんでもありのムードなんです。教会でヘビメタみたいなバンドが演奏するのもありだし。そういうおもしろさとか自由さは、少なくとも自分がいまやっているところには関係していますね。
──sione名義でのライヴは予定あるんですか?
sione : 考えないとね(笑)。でもライヴはやろうと思っています。
──ライヴで歌うのは難しそうですね。
sione : いやぁ、大変だと思います(笑)。ライヴでやるとまた全然違った世界観になると思うので、それはそれで楽しいと思うので是非いらしていただきたいですね。
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LIVE SCHEDULE
sione「ode」発売記念インストアイベント
2017年4月15日(土)@タワーレコード渋谷店 16:00〜
PROFILE
sione
1983年東京出身。小学校時代より東京少年少女合唱隊に在籍。湯川潮音の別名儀sioneでは声、唄を中心に楽曲は制作されるが歌詞はなく、唄は意味の世界から解放され、喜びも悲しみも軽やかに奥底まで届ける。静謐であり恐ろしさも美しさも併せもつ新たな唄の世界と可能性をみせる。