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背水のIBM、過去最大3.8兆円買収 クラウドに賭け

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米IBMは28日、クラウド向けソフトウエアなどを手がける米レッドハットを約340億ドル(約3兆8000億円)で買収すると発表した。IBMは急拡大するクラウド市場で米アマゾン・ドット・コムに出遅れたが、過去最大のM&A(合併・買収)で逆襲に転じる。アマゾンを含む「GAFA」など新興勢に追い詰められた20世紀のITの巨人が大型買収で賭けに出ている。

「レッドハット買収はIBMにとって大きな前進だ」。IBMのバージニア・ロメッティ最高経営責任者(CEO)は29日の電話会見で強調した。

レッドハットは企業向けソフトの販売やクラウド管理を手がけ、中小を含む幅広い企業を顧客にもつ。5月にクラウド上で稼働する新型の仮想サーバーの管理用ソフト「オープンシフト」で、IBMとの連携強化を発表し親密な存在だった。

わずか5カ月で買収まで踏み込んだ背景にはロメッティ氏の危機感がある。CEOに就任した2012年以降、業績は下降線をたどり続け、売上高は17年12月期まで6年連続で減少。この間に売上高は26%も縮み、株価は3割強も低い水準だ。一部で退任論も出て、背水の陣だった。

今回の買収額はIBMの時価総額の3割に相当する。レッドハットが成長途上とはいえ、売上高はIBMが過去6年間で失った規模の1割未満。大きな賭けの背景には、IT業界の主戦場であるクラウドサービスで出遅れた危機感がある。

米調査会社ガートナーによると、世界の潮流であるサーバーやソフトウエアを共通化した「パブリック・クラウド」の17年のIBMのシェアは1.9%どまり。5割を超えるアマゾンや、同じ古参ITの仲間でもある米マイクロソフトに水をあけられている。

米調査会社カナリスによると、2017年の世界のクラウドの市場規模は16年比45%増の約6.1兆円。今後も年率4割の成長が続き、19年に12.8兆円に達する見通しだ。

コンピューター勃興期のIBMは企業向けに専用開発するハードやソフトで圧倒的なシェアを誇った。その後、パソコンを中国レノボ・グループに売却するなどソフト傾斜を打ち出したが成長分野を取り込めていない。

今回の買収は「守り」と「攻め」の両にらみだ。

一つは既存顧客のつなぎ留め。IBMは「ユニックス」と呼ばれる基本ソフト(OS)を搭載するサーバー製品で伝統的な大企業の顧客基盤を持つ。レッドハットが得意とするリナックスはユニックスを参考に開発されたOS。レッドハットを取り込み、IBMのサーバーでビジネスに取り組む顧客がクラウドに移行する際、アマゾンなど競合への流出を防げる。

次世代サービスの鍵を握る技術を入手し巻き返す面もある。クラウドでは最近、仮想サーバーを提供する次世代サービスが注目を浴び、レッドハットのオープンシフトは次世代サービスを活用しやすくするソフト。IBMはアマゾンが手薄な次世代分野で先行できる。

アマゾンのほか、米グーグルや米アップル、米フェイスブックなど、存在感を高める「GAFA」に対抗する動きは他のIT大手でも相次ぐ。

パソコン時代を切り開いたマイクロソフトはクラウドに大きく舵(かじ)を切った。今年6月にはソフト開発者向けコミュニティーサイトを運営する米ギットハブの買収を発表。世界で3000万人超の開発者が利用するギットハブを買収し、クラウド事業の顧客接点を広げる狙い。一連の戦略は株式市場で評価され、26日には時価総額でアマゾンを逆転した。

ビッグデータやそれを扱う人工知能(AI)を収容するクラウドの価値は、契約する企業数や取り扱うデータ量で大きく左右される。膨大なデータの解析を繰り返すことでAIの精度が向上し使い勝手も高まるからだ。

クラウドで5割のシェアを握るアマゾンに独走を許せば、この分野での逆転はほぼ不可能になる。IBMのロメッティ氏は29日、「クラウドで一番になるためにスタートを切った」と訴えた。だが同日の取引開始直後に同社株は前営業日比5%安まで下げた。買収の成否の評価まで時間は長くかからないかもしれない。

(ニューヨーク=中山修志、シリコンバレー=佐藤浩実、島津忠承)

 レッドハット 1993年創立のソフトウエア会社。無償公開され自由に改良できる「オープンソース」の基本ソフト(OS)である「リナックス」と関連ソフトなどをまとめ、企業向けのパッケージ商品に仕立てた「レッドハット・エンタープライズ・リナックス」などを手掛ける。ソフトは無料だが、更新や保守などのサービスをサブスクリプション(継続従量課金)で販売する。
 日本国内ではJFEスチールや飲食店情報サイトのぐるなびなど、リナックス関連のオープンソースソフトを社内システムに使う企業の多くと取引する。2018年2月期の売上高は29億2000万ドル(約3270億円)、純利益が2億5800万ドル。

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