夜の図書館、ぬいぐるみに魔法 夢与え本好き育てる
「お泊まり」の様子、ジオラマ写真に
ぬいぐるみの自己紹介で仲良く
「ろうそくパッ、もひとつパッ♪」。図書館員が手遊びで、子どもたちの関心を引く。5月25日午後2時、松山市立中央図書館(松山市)で、地元の12組の親子が参加し、ぬいぐるみのお泊まり会が始まった。
本に興味はなくても、ぬいぐるみの好きな子どもは多い。参加費は無料。イベントでは、お泊まりやぬいぐるみが題材の作品を選び、語り聞かせ、絵本の朗読、イラストを使ったパネルシアターなどを実施した。子ども同士はぬいぐるみの自己紹介をしながら次第に仲良くなっていった。
国会図書館が米国の取り組みを紹介
いよいよお泊まりタイムになると、布を敷いたスペースの上に持参したぬいぐるみを寝かしつけていく。ある女児(5)が預けるのをためらっていると「みんな一緒だから大丈夫」と別の女の子が声をかけ、すべてのぬいぐるみが図書館で一夜を過ごすことになった。
館員が「あした迎えに来てね」と話すと、「そんな大きな声を出すと、目が覚めちゃうよ」と子どもたちから注意する声。参加者たちは口に人さし指を立てて、静かに退室していった。
午後8時。図書館が閉まると、館員は事務室に隠してあったぬいぐるみを使ってジオラマ作りを始めた。
ぬいぐるみたちは受付で端末を使い、絵本を貸し出す。その後、児童書スペースに移り、紙芝居を鑑賞。最後には本棚によじ登ったり、本を踏み台にして高い棚にある本を取ろうとしたり……。やんちゃなぬいぐるみたちの姿を館員が写真に収めていく。
翌日、ぬいぐるみの引き取りに子どもたちがやってきた。「早く会いたかった」と4歳の女児は、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。写真を見た3歳の男児は「こんなことしてたの。なんで?」と不思議がる。5歳の女児は「こんなに遊んでたんだ。あたしも一緒にお泊まりしたかった」。
3歳の双子の母親は「大好きなぬいぐるみが本と親しむ姿を見て、本を身近に感じたよう。これなら本好きになってくれそうです」とほほ笑む。
ぬいぐるみのお泊まり会が始まったのは、2010年秋に国立国会図書館が米国の図書館での取り組みをサイトで紹介したことがきっかけ。本離れに歯止めをかけ、利用者を増やしたい各地の図書館が取り入れた。全国ですでに100回以上開催されている。
「夜中のぬいぐるみの様子を撮った写真は強く思い出に残る。子どもに本好きになってほしい、夢をみていてほしいと願う親の思いにも合う」(電通総研ママラボの田中理絵主任研究員)。図書館を舞台にしたぬいぐるみたちの大冒険は、お金では買えない最高のエンターテインメントだ。
(高橋徹)
[日経MJ2013年6月5日付]
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