3連覇支えた「適正戦力」 鹿島強化部長 鈴木満(上)
「チームを強くするには、あえて選手をとらないという判断が必要なときもある」のだと、Jリーグ鹿島アントラーズの強化部長、鈴木満(53)は言う。今季、補強したばかりのCB李正秀が、7月、カタールのクラブに引き抜かれた。純粋に戦力のことだけを考えれば、再び韓国代表クラスのCBを獲得する手もあった。だが、鈴木は「とらない」判断を下した。
補強策、選手の心を重視
再度補強した場合、伊野波雅彦や若いCBは、どう感じるだろう。そこに思いを巡らせた。「残っているCBの心理面を考えると、補強しないほうがプラスになる。再びチャンスを得て高まった伊野波の闘志を生かしたほうがいい」。ここで補強したら伊野波らを"殺す"ことになりかねないという思いもあった。
鈴木はよく「適正戦力」という言葉を使う。戦力は厚ければいいというわけではないと言い、「厚すぎず、薄すぎず」を心掛ける。
「日本代表クラスの選手がベンチに座るようなことがあってはいけない。不満分子になりますからね」
1996年に現職に就いて以来、14年にわたってチーム編成に携わってきた鈴木は適正戦力についての回答を出している。「ベンチに入る力のある選手が18人から20人。いまはベンチに入れないけれど、将来、その力をつけるはずの選手が8人。それが、僕の経験から出した答えです」
だれが試合に出ても、同じ力が出せるという実力者ぞろいのチーム編成は、実は崩壊の危険をはらんでいると考える。「チームに参画できていないと感じている選手を抱えてしまうと、まずい」。選手個々の気持ちの浮沈が組織運営に大きく作用するのがわかっているから、人の心を大切にした補強策に徹する。
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染みついたジーコの教え
鹿島には、選手、監督、テクニカルアドバイザーとして、クラブの礎を築いたジーコの教えが染みわたっている。いわゆるジーコイズムについて鈴木は「結束力と勝利への執着心」と解釈し、その2つをチームに植え付け、守っていくにはどういうチーム編成をすればいいのか、と常に考えている。
能力の高い選手が目に留まる。あるいは監督がある選手の獲得を求めてくる。そこで必ず、その選手の人間性に着目する。基準とするのは協調性だ。「この選手をとると、チームの結束力、勝利へのこだわりが落ちる心配があるなら、どんなに力のある選手でも、とらない」
もちろん監督はできる限り高い戦力を抱えたがり、繰り返し補強を要求する。強化部長の仕事は、監督のサポートという部分が大きい。「でもね、極言すると監督の言うことを聞いてはいけないんですよ。クラブのやり方を通すのが一番。ウチはこういうふうにやってきた、それで結果が出ているんだからいいことじゃないかと監督には言っているんですよ」
昨季、鹿島はJリーグ史上初の3連覇を遂げた。強化部長が選手の心理を読み、組織論的に正しい判断を下し、確固たる哲学をもとにした編成を持続するからチームは安定して力を発揮する。
(敬称略)