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埋もれた名作発掘 電子書籍の定額読み放題

(藤元健太郎)

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アマゾンの電子書籍の定額読み放題サービス「キンドルアンリミテッド」がスタートした。昨年始めた音楽やビデオの配信サービスは「プライム会員」の年会費を払っていれば追加料金なしで使えるが、アンリミテッドは月額980円が必要になる。

しかし、対象書籍はスタート時で和書12万冊、洋書で120万冊が用意され、国内最大の読み放題サービスとなる。通常の書籍だけでなく、コミックや雑誌、写真集なども対象になっていて980円を新たに払うお得感はかなりあると言えるだろう。

インターネット通販と音楽、動画、書籍を同じプラットフォーム上で提供することの優位性はかなり高い。さらに言えばアマゾンはクラウドサービスのAWSが絶好調で、営業利益の半分以上を稼いでいる。電子書籍サービスのみで収益を得なければいけない企業からすると、それだけでもかなり脅威だ。

こうした書籍の定額制サービスは、これまで有料では手にすることのなかった本まで読んでもらえることが期待される。

例えばソーシャルメディアなどで書籍の引用をしてシェアをした時、アマゾンのサービスに加入している人ならみんながすぐにリンク先からその本を読める。書籍コンテンツの共有化が進み、名著や貴重な書籍の知識がより多くの人にシェアされるかもしれない。

ユーチューブの動画がそうであったように、書籍コンテンツの共有も爆発的に広がる可能性を秘めている。昔の埋もれた書籍がソーシャルメディア上で一気に話題になり、ベストセラーになるということも起きるのではないだろうか。

このように共有されて本を知るのは解決策のひとつだが、読み放題だからこそ本をどう選ぶかが難しい。ベストセラーのランキングから選ぶのはこれまでと同じでわかりやすいが、大量の書籍を読むことができる時代には、自分が読むべき本と出会うことの価値がますます重要になる。

アマゾンのサービスでも自分が読みたい書籍を検索で探すのはなかなか大変な作業だ。こうなると書評など第三者のキュレーションの重要性はますます高まると言えるだろう。

ベンチャーの情報工場(東京・港)はベストセラーなどには出てこない書籍を厳選し、ダイジェストを有料配信するサービスで240社8万人の顧客を獲得した。藤井徳久社長は「今後は本を読むということと同様に、本を選ぶことそのものが価値として認識されるようになるのではないか」と語る。

お金を出してでも自分が読むべき本を探すという価値は確実に増えている。本との出会いが新しいビジネスのアイデアを生み出し、生き方の方向性を決めることもある。

しっかり時間をかけて創られた書籍というコンテンツは、ネットに氾濫する1000字程度のブログ的コンテンツや、短文・写真によるリアルタイムコンテンツとはまた違う。それぞれの情報特性による使い分けが進めば、書籍の価値の見直しも進むだろう。電子書籍を書きたいという作家も増えていくことが期待される。

アマゾンがキンドルという電子書籍端末を世の中に出した時もインパクトがあったが、それ以上に書籍というものの流通と読まれ方を劇的に変える可能性が今回の「キンドルアンリミテッド」にはあるのかもしれない。

(D4DR社長)

〔日経MJ2016年8月12日付〕

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