[FT]長く不確定な時代に入った英国
チーフ・エコノミクス・コメンテーター マーティン・ウルフ
英キャメロン首相は大きな賭けに出て、敗れた。人々の恐怖につけ込んだジョンソン前ロンドン市長、ゴーブ司法相、英国独立党(UKIP)のファラージュ党首が勝利した。英国、欧州そして世界は傷付いた。英国は衰え、おそらく国内の分断が続く。欧州連合(EU)は2番目に経済規模が大きく、最も世界に目を向けていた加盟国である英国を失った。
今回の国民投票の結果は英国にとって第2次大戦以来、最も重大な出来事だ。西側諸国がグローバル化から逆回転を始める歴史的な瞬間となるかもしれない。英国は欧州のリーダーになれると信じていた残留派が、失望と恐怖にとらわれた離脱派に敗れた。
投票結果を見ると、世界に開かれたロンドンに対し、地方が反乱を起こしたともいえる。政治的、経済的なエスタブリッシュメント(支配階級)に対する反乱でもあった。一方で、自分たちを経済的敗者と考え、移民流入などの環境変化に怒りを抱いていた人が勝利を手に入れた。
こうした衝撃を受けているのは決して英国だけではない。同じような怒りのうねりは世界の様々な国にも存在している。
米国では不動産王ドナルド・トランプ氏、フランスでは極右政党・国民戦線のルペン党首、ドイツでは民族主義政党「ドイツのための選択肢」が台頭している。ただ、英国が先頭を切って、悲惨な自傷行為に走ってしまった。
今や権力を手にしつつあるジョンソン氏やゴーブ氏らは、これまで自分たちが軽蔑してきた専門家の話に頼らざるをえなくなることは皮肉といえる。
英国は長い不確定な時代の入り口に来た。かなりの確率で国の未来は暗い方向に向かうだろう。保守党は新しい首相を選ぶことになったが、機能する政権を作れるかは別の問題だ。
今後は英国とEUの関係を明らかにする緻密な計画を立てなくてはいけない。新政権やその後の政権が、今後何年にもわたってそのことに労力を消耗することになる。
1つ明らかなのは、英国はEUからの移民流入数を管理できるようになる半面、EUという単一市場へのアクセスを失うことだ。どんなに事態が良い方向に展開しても、サービスを含まない自由貿易協定にこぎ着けられれば御の字だ。
一方、EUはどのように英国と交渉していくか、態度を決めなくてはいけない。英国には厳しい態度になるだろう。自分に対して乱暴な相手に優しく接することなどあるだろうか。
英ポンドは大幅下落した。ポンド安はしばらく続くとみられるため、輸出にはプラスに働く。ただ、経済に活力が無くなることが、どれだけ税収に悪影響を与えるかを地方は思い知ることになるはずだ。
英国経済は再構築を余儀なくされる。英国に拠点を持ちEUに展開する企業は再考を迫られよう。金融街シティーの役割は縮み、生産拠点を英国外に移すメーカーも多いとみられる。欧州の人材を使う企業もEUの単一市場に移ることを望むだろう。
短期的にはそうした決断を企業が下すことは難しい。どんな結果を生むか分からないからだ。この不確定な状態こそが離脱が招く明らかな結果だ。霧は時間がたてば晴れるが、経済力が衰えることは避けられない。離脱は分断を修復しようとする欧州に背を向ける行為だった。私にとって最も悲しい瞬間だ。
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