キヤノンITS、在宅勤務者をカメラで監視
在宅勤務の広がりで専用の情報システムが増えている。キヤノンITソリューションズ(ITS)は2月、社員がパソコンの前にいることをカメラで確認し、勤務時間に反映するシステムを発売する。「そこまでする必要があるのか」との声も上がりそうだが、社内外で浮上した問題が発端だった。
「きちんと仕事をしているか確認ができない」。システムの開発を担当したキヤノンITSの石原保志さん(52)は営業を通じて多くの企業の相談を受けていた。新システムはパソコンに備えたカメラで顔を撮り、顔認証機能で登録した本人の在席と離席を判別する。
同社は在宅勤務など社外で働く「テレワーク」用のシステムを販売してきた。顧客企業には表計算ソフトの使い方が分からずに家族に聞きながら一緒にやっていた例や、勤務時間に対価を払う「時間給」を取り入れている企業では子育てなどで頻繁に離席して決まった勤務時間に仕事をしていない例を問題にする声が出ていた。
シェアオフィスを利用している場合では「他社の人にパソコンをのぞかれていないかが気になる」との話も聞いた。すでにテレワークを取り入れている親会社のキヤノンマーケティングジャパンでも同様の問題を指摘する声があった。
キヤノンITSは今月、テレワークと合わせて新システムを導入した。映像は在席・離席を区別するためだけに使い、システムの管理画面には登録した顔の画像しか表示しない。それでも「男女の別なく拒否感が強かった」(石原氏)。
イグアス(川崎市)は2月からの全面導入に向け、昨年12月に5人に先行導入した。同社はIT(情報技術)サービスのJBCCホールディングスの販売事業子会社で、在宅勤務を前提にしたテレワーカーを採用している。1日5時間勤務で、システムに必要なソフトや機器の発注などを担う。仕事の内容と働いた時間を表計算ソフトに記入してもらっていた。
女性が多く室内が映ることに警戒感が強かったが、矢花達也社長(62)は「できる社員を発掘するためと納得してもらっている」と言う。システムを使うと同じ仕事でも早い人と遅い人がいることが分かった。遅い人には仕事の発注や指示の仕方を見直したりした。
同社のテレワーカーは出社しないため、「働きぶりを直接見られず、目標を適切に設定できているかも分からなかった」(矢花社長)。仕事を評価してもらえる意識が生まれて否定的な印象は減っているという。キヤノンITSは「できる人を評価するシステム」と打ち出すことにした。
結果評価なら離席してもかまわないが、時間給を採る企業は在席してもらわないと困る。結果で評価する人事制度がないと自由な在宅勤務制度は運用しにくいことを裏付けている。
(企業報道部 小河愛実)
[日経産業新聞 2017年1月17日付]