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「もっと企業を」焦る取引所 相次ぎルール緩和

カネ余り時代 企業と市場の溝(中)

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有望企業を誘致しようと、世界の取引所が上場ルールの緩和に走っている。創業者が特殊な株で議決権を多く持っていても取引所が上場を認める事例が目立つ。世界的なカネ余りで企業にとっては資金調達の選択肢が広がっている。取引所はかつてのような地位が揺らいでおり、企業と市場の力関係が企業優位に変わりつつある。

7月9日午前9時30分、香港取引所。中国のスマートフォン(スマホ)最大手、小米(シャオミ)の創業者、雷軍董事長が打ち鳴らしたドラの音色のなかで、小米株の売買が始まった。

実はこの日響いたドラの音色はいつもの新規上場のセレモニーと違っていた。香港取引所がこの日のために準備したこれまでの2倍近い大きさの特大ドラだったのだ。

香港取引所がわざわざドラを新調したのには理由がある。小米は雷氏らが議決権の多い種類株を通じ経営権を握る。香港取引所が4月に種類株上場を認めるルール改正を行ってからの1号案件だったからだ。

香港取引所はもともと種類株上場を認めていなかった。だが14年、馬雲会長らが経営権を握るアリババ集団の誘致競争で米ニューヨーク証券取引所(NYSE)に敗北。もともと香港は地場企業の層が薄い。地盤沈下を恐れた香港取引所は、種類株上場を認める方針に転換、何とか小米の上場誘致に成功した。

種類株は米フェイスブックなど巨大IT企業が発行、創業者が経営権を掌握する。世界の取引所では、4月の香港に続いてシンガポール取引所も6月末に解禁した。

種類株は「オーナー系など経営者の暴走を止められなくなる」(野村資本市場研究所の西山賢吾主任研究員)など企業統治(コーポレートガバナンス)上の課題がある。それでも取引所による種類株解禁が相次ぐ背景には、かつて自国内で独占的な地位を築いていた取引所の立場が揺らいでいることがある。

証券取引所は、会員組織から株式会社や上場会社への移行が進んだ。売買や上場に伴う手数料を増やすことが重要な経営課題となっている。上場企業でもあるシンガポール取引所の株式時価総額はリーマン・ショック前に付けたピークから半減。株主から世界の有力企業を誘致するよう強い圧力を受ける。

新興勢力も台頭する。低コストを武器に世界有数の売買シェアを誇るまでになったバッツ・グローバル取引所や取引所を介さない「ダークプール」などがライバルとなり、収益基盤が揺らぐ。

機関投資家の売買が個別株式からデリバティブ(金融派生商品)や上場投資信託(ETF)に移り、こうした分野で有力商品を持たない取引所は成長が難しくなっている。

企業にとってはもはや上場は資本調達の唯一の選択肢ではない。ファンドからの資本調達はかつてないほど容易だ。米アップルなど有力企業の傘下に入れば、調達だけでなく、人材確保やブランド力の面でも有利となる。さらにNYSEと香港を競わせたアリババのように有力企業は、世界の取引所をてんびんにかけるようになった。

有望な上場企業が誘致できなければ、市場全体の魅力が低下しかねない。一方、規律を緩めすぎればいつまた不祥事が起こるともわからない。企業優位時代の取引所は頭を悩ませている。

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