[FT]スペイン、カタルーニャ独立の愚(社説)
歴史の分け目となる総選挙を来月に控えたスペインが、分離独立の手続き開始を宣言するカタルーニャ州議会の決議に激しく揺れている。深刻な経済危機から立ち直り始め、やっと政治と社会制度の刷新をめぐる議論に取りかかったスペインにとって、一つの国としての存亡にかかる憲法上の危機などおよそ望ましくない事態だ。
この3年間、繁栄の中で分離独立の機運を高める北東部カタルーニャ州とスペイン政府の対立は先鋭化した。背景には、経済危機に加え、右派の国民党政権がカタルーニャの自治拡大をめぐる協議を拒否したことがある。カタルーニャの州都バルセロナでは大規模な抗議行動と象徴的な挑発が繰り返され、スペイン政府は暗黙の脅しで応じてきた。それはうわべだけの戦争だったが、本物の衝突に発展する恐れが出てきた。
今週の州議会決議により、カタルーニャは共和国としての独立に進み始め、議会が30日以内に想定される新国家の2つの柱──税と福祉の国家機構──を法制化する。この決議は、スペイン憲法裁判所の決定に「合法性がない」ため無視するとしている。
この決議の表向きの原動力になったのは、中道右派のナショナリストと中道左派の共和主義者による独立推進の連合「ジュンツ・ペル・シ(みんなでイエス)」だ。この連合は9月の州議会選で135議席中62議席を獲得し第1党となった。議会で過半数を握るために、同連合は10議席を得た急進左派の独立推進グループと合流し、州議会選挙の結果を住民投票による独立賛成さながらにアピールした。しかし実際には、このグループの得票率は47.7%で過半には達していなかった。この水準では道義的に、スペインからの独立を正当化することはとてもできない──たとえスペイン憲法には独立に関する規定がなかろうとも。
スペイン首相で国民党党首のラホイ氏は、自治拡大をめぐる協議を拒んだことで、カタルーニャの政治的挑戦を憲法に関わる難局に発展させてしまった。しかし、カタルーニャ州首相のマス氏も自らの政治的挑戦に失策を重ねている。
分離独立の機運を受けてマス氏は当初、独立運動の主導権を左派のライバル政党、カタルーニャ左翼共和党に託したが、現在はジュンツ・ペル・シに尻尾を振る極左の人民連合に委ねている。このような左派勢力に決議案のまとめを許したことに、マス氏がいかに統制力を失っているかが表れている。しかも左派勢力はマス氏の再選への協力をなお拒否している。マス氏の立場は公共事業をめぐる汚職疑惑でさらに悪くなっている。このような状況の中でマス氏が率いるカタルーニャ州の与党は、ヤミ献金疑惑で捜査を受けている国政与党の国民党と同様の腐敗ぶりに映る。
政治的解決を要する危機
ラホイ氏は11日、カタルーニャ州の議会と政府を憲法裁判所に提訴した。しかし、これは政治的な解決を要する危機だ。憲法はスペインの民主体制に大きく役立ってきたが、今のスペインに必要なのは、より明確な連邦主義に沿って改革されてダイナミックに変化する国に資する生きた憲法である。
本紙はスコットランドの分離独立に反対した。スペインの分裂も同等に望ましくないと考える。スペインにもカタルーニャにも壊滅的な経済的影響が及び、政治と司法に重大な不確実性を引き起こし、双方の財政力に対する疑念を呼ぶことになる。スペイン政府はカタルーニャの反抗に過剰反応してはならない。しかし今、重大な危機を引き起こす道から引き下がらなければならないのは、一にも二にもカタルーニャの側だ。
(2015年11月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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