「ガラスの天井」破った米大手企業の女性幹部
Wの未来 世界を動かす(2)
オバマ政権下の軍事予算削減で揺れる米国の防衛産業。重厚長大の代表格で「男の牙城」だったこの業界で、女性登用が瞬く間に進んでいる。
■軍事大手幹部に
ロッキード・マーチンで1月、女性初の最高経営責任者(CEO)にマリリン・ヒューソン(59)が就任。ゼネラル・ダイナミックス、BAEシステムズ米国法人を合わせ米防衛大手3社のトップに女性が並んだ。
女性の昇進を阻む見えない障壁「ガラスの天井」を突き破った女性たちはさらに続く。ロッキードは最大事業の最新鋭ステルス戦闘機F35担当副社長に女性のロレーン・マーチン(50)を起用。1月に事業運営全般を統括する副社長にリンダ・ミルズ(63)を据えたノースロップ・グラマンは幹部の半数が女性だ。
軍事予算削減の非常時だからこそのイメージ先行ともとれるが、ミルズは「様々な人材が新たな価値を生み出すことはデータが裏付けている」と女性登用は経営戦略の一つと強調する。
実際、経営陣に女性がいる企業の業績はいいとの調査は多い。例えばクレディ・スイスが昨年発表した調査では、女性取締役がいる世界の企業の過去6年間の株価は、同規模の男性のみの企業より26%高かった。多様な人材効果などが影響したと分析する。
ペプシコ、ヒューレット・パッカード、IBM、ヤフー……。世界的な米大手企業で女性トップが目に付くようになった。とはいえ米主要企業「フォーチュン500」社のうち女性が経営する企業は21社。過去最高だが4%にすぎない。地位ではガラスの天井を破っても試練がつきまとい、一挙手一投足が注目される。
妊娠中にヤフーCEOに就き、2週間の産休後に復帰したマリッサ・メイヤー(37)。2月に在宅勤務廃止を打ち出すと、働く母親らの反感を買った。同時期に同じ方針を発表した家電量販大手の男性CEOは話題にならなかった。
3月、フェイスブック最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグ(43)の著書「リーン・イン(一歩前へ)」が大論争を呼んだ。女性は社会や制度の影響もあって昇進を自制しているとの指摘に「背中を押された」との賛同の一方、30億円近い彼女の年収などを挙げて「一般女性とはかけ離れた立場での意見だ」と批判も上がった。
■理想像の呪縛
女性学研究で知られるバーナード・カレッジ学長のデボラ・スパーは、社会は女性経営者に男性以上の資質を求め「スーパーウーマン」像を押しつけていると指摘。「スティーブ・ジョブズ(前アップルCEO)の父親ぶりは問われないが、女性は仕事に加え、良妻賢母ぶり、果ては外見まで評価される」
ハーバード経営大学院の研究者らの昨年の調査では、各国企業の男性役員の90%が既婚だったが、女性は72%。子供がいる役員は男性で90%、女性は64%にとどまった。
スパーは、全てを手にしたかのようなメイヤーらも含め「何も引き換えにせずにトップの地位についた女性はいない」と言い切る。日本より登用の進む米国だが、経営手腕が公平に評価され、スーパーウーマンの呪縛から解き放たれてこそ、企業の未来も広がる。=敬称略
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