中国の格安EVが日本市場を調査 巡回介護車などに用途
ASIA TECH
中国の自動車メーカー、上汽通用五菱汽車が日本市場の調査を始めた。来春までに、格安電気自動車(EV)「宏光MINI EV」の対日輸出の準備を整える。このEVは中国の地方都市・農村で「代歩車(足代わりの車)」として大ヒットしたが、日本ではその手軽さが別の用途を生む可能性がある。
「日本製の小型車の半分以下の価格で提供できる」。アパテックモーターズ(東京・品川)の孫峰・代表取締役は18日、物流大手が都内で開いたイベントで、宏光MINI EVの価格競争力を訴えた。
アパテックは今年3月、上汽通用五菱から日本市場の調査を受託し、需要動向を探ってきた。この日のイベントでは、個人の運送事業者らから「日本でも家庭用電源で充電できるのか」「メンテナンス体制は」などの質問が寄せられた。
この車種は2020年7月に発売され、中国市場では9月まで25か月連続で販売台数が最も多い中国ブランドのEVだ。日本の軽自動車に近い大きさの4人乗りで、ブレーキの簡素化などで低価格を実現した。欧州などへの輸出実績があり、日本では円安の逆風下ながら1台65万円からという安値を予定している。
中国EVの日本参入は数年前からバスやトラックで相次ぎ、23年1月には比亜迪(BYD)が多目的スポーツ車(SUV)を発売する。これらは通常の商用車や乗用車の置き換え需要が狙いだが、孫氏は「宏光MINI EVには全く別の引き合いがある」と語る。
半年ほどの市場調査では、例えば地方の不動産会社から「宏光MINI EVを社員に1台ずつ無償で配る」とのアイデアが挙がったという。社員に通勤費を払ったうえで営業車も用意するなら、いっそのこと贈与した方がコストが安いという判断のようだ。
高齢者の訪問介護や通所介護(デイサービス)に使う巡回車にちょうどいいとの声も出ている。宏光MINI EVの廉価版は航続距離が120キロしかないが、都市部で短距離を巡回する分には全く問題がない。
こうした用途は「超小型モビリティー」と呼ばれる乗り物に近い。1~2人乗りで環境負荷が小さい小型EVを指し、トヨタ自動車などが専用車を開発済みだ。上汽通用五菱は低価格や中国で累計90万台近く売れた実績をテコに需要を探る。
すでに日本で型式認証の取得手続きに入っており、23年春には公道で走れるようになる見通し。メンテナンス網の整備などの課題はあるものの、日本の車社会のあり方に一石を投じる存在となる可能性がある。
(アジアテック担当部長 山田周平)
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