京都・佐々木酒造 洛中唯一の酒蔵、名水を生かす
京都の酒どころといえば伏見だが、古くは洛中も日本有数の酒どころだったという。世界遺産・二条城から北に歩いて15分、ひっそりとした通りの一角にある佐々木酒造(京都市)は明治の創業以来、洛中で酒造りを続けている唯一の酒蔵として知られる。市中に流れる名水が洛中ならではの風味を生んでいる。
もうすぐ日本酒の仕込みが終わるという3月上旬、午前7時に訪れると建物からは白煙がのぼり甘い香りが漂ってきた。「このあたりは水がよくて豆腐づくりや染めものが盛ん。お茶の家元も並んでいます」。酒蔵見学の一行に加わると、蔵人の疋田泰秀さんが説明してくれた。
仕込み水として使う「銀名水」は巨大な水がめと形容される京都水盆から湧き出る地下水だ。かつて同地に邸宅を置いた豊臣秀吉や茶人の千利休も愛した。銀名水をくみあげている同社の井戸は、枯れることはあっても数日後には湧いてくるという。
4代目の佐々木晃社長は「軟水だけれどべたべたしすぎない。ほどよいミネラルが含まれている」と話す。酵母が発酵しすぎず、かといって他に添加物を加える必要もない。「聚楽第」をはじめとした銘柄はスッキリした味わいが印象的だ。
2010年に社長に就いたときは年によって風味にばらつきがあるといった技術力の課題を感じていた。「もっとおいしいお酒を」と頭を悩ませていた折、技術指導を請うていた元国税庁職員の専門家に水分管理を徹底するようにアドバイスを受けた。
成果は顕著に出た。蒸米を持ち上げるクレーンにはかりが付いており水分量は一目瞭然。水分含有率を理想とされる30%前後に保ち品質が安定した。それまでの10年間は品評会の金賞から遠ざかっていたが、その後10年間では6回金賞に輝いた。
「洛中伝承」を掲げているが市街地に酒どころのイメージはない。そう思いながら組合の資料をみせてもらうと、同社が創業した1893年には131軒の蔵元が点在していた。もっとさかのぼれば室町時代には300軒以上あったというから驚きだ。
450坪(約1500平方メートル)の敷地は土地が限られている洛中だけに狭いが、小規模だからこその利点もある。一般に使われるタンクは5トンが多いが、同社は1.2トンのタンクを使用する。容量が小さくなるほど温度管理がしやすく品質にムラがなくなるという。
数年前からは「洛中酒蔵ツーリズム」を催す。京都御苑や二条城など近辺の名所を回りながら酒どころとしての歴史や酒蔵見学を楽しんでもらう。地の利もありインバウンド(訪日外国人)の申し込みも多い。
佐々木社長は「日本一恵まれたロケーション」と胸をはる。品質には自信があるだけに、洋菓子など他社とのコラボに積極的だ。レモンやゆずのリキュールの販売も始めた。幅広い層の取り込みをはかりながら、洛中ブランドを守り続ける。
(京都支社 村上由樹)
[日本経済新聞電子版 2023年3月23日付]
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