サービス価格、企業向けで転嫁先行 消費者向けと差拡大
サービス価格の上昇が企業向けで先行する状況が続いている。日銀が25日に発表した11月の企業向けサービス価格指数(速報値、2020年平均=100)は前年同月比3.0%上昇し、伸び率が8月以来の高水準となった。あらゆる業種で人件費の転嫁が進み、上昇率は高い水準になっている。
一方で、消費者向けサービスの価格上昇は緩やかだ。総務省が公表した11月の消費者物価指数(CPI)ではサービスの上昇率は前年同月比1.5%で、日銀統計の企業向けと比べて伸び幅が小さい。
11月の企業向けサービス価格指数のうち、振れ幅の大きい国際運輸を除いた指数は3.1%上がり、消費者向けよりも1.6ポイント高い。24年4月ごろから企業向けと消費者向けのサービスで人件費を価格に転嫁する度合いの差は開き続けている。
背景には、企業向けサービスが寡占状態にあることが多く、消費者向けよりも価格転嫁しやすい傾向がある。大和総研が経済産業研究所のデータをもとに非製造業の寡占度合いを試算したところ、企業向けは家計向けのおよそ2倍だった。
家計向けのサービス業では消費者の根強い節約志向により価格を上げづらい。外食などでは少しでも値上げをすれば、消費者が他の店に流れる可能性があり、値上げを踏みとどまるケースが考えられる。
企業向けのサービス業は競合相手が少なく、取引関係も安定しているため、人件費を転嫁しても受け入れられやすい。
CPIのサービスの上昇率は23年7月から2%台だったが、24年4月以降は1%台で推移しており、価格転嫁が進む品目は広がっていない。SMBC日興証券の試算によると前年同月比2%超の品目は11月時点で21.9%と、2月の34.6%から低下した。
日銀は2%の物価目標を掲げている。足元の消費者向けサービス価格の動向について、SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「輸入物価の上昇が一服しても、1%台で推移しているのは過去に比べて高水準」とみる。「企業向けと比べて価格転嫁に時間がかかるのは仕方がない」と指摘する。
価格転嫁が遅れている消費者向けだが、日銀関係者は「いずれは波及していく」との見方を示している。人件費比率が高いサービス分野の価格動向は賃金と物価の好循環を確認するうえで一層重要な要素となる。
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