近畿大学、ウナギの完全養殖に成功 持続可能な生産へ
近畿大学水産研究所(和歌山県白浜町)は26日、ウナギの完全養殖に成功したと発表した。卵から人の手で育てた稚魚を親にし、その親からとれた卵をふ化させた。ウナギ養殖に必要な稚魚のシラスウナギは天然の資源量が減っている。完全養殖が実用化できれば安定供給しやすくなり、資源保護にもつながる。
2010年に世界で初めて完全養殖に成功した水産総合研究センター(現水産研究・教育機構)の飼育技術を活用した。記者会見した近大の田中秀樹教授は、「ウナギを安くするのではなく、持続可能なウナギ養殖を実現することに意義がある」と話す。
ニホンウナギは太平洋のマリアナ諸島付近で産卵し、ふ化後は幼生からシラスウナギに成長しながら日本に泳ぎ着く。シラスウナギの漁獲量は1960年代に年間200トンを超える年もあったが、80年代には20〜40トン程度に減少。2019年は3.7トンまで落ち込んだ。
日本のウナギ養殖は全て天然物のシラスウナギを使っており、漁獲量の減少がウナギ高騰を招いている。漁獲量減少は乱獲や生息環境の悪化が原因とみられている。天然に依存しないシラスウナギの確保が課題となっている。
田中教授は、浦神実験場(同那智勝浦町)で、卵から人の手で育てた稚魚を親にし、その親からとれた卵をふ化させた。3〜6カ月後には養殖に必要なシラスウナギにまで成長し、約1年後には食用のサイズになるとみている。
ウナギの完全養殖では、卵からシラスウナギまで育てるのが最も難しいとされる。現段階では小型の水槽でしか育てられず、大量生産できるめどは立っていないという。同研究所は、飼料の改良などを進め、シラスウナギの安定生産を目指す。升間主計所長は「革新的な技術を作っていきたい」と話した。
完全養殖は水産研究・教育機構が10年に世界で初めて成功した。だが、水産庁によると同機構が中心となって進めている人工シラスウナギの生産コストは1尾約3000円で、天然の取引価格180〜600円に比べると割高だ。採算が取れるよう安定的に生産するのは難しい。
ウナギは世界的に減っていて、すみかとなる自然の河川の減少や乱獲、海洋環境の変化などが原因とされている。ヨーロッパウナギは07年にワシントン条約の付属書に掲載され、09年から貿易取引が制限された。ニホンウナギやアメリカウナギは14年、国際自然保護連合(IUCN)から絶滅危惧種に指定された。