旧統一教会「献金の返還求めず」念書は無効 最高裁初判断
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側の違法な勧誘で献金被害に遭ったとして、元信者の遺族が教団側に約6500万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(堺徹裁判長)は11日、元信者が署名押印した「返金や賠償を求めない」との念書を「無効」と判断した。
教団の献金勧誘を巡る最高裁の判断は初めて。元信者らの救済につながる司法判断といえる。同様の念書を交わしたケースは多数あるとされ、教団に対して被害回復を求める訴訟が増える可能性がある。
同小法廷は原告側敗訴とした二審・東京高裁判決を破棄。教団側の献金勧誘を巡る違法性や賠償責任の有無を判断するため審理を同高裁に差し戻した。訴訟を起こさないという合意の有効性や勧誘行為の違法性についての判断枠組みを初めて明示した。
上告審では念書の有効性と信者による献金勧誘の違法性の2点が争われた。判決は念書について、元信者が教団の心理的な影響の下にあり、半年後には認知症と診断された点を踏まえ「冷静な判断が困難な状態だった」と指摘。公序良俗に反し無効とした。
勧誘行為を巡っては、献金総額が1億円を超えるなど「態様は異例で生活の維持に無視しがたい影響を及ぼす程度だった」とした。一方、「社会通念上相当な範囲を逸脱するかどうか多角的な観点から慎重な判断を要する」と高裁での検討を求めた。
教団側は判決を受け「これまでの地裁・高裁が事実と証拠に基づき出した判決が差し戻しという結果になったことは残念。主張の正しさを差し戻し審でも主張していく」とのコメントを出した。
一、二審判決によると、原告女性の母親は教団の信者だった2005〜10年ごろ、寝たきりだった夫の財産など計約1億円を献金した。15年に「献金は自身の意思で行ったもので返金や賠償を求めない」とした教団宛ての念書に署名押印。その半年後に認知症と診断され、21年に亡くなった。
原告側は念書作成時に母親は認知症だった可能性が高く、署名押印を拒否できない心理状況だったとして無効と訴えた。勧誘も「組織的に恐怖をあおって多額の金銭を寄付させた」として違法だと主張した。
教団側は念書は母親が自らの意思で署名押印したもので有効だと反論。勧誘の違法性を裏付ける証拠は一切ないとして上告棄却を求めた。
21年の一審・東京地裁判決は念書は有効で教団に対する訴訟は起こせないと判断。信者の献金勧誘も違法とまではいえないとして女性側の請求を全面的に退けた。22年の二審判決も支持した。
教団を巡っては、政府が23年10月、宗教法人法に基づき、東京地裁に教団の解散命令を請求した。現在も非公開で審理が続いている。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、文部科学省は東京地裁に解散命令を請求しました。安倍晋三元首相銃撃事件をきっかけに高額献金などの問題が改めて注目され、文化庁は2022年11月から宗教法人法に基づく質問権を7回行使。170人を超える被害者らへの聞き取りも進め、解散命令請求の要件を満たすと結論づけました。教団側は全面的に争う方針を示しており、司法判断の確定には長期を要するとみられます。