森 政稔 一九九二年に社会思想史教室(当時)の助教授として着任した私は、当初駒場キャンパスにはあまり馴染めなかった。その前に筑波大学の広大なキャンパスにいたこともあって、駒場キャンパスの狭さを窮屈に感じた。それに着任時に入った研究室の机や椅子の並びは私にとって使いにくいもので、いつか並び替えようと切に思っていたのだが、そのまま書類が蓄積して容易に動かせなくなってしまった。こんなに長くいることになるとは当時考えなかったのだが、研究室内の配置さえ変えないうちに退職の日が近づいてきた。 そんな調子だから、私の駒場での生活は基本無為のままに過ぎていった気がする。研究でもしたいことはいっぱいあったはずだが、実現したのはわずかだった。現代社会に生きる基本的な能力(語学、IT、行政能力)に欠ける私は、幸運にも学内の要職や面倒な任務に当たらずに過ごしてきた。優秀なゆえに貴重な研究の時間を学内の仕事に費やし