大学ではラテン語(初級)と古典ギリシャ語(初級・上級)を学びました。ですのでこの2つに絞って比較をします。
学びやすさでいったら断然ラテン語でしょう。ギリシャ語は文字が違うのでとっつきにくく、覚えるだけで数週間~数ヶ月要します。学習者が最初に挫折するのはこの文字だといわれています。
それに対しラテン語はアルファベットで(そもそも現代のアルファベットの原形ですし)、読みもcやvを除けばほとんどローマ字読み(これも名前がローマですし)で簡単です。ラテン語では母音の長短はアルファベット上に表記はされていませんが(/a:/も/a/もaで表す)、学習者向けであれば長母音には上に-がついているので問題ありません。
文法はどちらも難しいです。名詞の性、動詞の人称変化はスペイン語などのイタリック語派を学ばれた方なら問題ないかと。逆にそういった概念がない言語しかやってないと、そこでつまづくかも。
動詞の活用はギリシャ語の方が多く、また加音(語頭にeなどの文字を加える)や畳音(語頭の文字を反復)といった見慣れない変化があります。時制はギリシャ語はラテン語より多く、また「中動態」というほかで見ない態もあるので、不定形や分詞も含めると活用は280以上にも及び、覚えるのは骨が折れます。ただ、活用の種類としては基本形1つを覚えておけばいいので、ラテン語みたいに何活用か(-are活用、-ere活用など語尾変化がびみょうに異なる)を識別しなくて済む点は楽です。
ラテン語は活用の種類はギリシャ語より少ないのですが、語尾の母音により活用が5種類あり、それを全て覚えなければいけません。作文で動詞を活用させる際も、何活用かが分からないと正しい形が導きだせません。
動詞の分詞の使用法、複雑な接続法の使い分けなど、現代語にはないような概念もたくさん出てくるので、文法が苦手だと古典語はつらいです。文法を捉える語学力と、新しい概念に適応する柔軟性の2つが要求されるのではないかと。
ラテン語と古典ギリシャ語の大きな違いは、冠詞の有無です。
ラテン語には冠詞が存在しません。ですので、例えば「プラトーンはソークラテスの本を買った」は英語で書くなら
Platon Socrates' books bought.
みたいな文になっています。("books"は対格になる)
一方ギリシャ語は、ほとんどの名詞(人名含む)に冠詞がつくので、
The Platon the Socrates' the books bought.
みたいな文です。
冠詞は古典語だと代名詞と同じだけ(性数格)変化して覚えるのが大変なので、その手間が省けていい、という利点はあります。逆に、冠詞があれば修飾する名詞と格などを一致させるということを利用して、非修飾名詞の格などを見破るのに役立てることもできます。
ただ、ラテン語やギリシャ語は語順が柔軟なので、SVOだけでなくSOV, OSV、形容詞も修飾する語から離れた位置にあったりして修飾関係が分かりにくいこともあります。その場合、冠詞によって修飾関係が特定できることもあります。
このへんは文法の難しさというより好みの問題かもしれません。私は冠詞のないラテン語にはなじめませんでしたので。
「英語学や言語学に関係しているか」という点で見たら、断然ラテン語です。
英語の単語は5割以上がラテンorフランス語起源と言われているので、学習すれば絶対見覚えのある単語が出てきます。一方、ギリシャ起源の語も多いですがラテン語ほどではありません。それに、ギリシャ語の単語は英語に借入するときにどういうわけかラテン語を通すので、ラテン語の知識はあるにこしたことはないです。
中世ではラテン語がリンガフランカだったので、古い文献を読むとよく出てきます。vice versaのように言い回しとして定着したものもあります。ギリシャ語はまず見かけません。
俗物的な発想ですが、ほかの人に「~語をやった」と話題にするならラテン語の方が反応がよさそうな気がします。やはり権威のある言語ですし、学習者もこちらのが多いので話が合う確率が高い。マイナーな言語をやっても周囲はわかってくれません。おそらく、サンスクリットやヘブライをやっても「すごいねー」の一言で流されてしまいでしょう。
古典語は予習・復習がかかせません。上記のように文法構造が難解ですが、授業は週1~2回のところが多く、また1年間で無理やり文法をつめこむので、授業だけで理解するのは不可能です。授業外で地道に努力をしなければ単位取得すら難しいでしょう。活用表やグロッサリーを引く根気も必要です。(とくにギリシャ語)
やる気になっているところ水を差すようで悪いのですが、研究者にでもならない限り古典語は将来に役に立たないのでは、という気がします。ラテン語なら英語とつながりがあるし、ポピュラーなのでいいかもしれませんが。もし”飾り”のためというなら、卒論や就活(教職の人は教育実習も)に追われる4年生で取るにはリスクが大きいかと。
とはいえ、こんな「一見ムダなこと」に時間を割けるのも大学時代だけですし、言語学がお好きなら、古典語の複雑な文法と派手な活用は、ハマればたいそう魅力的に映ると思いますよ。(私もその魅力に取り付かれたひとりです)
お礼
ご回答、ありがとうございました。「世界三大難解言語」というのは恥ずかしながら初めて知りました。確かにギリシャ語やサンスクリット語を勉強した後なら、その他の言語は勉強しやすいように見えるかもしれないですね。ラテン語はギリシャ語に比べて独学しやすいというのもよく分かりました。 「サンスクリット語はギリシャ語よりも完全で、ラテン語よりも豊富で精巧な構造を持っている」と言われるらしく、ギリシャ語の難しさを改めて聞いて、さらにギリシャ語やサンスクリット語への興味が高まりました。 大変貴重な先輩のアドバイス、とても参考になりました。本当にありがとうございました。