大幅なアップデートを遂げた、神はサイコロを振らない ── 最新シングルとライヴを通じて、その理由を探る
ロック・バンド、神はサイコロを振らない(以下、神サイ)。2022年3月にメジャー・ファースト・フル・アルバム『事象の地平線』をリリースし、同年6月にはラッパー、Rin音とのコラボ曲「六畳の電波塔」を発表。7月には最新シングルとなる「カラー・リリィの恋文」も配信された。同曲は、TVアニメーション『アオアシ』第2クールのエンディングテーマへの書き下ろしとなっており、ヒロインの気持ちを丁寧に汲み取ったピュアな歌詞と、神サイ史上最も爽やかなサウンドメイクが相まって、純度の高い1曲に仕上がっている。楽曲リリースだけでなく、ライヴもコンスタントに開催しており、今年7月には全国13都市14公演からなるワンマンツアーを完走。来年2023年1月からは、全国5都市をまわるZeppツアーを開催予定だ。立ち止まらず、ひたすら前へ進み続けているメンバー4人に、最新シングルの制作過程にくわえ、完走した全国ツアーの感想、さらに出演する夏フェスとZeppツアーへの意気込みについて、たっぷりときいた。
神サイ史上最も爽やかな新作はこちら
INTERVIEW : 神はサイコロを振らない
かつての神サイは、内省的で一匹狼のような存在だった。自責の念や世の中に対するフラストレーションを歌い、孤独を叫ぶように楽器を鳴らしていた。それから数年が経ち、現在の神サイは、愛を歌い、平和を願うロックバンドになっている。閉鎖的だった世界観は開放的になり、様々なジャンルを自分たちらしい音へと変換するという、新たなロックバンド像を更新しているのだ。数年前の暗闇で光っていた孤高な彼らとはまた一味違う、多幸感や孤独感をともに共有しているような感覚になる楽曲が増えたように思う。今回は、最新シングル「カラー・リリィの恋文」とライヴパフォーマンスの話を通して、過去と現在、そして少し先の神サイを探る。
インタヴュー : 梶野有希
写真:Viola Kam(ライヴ写真)
エンディング映像も含め、全てにグッときました
──シングル「カラー・リリィの恋文」は、NHK Eテレ TVアニメーション『アオアシ』第2クールのエンディングテーマですが、書き下ろしが決まったときの心境を教えてください。
黒川亮介(Dr)(以下、黒川) :書き下ろしが決まる前から、漫画で『アオアシ』を読んでいたのですごく嬉しかったです。中高生も観てくれていると思うし、若い人たちにも共感してもらえたらいいなと思っています。
吉田喜一(Gt)(以下、吉田) :僕も原作を全巻持っていたのでやっぱり嬉しかったですね。『アオアシ』はサッカーを題材にした作品なんですけど、僕も高校生までサッカーをやっていたので自分にも透過しやすい題材でした。
──実際にテレビで拝見しました?
柳田周作(Vo / Gt)(以下、柳田) :ツアー中に放送がはじまったので、ツアー先では毎回みんなで観てました。名古屋と大阪公演の時は、ホテルに前乗りして、リアタイした後にSNSで盛り上がったりもして。この曲はヒロインの一条 花ちゃんの気持ちを歌詞にしているので、花ちゃんが街を歩いているエンディング映像も含め、全てにグッときましたね。
──監督のさとう陽さんから、事前にイメージ共有はありましたか? こういう曲にしてほしいとか。
柳田 : 花ちゃんの心情からのアプローチで描いてほしい、というアニメサイドからのリクエストはありました。なので、4つ打ちで、踊ろうと思えば踊れるくらいの楽曲にしよう、みたいなイメージは僕のなかで最初にありましたね。
──となると、タイアップとはいえど制作の幅がとても広いですよね。神サイらしさを取り入れるために、どういったアプローチを?
吉田:活動初期の頃にやっていたポストロックっぽいエッセンスについて、アレンジャーのトオミヨウさんと柳田が当初から話していて。そこの煮詰めかたとかフレーズの当て方は神サイらしさに繋がっているかなと思います。インディーズの頃にやっていたニュアンスとかフレーズ感をトオミさんがすごく落としこんでくれました。
──今作は「エフェクターやモジュレーションなどを多用した」とのことですが、それもトオミさんの影響でしょうか。
柳田:アレンジに関しては、すごく大きいと思います。Hikari Instruments Monosというガジェット系のシンセを使っているんですけど、つまみを捻るとコンピューターの鳴き声というか、発信機っぽい音がするもので。トオミさんはこの音をデモの段階から入れていたりと抜群なセンスを持っている方なので、一緒に制作させていただけたことはすごくいい刺激になりました。アコギの使い方もすごく綺麗ですし。
──ユニークなアレンジが活きている2サビ前の間奏、本当に素晴らしかったです。Aメロもアコギがいいアクセントになっていますね。
柳田:あと実は2サビ前の間奏もアコギがいい隠し味になっているんです。最初のワンストロークとかリフにもアコギが重なっていたりして。そのアコギのストロークがあるかないかで、全然違うんですよね。Aメロは僕がスタジオで弾いたアコギの音を使っているけど、2サビ前の間奏はトオミさんが弾いてくれた音を使っているんです。エド・シーランがデモ制作に使っていたりするSM7Bというマイクがあるんですけど、トオミさんはそれをあえてアコギ用に使っていて。その音がとにかく良かったし、もう越えられないと思って、2サビ前の間奏はトオミさんが弾いてくださった音を使わせてほしいとお願いしました。
──吉田さんのエレキギターも存在感はありつつ、耳馴染みがすごくよかったです。
吉田:がっつりユニゾンしていたりするんですけど、邪魔ではないし、めちゃくちゃ心地いいところにいますよね。
柳田:ミックスの感じを聴いても、既存曲からはいい意味で浮いているというか。ギターはめっちゃ動いているけど、全体をいい具合に調和してくれているし。トオミさんのエフェクターの使い方がすごすぎて、煌びやかなのに痛くない、優しいギターになってます。