資産寿命を延ばすなら 貯蓄の取り崩しは定率か定額か
1億円達成の黄金律(13)
定率と定額、2つの方法
資産の取り崩し方には大きく2つの方法がある。①「〇%」というように、資産に一定割合を乗じた金額ずつを取り崩す「定率取り崩し」②「毎月〇万円」と、一定金額ずつ取り崩す「定額取り崩し」――だ。①の定率取り崩しと似ているパターンとして、あらかじめ決めた投信などの口数を取り崩していく「定口数取り崩し」もある。
詳しく見ていこう。例えば定率取り崩しの場合、総資産が1000万円ある場合、年4%で取り崩すのなら初年は年40万円、翌年は総資産960万円(時価変動がない場合)の4%の38万4000円を引き出すことになる。
この方法の最大のメリットは、総資産額の減り方が安定的であることだ。特に運用しながら資産を取り崩す場合、相場環境に応じて取り崩す資産額は変化する。資産の時価が上がった時は取り崩す金額が増え、逆に資産の時価が下がった時は取り崩す金額が少なくなる。その分、資産寿命は長くなる。
その模様をファイナンシャルプランナーの横田健一さんが試算したのが下図のうち、上のグラフだ(配当は再投資しない)。
20年の運用期間中の平均リターンを4%とし、その間、資産を毎月8%ずつ取り崩すと仮定。その場合、運用残高がどのように変化するかを、5つのシナリオに分けて示している。
シナリオAは、20年間、一貫して上昇相場の中で取り崩した場合だ。一方、運用期間20年の中盤まで相場が上昇し、その後下落するのがシナリオB。シナリオCはその逆で、中盤まで下落局面だが、後半以降上昇する。
そしてシナリオDは、相場の上昇ピークが運用期間の前半に訪れ、終盤以降は下落する。反対にシナリオEは、前半は下落局面だが、後半以降、相場のピークを迎える。グラフを見ると、運用期間中こそ残高はシナリオによって大きく変動するが、最終的な到達点は変わらない。相場環境に応じて、取り崩し額が調整されるからだ。
一方の定額取り崩しはどうか。上図の2つ目のグラフが、定額取り崩しの残高推移だ。運用環境に関係なく、毎月同じ額を取り崩すため、運用成果が悪化した場合、資産が減る度合いは大きくなる。そのため、シナリオによっては元本割れするケースが出る。
こう見ると、定率取り崩しの方が資産寿命を延ばすという観点からは、見通しも立てやすく圧倒的に有利だ。だがデメリットもある。
変動する分、受取額も
ここからは取り崩して受け取る額について見てみた。定率取り崩しの場合は、引き出し額が変わると先に述べた。そこに運用成果を加味した引き出し額がどう推移するかを示したのが下のグラフだ。
運用によって総資産額が変動する分、取り崩す額が大きく変化するのが分かる。シナリオDのように、年間の取り崩し額に100万円近い差が出てしまうケースもあるほどだ。これでは毎月のやり繰りにも大きな支障が出てしまうだろう。
つまり、資産が安定的に減る方を優先したいなら定率取り崩しが、毎月の受け取り額が一定であるのを望むなら定額取り崩しが好ましいということになる。
ファイナンシャルプランナーの深野康彦さんは、「取り崩しの方法は、できればシンプルで続けやすいスタイルを選びたい」と話す。また横田さんは「資産の減り方に注意するのも大事だが、老後の生活費を補完するという意味では受取額を一定の水準に保つのも見逃せない」と話す。総資産額の減り方も安定的、受け取る額も安定的という「いいとこ取り」の取り崩し法はないものか。
次回は、それを実現するために横田さんが考えた「プール口座」を介する取り崩し法を解説する。
ウェルスペント代表。大手証券会社勤務を経て2018年にファイナンシャルプランナーとして独立。データに基づくアドバイスに定評。24年9月に始まった「ファイナンシャル・ウェルビーイング検定」を全面監修。
ファイナンシャルリサーチ代表。草創期から30年以上にわたり活躍するファイナンシャルプランナー。これまでに受けた家計の相談件数は数知れず。「金融商品オタク」を自称し、幅広い金融商品の知識を持つ。
(佐藤由紀子)
[日経マネー2025年1月号の記事を再構成]
【連載「1億円達成の黄金律」過去記事】
- (1)令和時代の老後資金づくりとは? 編集部員が激論
- (2)老後のお金を「見える化」 堅実な生活でも3000万円不足
- (3)老後資金1億円へ、年金受給額の決まり方知れば損しない
- (4)年金の「実像」は意外に額多く 三大作戦でさらに増やす
- (5)年収106万円の壁・高齢者の「壁」…クイズで学ぶ年金議論
- (6)若者世代の公的年金、低成長でも維持 女性は受給額増加
- (7)NISAとiDeCo、年代別使い分け術 取り崩しも工夫
- (8)年齢と「希望の老後」で選ぶ投資術 堅実シニアは配当株
- (9)積み立て投資「皮算用」に注意 それでも現役世代に有効
- (10)大幅高狙いの個別株投資 選び方は「残り期間」で変わる
- (11)資産寿命、長持ちの秘訣は「賢く働き、賢く使う」
- (12)65歳以上も働き続ける秘訣 働く目的・ペースを明確に
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2024/11/21)
価格 : 930円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)
資産形成に役立つ情報を届ける月刊誌『日経マネー』との連動企画。株式投資をはじめとした資産運用、マネープランの立て方、新しい金融サービスやお得情報まで、今すぐ役立つ旬のマネー情報を掲載します。