頭部の負傷は生死を分ける…!八ヶ岳・行者小屋のカモシー番長に聴くヘルメット着用のススメ(2ページ目)
2023/11/01 更新
それでも師匠がぼやくということは……。
あらためてヘルメットレンタルを始めた経緯についてお話されてはいかがでしょう?
そもそも俺の存在意義をみんながわかってくれているのか、不安になる時があるんだな。
安全登山啓発キャラクターとして、あらためてヘルメットレンタルに込めた想いを紹介しよう。
ヘルメットレンタルのきっかけは悲しい事故
ヘルメット以外にも、前爪付アイゼン・厳冬期用シューズ・アイスアックス(アイスクライミング用のピッケル)などもレンタルしておる。
それが通年レンタルに変わったのは、何か理由があったのでしょうか。
小屋番たちが駆け付けて、止血などの応急手当を行なった。
その登山者はとても意識が高く、八ヶ岳以外の着用推奨山域ではきちんとヘルメットを被っていたそうだ。
しかし、実は外傷だけでなく頭蓋骨の陥没骨折を負っていて、数日後に亡くなってしまったんだよ。
「登山は危険・ヘルメットは当たり前」という意識
身体むき出しのマシンに乗り、直線コースでは150km/hくらいのスピードで走るこの競技の危険性はご存知かな?
一歩間違えば自分たちの命の危険があることを理解しているからこそ、彼らにとってヘルメットは着用して当たり前であり必須のアイテムなんだよ。
若い登山者に親近感を持って「安全登山」を伝えたい
一人でも多くの人に安全に登山を楽しんで欲しい、色々な事情で装備が揃っていない人を手助けしたい…そんな気持ちで、ここまでレンタルを充実させてきたんだ。
登山者のみんながSNSで俺の顔を見るたびに「楽しい登山に潜む危険」と「安全に対する備えの大切さ」を思い出してくれると嬉しいな。

今回の取材にご協力いただいた赤岳鉱泉・行者小屋の柳沢太貴さん。若き小屋番として、SNSで積極的に情報発信を行っています。
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赤岳鉱泉や柳沢太貴さんのエピソードをもっと知りたい方は、こちらの記事もぜひご覧ください!
赤岳鉱泉・行者小屋公式ホームページ
あると安心・安全!ヘルメット着用オススメの山
頭部を負傷する可能性がある、ヘルメット着用が望ましい山(シチュエーション)を以下に挙げてみました。
いずれもヘルメットの着用必須の山ではありませんが、同じ様なシチュエーションの山でヘルメット着用を検討する判断材料にしてください。
難所(岩場・鎖場など)がある山

▼鎖・ハシゴ・ロープなどが設置されている
▼三点支持(三点確保)で腕も使って攀じ登る必要がある
こうした「難所」がある山は、標高の高低に関わらず全国に存在。当然ながらこうした登山道では、転倒・滑落のリスクが高まります。
登山者が多く人工落石のリスクが高い山
7月から8月に登山者が集中する富士山では、登山者による渋滞が発生することも。登山道も浮石の多いガレ場であり歩き慣れていない登山初心者も多いため、人工落石の危険性は常に存在します。混雑した登山道で落石に遭遇したら、避けようがありません。
雪渓を通過する山
標高が高い日本アルプスや緯度が高い北海道・東北など北日本では、夏でも雪渓がある山が。その多くは陽の射す時間が短いすなわち深い谷状の地形なので、両側の斜面からの落石に注意が必要です。
雪の上をバウンドしながら転がる落石は音が小さいため、気付いた時には目の前!ということも…。
活火山
2014年の木曽御嶽山の噴火では時速数百キロの噴石が降り注ぎ、多くの登山者の生命を奪いました。2024年8月現在、日本百名山のうち噴火警戒レベル2(火口周辺規制)になっているのは浅間山のみ。
しかし、木曽御嶽山は噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)の状態で突然噴火したのです。日本には111もの活火山があるので、登山前にその山が活火山であるのかをチェックしてから出かけましょう。
気象庁ホームページ 火山
森林限界上の雪山
前爪付きアイゼンやピッケルが必要な本格的な雪山、中でも森林限界上では冷たい風にさらされて斜面がクラスト(ツルツルで非常に滑りやすい)状態になっていることも。もちろん、アイゼンを雪面にしっかり接地させる歩行技術、万が一の転倒時にピッケルを使った滑落停止を行う技術は、こうした雪山に挑戦する登山者が身につけるべきスキルです。
しかし実際のところそう簡単には止まりません。当然、滑落する距離は長くなります。
他人の視線は気にせず、自分の安全は自分で確保!
ヘルメット着用推奨山域の指定や木曽御嶽山の噴火が起こる前までは、ヘルメットは本格的なクライミングにチャレンジする先鋭的な登山者だけのアイテムというイメージでした。一般登山道でヘルメットを着用している登山者へは「心配性」「臆病者」という冷たい視線が投げかけられたものです。
けれども、そんなことを気にする必要はありません。自分が必要だと判断したら、迷わず着用してください。あなたの身を守ることができるのは、あなただけなのですから……。
ライタープロフィール:鷲尾 太輔
高尾山の麓・東京都西部出身ながら、花粉症で春の高尾山は苦手。得意分野は読図とコンパスワーク。ツアー登山の企画・引率経験もあり、登山初心者の方に山の楽しさを伝える「山と人を結ぶ架け橋」を目指しています。