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ニュースリリース
量子ニューラルネットワークをクラウドで体験/~量子を用いた新しい計算機が使えます~
ポイント
- 光の量子力学的な特性を用いて最適化問題の解を高速に得る「量子ニューラルネットワーク(QNN)」を装置化し、長時間安定動作を実現
- QNN計算装置をインターネット経由でユーザーが使用できる「QNNクラウドシステム」を構築
- QNNを用いた大規模最適化問題の高速計算を一般ユーザーへ公開
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の山本喜久プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 鵜浦博夫 以下、NTT) NTT物性科学基礎研究所 量子光制御研究グループの武居弘樹 上席特別研究員、本庄利守 主任研究員らのグループ、情報・システム研究機構 国立情報学研究所(東京都千代田区、所長 喜連川優 以下、NII)情報学プリンシプル研究系の河原林健一 教授、加古敏 特任准教授らのグループ、および東京大学 (東京都文京区、総長 五神真) 生産技術研究所 合原一幸 教授、神山 恭平 特任助教らのグループは、光の量子的な性質を用いた新しい計算機「量子ニューラルネットワーク(QNN)」をクラウド上で体験できるシステムを開発し、2017年11月27日より公開いたします。
インターネット、無線通信システム、交通システムなど、社会における様々なネットワークやシステムが大規模化・複雑化する現在、これらの最適化・効率化が重要な課題となっています。QNNは、光パラメトリック発振器と呼ばれる新型レーザの量子力学的な特性を生かして、様々な最適化問題の解を従来の計算機に比べて飛躍的に高速に得る新しい計算機です。今回、これまで光の実験装置であったQNNをデータセンター等に設置できる筐体に納め、光回路の安定化制御機構の導入により長時間安定に動作するQNN計算装置を開発しました。さらにユーザーがインターネットを介してQNN計算装置を使用できるQNNクラウドシステムを構築いたしました。これにより、QNNを用いた大規模最適化問題の計算メカニズムを、一般のユーザーに体験いただくことが可能となります。今後、本クラウドシステムを通してQNNのアプリケーション開発が活発化することが期待されます。
このプロジェクトは、大阪大学の井上恭 教授のグループと共同で行われています。
(2017/12/15更新)
本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
プログラム・マネージャー:山本喜久
研究開発プログラム:「量子人工脳を量子ネットワークでつなぐ高度知識社会基盤の実現」
研究開発課題:「大規模時分割多重光パラメトリック発振器に基づくコヒーレントイジングマシン」
「コヒーレントイジング/XYマシーンの原理と応用」「脳型情報処理」
研究開発責任者:武居弘樹、河原林健一、合原一幸
研究期間:平成26年度~平成30年度
これらの研究開発課題では、量子人工脳の実現に向けたハードウェアおよびアルゴリズムの開発、さらにこれらをインターネットを介して利用できるクラウドサービスの構築・運用に取り組んでいます。
■山本喜久 ImPACTプログラム・マネージャーのコメント■
本プログラムでは、現代社会の様々な分野に現れるものの現代コンピュータでは解くことが困難な大規模組み合わせ最適化問題を高速に解くことのできる量子ニューラルネットワークの開発を行っています。現代コンピュータの限界を克服する新技術として量子コンピュータの可能性に注目が集まっていますが、量子コンピュータを実現するハードウェアとしては、ゲート型、アニール型、ニューラルネットワーク型の異なる3つのアプローチがあります。インターネットを介して実機を体験できるクラウドウェブサイトとしては、IBMがゲート型15ビットマシンを、D-WAVEがアニール型2000ビット、12000結合マシンを今年に入って次々と公開しています。また、Googleも来年春にはゲート型49ビットマシンを公開する予定です。今回、日本から公開されるニューラルネットワーク型2000ビット、400万結合マシンは、世界最大規模の量子コンピュータであり、これまでの限界を30倍以上拡大した2000ビットまでの組み合わせ最適化問題が解けます。創薬におけるリード最適化、無線通信における実時間リソース最適化、圧縮センシングにおけるスパース推定、機械学習におけるボルツマンサンプリング、その他、スケジューリング、ハードウェア検証、ソフトウェア検証、など現代コンピュータの限界で技術革新が止まっている様々な分野でブレークスルーを起こすことが期待されます。
<量子ニューラルネットワーク(QNN)>
量子ニューラルネットワークは、光パラメトリック発振器(OPO)と呼ばれる新型レーザの量子力学的特性を用いて最適化問題を計算します。図1(a)に示すように、長い光ファイバリング中に配置された位相感応増幅器と呼ばれる光増幅器をオン・オフすることで、数千個に及ぶ多数のOPOパルスを生成します。このOPOパルス間に、解きたい問題に対応する相互作用を入れると、多数回の周回の後にOPOパルス群は全体として最も安定となる位相の組み合わせをとり、これが問題の答えとなります。ImPACTプログラムでは、1 kmの光ファイバリング中で発生した2000個のOPOパルスの間に、測定・フィードバックにより任意の相互作用を導入することで、最大2000要素の最適化問題を瞬時にして解くQNNを2016年に報告しています(ニュースリリース 2016年10月18日)。 今回、これまで大規模な光学実験装置であったQNNをデータセンター等に設置できる筐体に納めたコンパクトなQNN計算装置を開発しました(図1(b))。また、従来のQNN実験では、温度変動による1 kmの光ファイバの長さ変動によりOPOパルスが不安定化するため、長時間の安定動作は困難でしたが、新しいQNN計算装置では、光学システムの温度安定精度の向上と共振器位相のフィードバック制御の改良により長時間安定動作を実現し、1週間以上にわたり安定して大規模最適化計算が行えることを確認しています。
図1: (a) 量子ニューラルネットワークの概念図、(b) 筐体に納めたQNN計算装置
<QNNを体験できるクラウドシステム>
今回、長時間安定動作が実現された上記QNN計算装置を一般のユーザーに体験してもらうためにQNNクラウドシステムを構築し公開します。NIIの研究開発グループが運営・管理するこのシステムは、ユーザーが直接触れるウェブページを提供するウェブアプリケーションサーバと、神奈川県厚木市のNTT物性科学基礎研究所に設置されているQNN計算装置との計算リクエスト・結果リスポンスのやり取りを制御する計算タスク制御サーバから構成されています(図2)。これによってユーザーは、複雑で専門的技術が必要であった光学実験装置の調整を必要とせずにQNN計算装置を体験することが可能となります。今回の公開では、大規模かつ難しい組み合わせ最適化問題の一つ、Max-Cut問題について、最大2000要素からなるQNNにおいて、全ての要素間に結合があるような難しいケースをこのクラウドシステムを通じてQNN計算装置上で解くことができます。今回のQNNクラウドシステムの公開は、将来QNN計算装置を使ったアプリケーション開発のプラットフォームを実現するための最初の一歩ですが、同時に重要な一歩であり、このシステムを通してアプリケーション開発の更なる加速を図ります。
QNNクラウドシステムへのリンク
図2:QNNクラウドシステムの構成概要
<用語解説>
Max-Cut問題(最大カット問題):複数のノード(点)と、ノードを結ぶエッジ(線)からなるグラフにおいて、ノード群を2つの部分集合に分割する際、異なるグループに属するノード間に張られたエッジの数が最大となる分け方を求める問題。
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