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2016-07-02

昔話

会社の後輩のことをふと思い出したので書く。

思い出したキッカケはなんだったろう、

少なくともこんなことを何年ぶりにでも思い出すのなら、

それなりのキッカケがあったと思うのだけれど、

今しがたご飯を食べた店で80年代洋楽が流れていたせいかもしれないし

たぶん、昨晩、ReLIFE1話を見たせいかもしれない。

ReLIFEには小野屋杏というショートカットメガネキャラが出てくるけど、

の子はそんな風貌だった。

アニメだと他には「境界の彼方」の栗山未来が近いだろうか。

小さめの鼻にずり落ち気味のおおぶりなメガネ

ほぼすっぴんの顔にボサボサのショートカット

せっかくの整った顔立ちが台無しだった。

少なくとも社会人としては通勤するってレベルじゃねーぞという程度には失格ではあった。

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の子自分が4年目の時に新卒として入社してきた。

自分のいた会社は同期が3名いたけれど、3つ上に2人、

1つ下がいなくて、2つ下に2人、そんな人数しか取らない会社で、

の子が2つ下の新人に続き、自分部署に配属されてきた。

同じ部署に2年連続新人が入るなんて、と部のみなが喜んでいた。

新卒はだいたい、自分がそうであったように、他の熟練して余裕のある人につくのだけれど、

それとは別に正式ものとしてではなく、自分が時々声をかけることが求められた。

の子はその飾るという概念の欠落した相貌に似つかわしく、

媚びることも恐れることもなくそして、可愛らしい声を出すでもなく、

ごくごく普通に自分に話しかけてきた。

センパイちょっとからないことがあるんですけど」

センパイ、今ちょっと教えて頂く時間ありますか」

センパイFAX届いてました」

(そう、その頃はFAX普通に使われていた)

と常に先輩、という呼びかけで。

会社内の先輩後輩の関係にすぎないし、色気付いてないような外見のままだし、

から、異性として自分をみていたとは思えないし、単に先輩としてしか接してなかっただろうけれど、

から見ているとほんとうによく懐いていたみたいで、自分がついていた先輩にも

おまえらお似合いだから付き合っちゃえよ」

なんて何度か言われつつも、こちらも風変わりな後輩か、

よくてもせいぜい妹みたいにしか見えていなかった。

センパイ」が「おにーちゃん」だったとしても大して違和感はなかっただろう。

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職場自体は、会社部署も小さくて、みんな仲も良かったから、

オフでも年齢の近い同僚3-4人でスキーに行ったり、20人もいない部員

BBQキャンプに行ったり、というようなこともよくやっていた。

今では考えられないような職場

ある時、同僚の別荘に泊まった時に自分が朝食を調理したものの、

自分は知らなかったその子が食べられない食材が入っていて、

センパイ、私これ食べられないので残していいですか、ごめんなさい」

申し訳なさそうに言ってきたようなことがあった。

その次にそういう機会があった時はもちろんその食材を抜いて

出したわけだけど、その子はちゃんと

センパイ、覚えていてくれたんですね!ありがとうございます!!」

と喜んでくれたなんてこともあったのだった。

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彼女政治学で有名なアメリカ大学を出ていた。

ハーバードMITのように誰もが知る、というわけではないけれど、

多少アメリカへの留学を考えたことがあれば、耳にしないことのない大学だった。

高校の途中からずっと行っていたらしく、その話を聞いて、

ああ、だから普通女の子っぽく飾らないのだなと思ったのだけれど、

そんなだから独特のセンスで、

センパイソニーってあるじゃないですか、あれどういう意味なんですか」

ソニーって見るとSo New Yorkって書いてあるみたいにみえちゃって、ぷはっ」

「なにがそんなにニューヨークなんだろう、おかしくないですか?おかしいですよね!ぷははは」

などと人に話しかけておいて、ひとりで笑っていた。

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そんな彼女の経歴は時に飲み会などで苦労する理由にもなっていた。

ある時、所属していた部署カラオケに行った時に、全員が何か歌うことになった。

順次歌う中で、その子が入れた曲はBanglesの何かだったけれど、

そもそもカラオケなど歌ったことのなさそうなその子は歌えるでもなく、

困っていたので、自分が入っていって一緒に歌ったのだった。

翌日、その子が出社早々に

センパイ、昨日はありがとうございました」

って言いに来てくれたけれど、

それが最高の笑顔だったらドキッとして落ちたのかもしれなかったけど

の子は実に彼女らしい幼い笑顔ニコニコしていて、

自分としても、ああ、自分もあの曲好きなだけだから、という程度の

会話をしただけだった。

本当はそれが最高の笑顔だったんだろう、

思い出はそうやって美化されることでいい思い出たりえる。

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それから間もないある時、

そろそろその子も独り立ちさせようなんて部内が話が出ていた時、

の子も独り立ちするための準備をしていたのだろう、

センパイ、ここちょっと教えてほしいんですけど」

なんて質問が来ることが増えていた。

自分ももう若手としては十分に仕事が振られて忙しかったし、

もともと他人に頼り過ぎない文化のある会社でもあったので、

「あ、いいけど、そろそろ自分でやること覚えたらどうかな」

なんて突き放したことがあった。

の子は一瞬寂しげな顔をして、

「わかりました、センパイ

と言って自席に戻っていった。

の子はそれ以来、仕事に関して何かを自分に聞いてくることは、なくなった。

たぶん、それがその子との会社での最後の会話だったように思う。

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それから間もなく自分転職し、業界内でもトップを誇る会社に移り、

忙しさにかまけているうちに、前の会社とは疎遠になっていった。

そんな中でも、自分が辞めて数ヶ月もしないうちに、その子が辞めて、

同業他社に移るでもなく、国連機関に入ってアフリカにいったのだという話を

風の噂に耳にしたのだった。

その後も前の会社の人たちともたまに飲みに行ったりした時など、

の子話題になっても、誰も行方を知らなかった。

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それから何年も何年もして、mixifacebookが出てきて、

古い友人を探すような時に、思い出してはその子のことも検索していた。

同姓同名で、ぼかされているが似たような経歴のようで、年齢も近い、

でも見た目は全然違うような人も検索結果に出てきたりした。

まさかと思いつつ、「もしや○○年頃に、○○で働いてましたか

もしそうなら同じ頃に会社にいた○○ですけど、覚えてますか?」

と、メッセージを送ったこともあったけれど、返事が来ることはなかった。

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たぶん、これから小野屋杏や栗山未来を見るたびに思い出すような気もするけれど、

ふと思い出す昔話の、このキュンと来る感じは、とても大事ものに思える。

この彼女に関していえば、こういう感じはもうしばらく得ることはないだろう、

と思ってどこかに記しておきたかったのだった。

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