会社の後輩のことをふと思い出したので書く。
思い出したキッカケはなんだったろう、
少なくともこんなことを何年ぶりにでも思い出すのなら、
それなりのキッカケがあったと思うのだけれど、
今しがたご飯を食べた店で80年代の洋楽が流れていたせいかもしれないし
ReLIFEには小野屋杏というショートカットのメガネのキャラが出てくるけど、
その子はそんな風貌だった。
小さめの鼻にずり落ち気味のおおぶりなメガネ、
せっかくの整った顔立ちが台無しだった。
少なくとも社会人としては通勤するってレベルじゃねーぞという程度には失格ではあった。
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1つ下がいなくて、2つ下に2人、そんな人数しか取らない会社で、
同じ部署に2年連続で新人が入るなんて、と部のみなが喜んでいた。
新卒はだいたい、自分がそうであったように、他の熟練して余裕のある人につくのだけれど、
それとは別に、正式なものとしてではなく、自分が時々声をかけることが求められた。
媚びることも恐れることもなくそして、可愛らしい声を出すでもなく、
と常に先輩、という呼びかけで。
会社内の先輩後輩の関係にすぎないし、色気付いてないような外見のままだし、
だから、異性として自分をみていたとは思えないし、単に先輩としてしか接してなかっただろうけれど、
傍から見ているとほんとうによく懐いていたみたいで、自分がついていた先輩にも
なんて何度か言われつつも、こちらも風変わりな後輩か、
よくてもせいぜい妹みたいにしか見えていなかった。
「センパイ」が「おにーちゃん」だったとしても大して違和感はなかっただろう。
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オフでも年齢の近い同僚3-4人でスキーに行ったり、20人もいない部員で
BBQやキャンプに行ったり、というようなこともよくやっていた。
今では考えられないような職場。
ある時、同僚の別荘に泊まった時に自分が朝食を調理したものの、
「センパイ、私これ食べられないので残していいですか、ごめんなさい」
と申し訳なさそうに言ってきたようなことがあった。
その次にそういう機会があった時はもちろんその食材を抜いて
出したわけだけど、その子はちゃんと
「センパイ、覚えていてくれたんですね!ありがとうございます!!」
と喜んでくれたなんてこともあったのだった。
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ハーバードやMITのように誰もが知る、というわけではないけれど、
多少アメリカへの留学を考えたことがあれば、耳にしないことのない大学だった。
ああ、だから普通の女の子っぽく飾らないのだなと思ったのだけれど、
「センパイ、ソニーってあるじゃないですか、あれどういう意味なんですか」
「ソニーって見るとSo New Yorkって書いてあるみたいにみえちゃって、ぷはっ」
「なにがそんなにニューヨークなんだろう、おかしくないですか?おかしいですよね!ぷははは」
などと人に話しかけておいて、ひとりで笑っていた。
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そんな彼女の経歴は時に飲み会などで苦労する理由にもなっていた。
ある時、所属していた部署でカラオケに行った時に、全員が何か歌うことになった。
順次歌う中で、その子が入れた曲はBanglesの何かだったけれど、
そもそもカラオケなど歌ったことのなさそうなその子は歌えるでもなく、
困っていたので、自分が入っていって一緒に歌ったのだった。
翌日、その子が出社早々に
って言いに来てくれたけれど、
それが最高の笑顔だったらドキッとして落ちたのかもしれなかったけど
自分としても、ああ、自分もあの曲好きなだけだから、という程度の
会話をしただけだった。
本当はそれが最高の笑顔だったんだろう、
思い出はそうやって美化されることでいい思い出たりえる。
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それから間もないある時、
そろそろその子も独り立ちさせようなんて部内が話が出ていた時、
その子も独り立ちするための準備をしていたのだろう、
なんて質問が来ることが増えていた。
「あ、いいけど、そろそろ自分でやること覚えたらどうかな」
なんて突き放したことがあった。
その子は一瞬寂しげな顔をして、
「わかりました、センパイ」
と言って自席に戻っていった。
その子はそれ以来、仕事に関して何かを自分に聞いてくることは、なくなった。
たぶん、それがその子との会社での最後の会話だったように思う。
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それから間もなく自分は転職し、業界内でもトップを誇る会社に移り、
忙しさにかまけているうちに、前の会社とは疎遠になっていった。
そんな中でも、自分が辞めて数ヶ月もしないうちに、その子が辞めて、
同業他社に移るでもなく、国連機関に入ってアフリカにいったのだという話を
風の噂に耳にしたのだった。
その後も前の会社の人たちともたまに飲みに行ったりした時など、
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それから何年も何年もして、mixiやfacebookが出てきて、
古い友人を探すような時に、思い出してはその子のことも検索していた。
同姓同名で、ぼかされているが似たような経歴のようで、年齢も近い、
まさかと思いつつ、「もしや○○年頃に、○○で働いてましたか?
もしそうなら同じ頃に会社にいた○○ですけど、覚えてますか?」
と、メッセージを送ったこともあったけれど、返事が来ることはなかった。
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たぶん、これから、小野屋杏や栗山未来を見るたびに思い出すような気もするけれど、
ふと思い出す昔話の、このキュンと来る感じは、とても大事なものに思える。
この彼女に関していえば、こういう感じはもうしばらく得ることはないだろう、
と思ってどこかに記しておきたかったのだった。
メッセージ送るのキモくね?