日本の転職希望者に多い「甘い願望」 彼らに見えていない垂直型キャリアとは(J-CAST)
日本の方とお話しすると、将来何がやりたいか、というと、たいがいは、こういう答が返ってくるんですね。
「戦略的なシゴト」
これは十中八九そうなんです。もちろん日本企業だと、意思決定の中枢にかかわるようなポジションに上がれるまでに何十年とかかるわけで、いつまでも末端の仕事に関わっているうちに痺れを切らしているというのもあります。
が、では戦略的な仕事ってなんですか?ときくと、たいがいは
「戦略立案や、財務、マーケティング」
だといいます。いわゆるMBA的なものなんですよね。今やっている仕事はITだったり、原材料の調達だったり、製品の設計だったり品質管理だったりするんですが、やりたいことは、みんな、戦略、財務、マーケティング、もうこの3つしか喋りません。
とまぁ、こんな話もあるわけですが、日本的雇用の慣行を鑑みるなら無理からぬことではないでしょうか。大半は「MBA的な」仕事に携わることなくキャリアを終えるであろう社員に対しても「経営的視点を持て」と要求するのが我が国の職場というものです。そして「MBA的な」ポジション「以外」は非正規に置き換えたい、トウが立ったらリストラしたいという欲望を全く隠せていないのが財界筋ですから。年金受給年齢まで生き残りたければ必然的に「MBA的な」キャリア志向になってしまうのは致し方ありません。日本の会社に適用した結果が上記引用した回答となって表れただけの話です。
And when we were good
アメリカで3.11同時多発テロが起こったとき、社会的な嫌疑の対象となったのは「ブッシュ家とも付き合いのある富豪一家」ではなく「イスラム教徒あるいは中東系の人」でした。そしてコロンバイン高校で銃乱射事件が起こったときに問題行動とされたのは犯人がマリリン・マンソンのCDを聞いていたことであって、犯行直前までボウリングに興じていたことではありませんでした。世間の耳目を集める事件の容疑者が浮かび上がったとき、周りの人間が何に注目したがるかは世情を映す鏡と言えます。
You just close your eyes
容疑者の国籍に注目したがる人もいれば、容疑者の趣味志向(たいていはゲームかアニメ)に注目したがる人もいて、その辺は純然たる「受け止める側の好み」でしかないのですけれど、何となく「流れ」が作られてしまうこともあるわけです。かつてJTが中国の工場に作らせていた冷凍餃子から毒性の強いメタミドホスが検出されたとき、日本人の多くは「JT」という販売者ではなく「中国」という工場の所在地に注目することを選びました。そして今度はマルハが群馬県の工場に作らせていた冷凍食品から、本来であれば農薬のマラチオンが検出されました。容疑者の身柄が確保されたとのことですが、我々の社会は容疑者の何に焦点を当てたがっているでしょうか?
So when we are bad
冷凍食品に農薬を混入させたとされる容疑者は契約社員であったとのこと、その雇用形態と給与を主とした待遇面に着目した報道が目立つところでもあります。事件との因果関係は改めて調べられることではあるのですが、まぁ働いても報われることのない従業員が会社側に恨みを持ち、かつ将来に絶望して犯行に及んだとすれば筋は通りやすい、納得のいく犯行動機として理解されるものとは言えるでしょう。今回の犯行が別の要因によるものであったとしても、類似の動機で類似の事件が起こるのは決して不自然なことではありません。
We'll scar your minds
給与上がらず、賞与減額=会社への不満背景か―阿部容疑者(時事通信)
冷凍食品に農薬を混入した疑いで逮捕された阿部利樹容疑者(49)は、8年前にアクリフーズに契約社員として入社し、群馬工場で一貫してピザ生地の生成を担当していた。同社によると、契約社員は時給制で、同容疑者の給与は2年前から上がっていなかったが、業務評価の結果、今年度の賞与は減額されていた。
農薬混入容疑者、好待遇求めた転職失敗 上司に直訴も(朝日新聞)
マルハニチロホールディングスの子会社が製造した冷凍食品から農薬が検出された事件で、子会社アクリフーズの契約社員、阿部利樹容疑者(49)=偽計業務妨害容疑で逮捕=が好待遇を求めて転職を試みたが失敗していたことが、捜査関係者への取材でわかった。上司に待遇改善を直訴していたことも判明。群馬県警は蓄積した待遇への不満が事件の動機になった可能性があるとみて調べる。
ここで中国人だったら、集団で蜂起して工場を封鎖、工場長を監禁して賃上げを迫るぐらいはやってくれそうです。ところが日本人はガバナビリティすなわち統治「される」能力が高いですから、そこまでの強硬手段には出ない、何か行動を起こすにしても個人的に解決に動くわけです。その一つが転職活動なり上司への直訴で、こんな程度は会社としては恐くも何ともない、労働者側の団結を防ぐことができて会社としては社員の管理に成功していたと、そうふんぞり返っていたのではないでしょうか。しかし、世界に冠たる超軍事大国のアメリカでも自爆テロまでは防げないように、社員の押さえ込みが得意なつもりの会社でも従業員が非合法な手段に踏み込んできたらただでは済まないということが今回の件からも分かります。
「誠意は言葉ではなく金額」とは偉大なる野球選手・福留孝介の言葉です。雇用側が誠意を見せないのですから、雇われる側の士気が下がるのは当然です。「And when there's no future, how can there be sin?」と、セックス・ピストルズは歌いました。8年も継続して働き続けてきたのに、いつ追い出されるかも知れない契約社員のまま留め置かれている、しかも本人が結構な年齢にさしかかっているとあらばヤケを起こす人がいても当然と言えます。冒頭で挙げた「戦略的なシゴト」の外にいる人の給与を抑え込み、雇用の保障や昇進・昇給の機会まで剥奪することで日本の企業は利益を確保してきましたが、そのツケを様々な形で払わされるケースは将来的に増え続けることでしょう。