読書感想289 反日種族主義との闘争
著者:李栄薫 金洛年 車明洙 金容三 朱益鐘
鄭安基 李宇衍 朴尚厚
出版年: 2020年5月
邦訳出版年: 2020年9月
出版社: (株)文藝春秋
☆☆感想☆☆☆
本書は昨年出版された「反日種族主義」に対する数多くの批判の中で、重要だと思われるものを選んで反論したものだと李栄薫氏は述べている。構成は次のとおり。
プロローグ:幻想の国
第1編 日本軍慰安婦
第2編 戦時動員
第3編 独島
第4編 土地・林野調査
第5編 植民地近代化
特別寄稿:作られた中国の反日感情
エピローグ:悪い風俗、浅薄な文化、国家危機
まず、李栄薫氏は前作の「反日種族主義」を刊行したことで、大きな解放感を味わったことと、韓国社会から受けた大きな恩恵への最小限のお返しができたことに安堵したと語っている。各編は前作よりも具体的詳細に論述している。それはそれで興味深いが、プロローグで韓国という国の精神文化のあり方が紹介されている。特異な精神文化だ。
ここでは、文大統領の「中国と我々は運命共同体だ」という発言に見られる中世起源の幻想に大統領だけでなく多くの国民が支配されていることはなぜなのかと問う。朝鮮王朝が滅びた後も、国土を中国の一部、国体を中華帝国の一環であるかのごとく感じ取る“文化遺伝子”は生き残ってきたからだという。朝鮮王朝は中国の明の諸侯国として樹立され、朝鮮の支配層は自分たちの国土さえも次第に中国的な風景であるように感じ取るようになっていった。洞庭湖を境にした湖南と湖北を模して、防波堤として作られた碧骨提を洞庭湖に見立て全羅道を湖南とよび、その北側の忠清道を湖西と呼んだ。さらに壬辰倭乱に援軍を派遣してくれた明の万暦帝、朝鮮という国号を下賜した洪武帝、明の最後の皇帝である崇禎帝を宮中の後苑に祭り、年間7回も祭祀を行った。祭祀を通じて18~19世紀の朝鮮王朝は消滅した明の皇室の一員に昇格し、中華の嫡統を受け継いできたのだ。中国と精神において一体化した。そして親中事大主義として復活したのが文大統領の「運命共同体」だという。それに対して蛮族の日本には反日種族主義で応じるのも朝鮮時代から引き続く“文化遺伝子”ゆえだという。
さらに文大統領をはじめとした「民主化勢力」の歴史観も中国を世界の中心とみなす朝鮮王朝の“文化遺伝子”の複製版だと指摘している。1970年代に出版された「転換時代の論理」「八億人との対話」、1980年代の「解放前後史の認識」。これらの著作が「民主化勢力」の歴史観を完成させたという。中国はヒューマニステックな革命の国で、北朝鮮は物質的には貧しくても精神的には豊かな国なので、韓国の物質と北朝鮮の精神を統合する必要があり、低い段階の連邦制を通じた平和統一こそ、韓国が実現できなかった民族・民主革命の道だという。
こうした視点は理解しがたい文政権を歴史的な視野から理解する一助になるだろう。